電通最新データから広告売上の変化をグラフ化してみる(2009年1月度版)
2009年02月07日 12:00
日本国内における広告代理店最大手の[電通(4324)]は2009年2月6日、同年1月単月度の売上高を発表した。それによると全社売上は955億8500万円となり、前年同月比で91.7%の値にとどまったことが明らかになった。急速な景気後退が足を引っ張る形で既存四大メディアとされる新聞・雑誌・ラジオ・テレビいずれも-7~-20%強ほどの規模縮小を見せる一方で、新メディア媒体の売上高は1割以上の伸びを見せるなど、「時代の流れ」を感じさせるデータとなっている(【発表リリース、PDF】)。
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1月単月度の売上高総計は955億8500万円。テレビの売上がもっとも大きく476億4800万円を占め、テレビという媒体が(既存四大メディアの中でも、そして全体においても)いかに大きなメディアであるか、そして多くの広告費を展開しているかが分かる。特に今月はテレビの割合が目立つ。全体の広告費の約半分が、テレビからによるものという現実があらためて確認できる。
電通・2009年1月単月度売上高(億円)(既存四大メディアは赤で着色)
ちなみにいくつか解説を加えておくと、
・「テレビ」はタイム広告とスポット広告の合計
・「OOHメディア」とは「Out of Homeメディア」のことで、交通広告や屋外広告などのこと
・「インタラクティブメディア」とはインターネットやモバイル関連メディアを意味する(要は「インターネット」)
・「クリエーティブ」とは制作部門によって考案、計画、制作された(独自)コンテンツのこと
・「その他」には衛星その他のメディア、メディアプランニング、スポーツ、エンタテインメント、その他コンテンツの業務を意味する
である。
1月単月となるが、全体に占める各項目の売上構成比を見ると、テレビだけで約半分、既存四大メディアが合わせて三分の二を占めているのが把握できる(66.4%)。テレビの広告費の大きさは「広告代理店にとってテレビは運命共同体・一蓮托生である」ことが再確認できる。
電通・2009年1月単月度売上高(全体に対する構成比)(既存四大メディアはチェック模様)
印象的には既存4大メディア2・その他メディア1といったところで、新メディアに該当する「インタラクティブメディア」などはけし粒程度にしか見えない。しかしこのデータを、同時に公開されている前年同月比で見ると、違った印象を受けることができる。
電通・2009年1月単月度売上高(各項目ごと・前年同月比)
既存4大メディアはいずれも前年比で大きな減少を見せている。そしてその他メディアも減少は免れていないが、インタラクティブメディアと「その他」部門だけが前年同月比で大きな躍進を果たしている。
そしてさらに、過去一年間分+αのデータをさかのぼり、業務別の前年同月比比較をグラフにしてみる。
電通・業務別前年同月比推移(過去1年+α間分)
電通・業務別前年同月比推移(過去1年+α間分、全体と四大既存メディアのみ抽出)
現在の日本においては、大型媒体の広告のほとんどのやりとりが広告代理店経由で行われる。そして電通はまぎれもなく国内最大手の広告代理店。会社毎の付き合いや特性もあるが、電通の広告動向は日本国内における広告動向にほぼイコールなものと見て良い。その上で見直してみると、色々な広告事情が見えてくる。
・元々表の範ちゅう内である2008年当初から広告費は昨年度でマイナス傾向にあった。そして2008年8月にオリンピック特需があった一方で、それ以降はその反動、および景気の急速な後退で、各業務とも広告費の削減が顕著なものとなっている。
・そのような中でも、より少ない予算でより効果的なレスポンスが期待できる「インタラクティブメディア」、手堅い「OOHメディア」などは減少率が少ない。
・ただし「OOHメディア」は今月に限れば減少率が大きい。これが単月だけの減少ならばたまたまと片付けられるが、今後も続くようならば本格的に企業が広告費の削減を意図していることになる。
・インタラクティブメディアはほとんどの月で前年同月比でプラスを維持している。
・全社売上高動向は「テレビ」の売上に左右されるところが大きい。これは「テレビ」単独で約半数の売上を占めているからであり、変動率もほぼ連動している。
・その「テレビ」は起伏が激しい。番組改編や世情的なイベントに寄るところが大きいからかもしれない。
・既存四大メディアの中でも紙媒体系の2種(「新聞」「雑誌」)の凋落ぶりが目立つ。特に「新聞」はオリンピック特需の恩恵を受けておらず、1月においても他メディアの多くが「前年同月比」における前月との比較で増加傾向を見せているのに、「新聞」は4大既存メディアでは大きく下落したまま。
特に「雑誌」「新聞」の売上減は無視できないものがある。管理を行い中間マージンを取る電通などの広告代理店はもちろん、最終的に広告を発信して広告料をいただく新聞・雑誌自身にとっても頭の痛い問題であるはずだ。
また、売上構成比で過半数を占める「テレビ」も状況はあまり思わしくない。当サイトでも何度か記事にしているが、本事業である広告収入が首も回らない状態となりそれはそのまま電通などの広告代理店の収益にも連動している。唯一今後も伸びが期待できるインタラクティブ関係の広告は、伸び率は先が期待できるが、規模はまだまだこれから成長過程にある段階で、「テレビ」などの他メディアの損失分を穴埋めするほどではない。
財務状況の悪化が、今後の
広告費の配分を一層シビアな
ものにしていく。
今月のデータで目だったのは、「その他」部門の存在。これが前年同月比で実に5割以上の伸びを見せている。金額も90億円近くとそれなりに大きく、「額が小さいから比率が大きくなった」という理由も当てはまらない。昨年の1月は「その他」部門が跳ねている傾向はないので、「1月は(例えば正月だから)この部門が必ず突出する」というわけでもない。「衛星その他のメディア、メディアプランニング、スポーツ、エンタテインメント、その他コンテンツの業務」のいずれがカギとなったのかはこのデータからだけでは分からないが、「たまたま大ヒットな案件を確保した」のか「経営資源の配分を『その他』にも多めに割り振った結果が出た」のかもしれない。
すでに各種報道や【電機大手の決算予想をグラフ化してみる】、【日本の広告宣伝費上位20社の広告費をグラフ化してみる+α】にもあるように、景気後退の流れを受けて各社は大きく決算予想を大幅に下方修正し、財務上で非常に厳しい立場に追いやられている。当然、広告宣伝費も来年度以降大幅な(現在よりも、だ)削減が行われるに違いない。各メディアへの広告出稿費の変化も、これまで以上にシビアなものとなり、それは電通など広告代理店の売上にもダイレクトに響いてくるだろう。
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