職種別有効求人倍率をグラフ化してみる(2008年12月データ版)
2009年02月12日 06:30
昨年末から色々と騒がれだした派遣社員をはじめとする非正規雇用者の就業問題は、予想通り正規社員にまで波及し、大きな社会問題と化している。先に【職種別有効求人倍率をグラフ化してみる】を掲載した際は、まさに例の「派遣村」がマスコミによって大きく取り上げられていた時期でもあり、その記事の文末で触れた「(執筆当時における)今現在のデータを元にした現状を示すグラフ」が求められていた。その「派遣村」も色々と内情が暴露されるなどで急速に報じられる機会も少なくなったが、当時の雇用情勢の一端を知る良い機会でもあるので、ここに職種別有効求人倍率・2008年12月分データ版を掲載することにした。
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「世間一般に「仕事」(新規雇用以外)はまったくないのだろうか」という問いには、前回の記事で明確に「ノー」が出ている。もちろん「求人倍率の高い職種は短期間だったりキツい仕事だから当然」「短期間で辞める人が多い職種だから、回転率の問題で倍率も高くなる」という反論もある。しかしそれでは「1.0倍以上の職種はすべてキツくてツラくてすぐに辞めたくなる職種だけなのか」「そもそも仕事がキツい・ツラいの線引きはどのように、誰が行うのか」という問いかけに対する明確な答えはない。
ともあれ、グラフ化をはじめよう。有効求人倍率そのものは
「公共職業安定所(ハローワーク)に申し込まれている求人者数」÷「求職者数」
で算出されるため、1倍を超えていれば「企業が大勢の求人をしている」ことになり、職にあぶれる人はいない計算になる。1倍未満なら求職者の方が多いから、他のすべての条件がすべて合致しても、職にあぶれる人が出てくる(実際にはミスマッチがあり、そのようにうまくはいかない)。また、ハローワークに登録していることが大前提になるため、独自に就職活動をしている人はこのデータには反映されない。
例えば100人の村に工場が1つだけあり、そこで10人の求人があったとする。そこに100人の村人全員が求職すれば、 10÷100=0.1 で、有効求人倍率は0.1となる。
まずは【東京都のハローワークの統計データ】を元に、各職種の有効求人倍率を調べ、グラフ化する。
東京都職種別有効求人倍率(2008年12月、一般常用)
ちなみに「一般常用(雇用形態)」とは日本標準産業分類によれば、「期間の定めなく、あるいは一定期間を超えて雇用されている者」を指す。特筆していない限りパートやアルバイトは含まれない。正規・契約・派遣で期間の定め無し、と認識すればよいだろう。また「分類不能の職業」とは一般区分化できないもの(例えばテキヤさんなど)が挙げられる。
全体では0.88倍という値が出ているが、これは前回11月分のデータとくらべて0.02ポイントの減少を示してる。その一方で「保安の職業」(ガードマン)「福祉関係の職業」(介護など)「IT関係の職業」(技術、操作、製造)は2倍以上の値で、中には11月よりさらに数字を増している(=引く手あまた状態が加速化している)。
もっとも「管理的職業」「生産工程・労務の職業」(各種工場での製造、修理、運転)など、特定の資格や技術をあまり必要としない職種には多くの求職者が集まる一方で求人が少なく、倍率が低くなっていることが確認できる。このあたりの事情も先月同様だが、倍率がさらに下がっているところを見ると、ますますこの職種での就職活動が困難を極めていることが理解できる。
続いて職種を細分化し、求人倍率の高いものと低いものを抽出してみる。
細分職種別有効求人倍率(東京都2008年12月、一般常用)
高いものは3.0倍以上、低いものは0.3倍以下の職種のみを抽出した。中には6倍以上(求職者1人に対して6人以上もの求人がある)、低いものでは0.13倍(求職者8人近くで求人が1人分しかない)と、かなり大きな開きが見受けられる。また、それぞれを見比べてみると
・求人倍率が高い(企業から引く手あまた)
……資格や免許、高度な技術が求められるもの
……「キツい仕事」というイメージが強いもの
……11月分と比べてより求人倍率が増えている(求人数の増加・求職者の減少)
・求人倍率が低い(求職者に対して仕事が枯渇している)
……作業重度の低いもの
……特定の資格や免許、高度な技術を必要としない(と思われている)もの
……11月分と比べてより求人倍率が減っている(求人数の減少・求職者の増加)
などの傾向が見られる。後に再度まとめるが、雇用のミスマッチがさらに加速していると見なすこともできよう。
東京都だけでは傾向が片寄っている可能性もある。そこで「最新の非正規労働者の失職状況をグラフ化してみる」で失職者数上位となった【愛知県】と【長野県】双方において、職種別有効求人倍率を同じくグラフ化することに。地域によってデータの取り扱われ方、公開頻度が異なるので、互いの整合性がとれているわけではないが、参考程度には使えるはず。
愛知県職種別有効求人倍率 (2008年12月、パートを含む一般常用)
長野県職種別有効求人倍率(2008年12月、パートを含む一般常用)
東京都のデータと順位、区分に多少の差異が見られる部分もあるが(愛知は2008年12月時点ですら、まだ求人倍率が1倍を超えている!)、有効求人倍率の高低が生じる職種については同じような傾向なのがはっきりと分かる。すべての職種で求人が皆無となり、どこを見ても求職のチラシを見つけることができないという、まるで1920年代の大恐慌時代の情景を描いた、チャップリンの映画『犬の生活』のような状況とはかけ離れている。
今回グラフ化したデータは2008年12月のもの。もちろんハローワークが把握したデータでしかないため、雇用状況全体とは多少のずれはあるはず。しかし各種報道で「派遣切り」「派遣村」が騒がれるようになった12月時点のデータにおいても、これだけの数字が出ていることが確認できた。
やはり今データを見ても、以前OECDのレポートを元にした記事【OECDの雇用問題レポートをグラフ化してみる】や、派遣社員の問題を取り上げた【「正社員として採用されないから……」派遣社員が派遣社員である理由】でも指摘した、労働市場における「需要と供給のミスマッチ」、これが根底にある可能性はきわめて高い。さらに11月と今回の12月のデータを比較すると、この「ミスマッチ」がさらに加速している感すら見受けられる。
ましてや今や、正社員の少なからずの人たちですら、解雇のリスクを多分に抱えているような情勢。「ミスマッチ」は求職側にも求人側にも不幸な話でしかない。前回の記事で提案した「各地方自治体なり政府なりによる緊急職業説明会」をはじめ、使える手立ては片っ端から導入し、ほんの0.1%でもミスマッチを解消する努力をするべきではないだろうか。
不幸な状態の人が少なくなるだけでなく、人材が不足している企業を手助けすることにもなる。雇用不安解消にも一役買える。さらに内需の拡大も見込める。決して悪くない話だとは思うのだが。
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