職種別有効求人倍率をグラフ化してみる
2009年01月06日 19:40
先日【求人倍率の変化をグラフ化してみる】や【最新の非正規労働者の失職状況をグラフ化してみる】を記事化したこともあるが、昨今各種報道で雇用、特に非正規労働者の問題が取り沙汰されている。不運にも望まない形で失職してしまい、新たな職の手当てが無い方の心中は察するにあまりあるものがある。が同時に、報道の仕方などもあるのだろうか、どうも心の中でしっくりこない、わだかまりを感じているのも事実。そこで機会を見つけて関連するデータをグラフ化し、感情論抜きで数字(とそれを元に生成されるグラフ)からながめて、その「もやもや」を少しでも晴らすことにする。せっかくだからこのように記事にもしてみたというわけだ(笑)。
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さて、伝えられている話を断片的に拾い集めた限りでは、スポットライトをあてられている人たちの多くは派遣先から派遣契約を打ち切られ、次なる派遣先を与えられない状態にある。単に派遣案件そのものが枯渇しているのか、それとも本人の能力・希望条件に合致した案件がないのか、どちらかによるものと想定される。そしてそもそも論として「自ら望んで派遣」という業態を選んだのならともかく、「正規でも派遣でも働けるのなら」との判断であるとすれば、正規社員としての雇用先を求める選択肢もあろう。
それでは実際、世間一般に「仕事」(新規雇用以外)はまったくないのだろうか。
確かに「求人倍率の変化をグラフ化してみる」では、直近の全国における有効求人倍率は0.76倍で1倍を切っている。有効求人倍率そのものは
「公共職業安定所(ハローワーク)に申し込まれている求人者数」÷「求職者数」
で算出されるため、1倍を超えていれば「企業が大勢の求人をしている」ことになり、職にあぶれる人はいない計算になる。1倍未満なら求職者の方が多いから、他のすべての条件がすべて合致しても、職にあぶれる人が出てくる(実際にはミスマッチがあり、そのようにうまくはいかない)。また、ハローワークに登録していることが大前提になる。
例えば100人の村に工場が1つだけあり、そこで10人の求人があったとする。そこに100人の村人全員が求職すれば、 10÷100=0.1 で、有効求人倍率は0.1となる。
そこで早速、【東京都のハローワークの統計データ】を元に、各職種の有効求人倍率を調べてみることにした。
東京都職種別有効求人倍率(2008年11月、一般常用)
ちなみに「一般常用(雇用形態)」とは日本標準産業分類によれば、「期間の定めなく、あるいは一定期間を超えて雇用されている者」を指す。特筆していない限りパートやアルバイトは含まれない。正規・契約・派遣で期間の定め無し、と認識すればよいだろう。また「分類不能の職業」とは一般区分化できないもの(例えばテキヤさんなど)が挙げられる。
全体では0.90倍という値が出ているが、その一方で「保安の職業」(ガードマン)「福祉関係の職業」(介護など)「IT関係の職業」(技術、操作、製造)は2倍以上の値を示している。もっとも「管理的職業」「生産工程・労務の職業」(各種工場での製造、修理、運転)など、特定の資格や技術をあまり必要としない職種には多くの求職者が集まる一方で求人が少なく、倍率が低くなっていることが確認できる。
続いて職種を細分化し、求人倍率の高いものと低いものを抽出してみる。
細分職種別有効求人倍率(東京都2008年11月、一般常用)
高いものだと6倍近く(求職者1人に対して6人近い求人がある)、低いものでは0.13倍(求職者8人近くで求人が1人分しかない)と、かなり大きな開きが見受けられる。また、それぞれを見比べてみると
・求人倍率が高い(企業から引く手あまた)
……資格や免許、高度な技術が求められるもの
……「キツい仕事」というイメージが強いもの
・求人倍率が低い(求職者に対して仕事が枯渇している)
……作業重度の低いもの
……特定の資格や免許、高度な技術を必要としない(と思われている)もの
などの傾向が見られる。
東京都だけでは傾向が片寄っている可能性もある。そこで「最新の非正規労働者の失職状況をグラフ化してみる」で失職者数上位となった【愛知県】と【長野県】双方において、職種別有効求人倍率を同じくグラフ化することに。地域によってデータの取り扱われ方、公開頻度が異なるので、互いの整合性がとれているわけではないが、参考にはなるはずだ。
愛知県職種別有効求人倍率 (2008年11月、パートを含む一般常用)
長野県職種別有効求人倍率(2008年10月、パートを含む一般常用)
東京都のデータと順位、区分に多少の差異が見られる部分もあるが(愛知は11月時点でまだ求人倍率が1倍を超えている!)、有効求人倍率の高低が生じる職種については同じような傾向なのがはっきりと分かるだろう。すべての職種で求人がまったくなく、どこを見ても求職のチラシを見つけることができないという、まるでチャップリンの映画『犬の生活』のような状況とはかけ離れている。
今回グラフ化したデータは2008年10月・11月のものであり、各種報道で騒がれるようになった12月時点のものではないため、今現在と比べればまだ「甘い」状況の可能性は高い(これについては2月以降、データが更新された時点で再検証を行う必要があるだろう)。
しかし今データを見ても、以前OECDのレポートを元にした記事【OECDの雇用問題レポートをグラフ化してみる】や、派遣社員の問題を取り上げた【「正社員として採用されないから……」派遣社員が派遣社員である理由】でも指摘した、労働市場における「需要と供給のミスマッチ」、これが根底にある可能性は高い。
例えば、「派遣村」の方々もあわせ、東京ドームなど大きな面積のとれるところに集め、そこで各地方自治体なり政府なりが緊急職業説明会を一斉に開催してみてはどうだろうか。ほんの0.1%でもミスマッチが解消されるのなら、それだけ不幸な状態の人が少なくなるはずである。人材が不足している企業を手助けすることにもなるし、雇用不安解消にも一役買える。悪くない話だとは思うのだが。
(最終更新:2013/07/31)
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