アメリカ国債の引き受け先をグラフ化してみる(2009年1月更新版)

2009年01月12日 12:00

米国債イメージ以前アメリカ合衆国(以下「アメリカ」)の国庫部門専用ページからデータを抽出して、米国債(アメリカ政府財務省発行の国債)の引受先をグラフ化した記事を【アメリカ国債の引き受け先をグラフ化してみる】で掲載したが、その後多くの読者から「データの更新版は無いのか」というお問い合わせをいただいた。例の「金融危機救済予算」の7000億ドルも当初金融セクターを救済の対象としていたのが、自動車3大企業はもとより地方の各種企業、地方自治体自身、果てはアダルト業界に至るまで「我も我も」とおねだりをする状況では「7000億ドルで済むのか、済まされるのか」という問いに疑問を投げかけざるを得ない。そしてその予算は事実上国債発行で手当てすることが確定している(増収になる見込みはなく、支出が増えるのなら、どこからか調達しなければならない。紙幣そのものを刷ってばら撒くわけにはいかないので、国の借金として国債を発行する必要がある)。と、なれば米国債の動向をチェックしたいという心境は理解できる。前回の記事からほぼ半年経過したこともあり、今回データの更新もあわせ、記事とデータの再編集を行うことにした。

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念のために確認しておくと、「国債」とは(はじめから利率分を割り引いている場合もあるが)「この証書の期限に、書いてある利息分を追加して返すので、お金を貸してください」という国の借金証明書のことを指す。英語ではTreasury securities(国庫証券)と表現する。

さてアメリカ政府財務省発行の国債こと「米国債」の引き受け先データはどこで手に入るのか。【アメリカ合衆国の国庫部門専用ページ】から入手可能。具体的には【過去のデータはこちら】【直近データはこちら】となる。直近のデータは後ほど細部が修正される場合もあるので、注意を要する(今回も一部修正を強いられた)。

該当ページには各国の保有額(新規発行額では無い)がドル単位で算出され、主要国分のデータが掲載されている。そのうち日本をはじめ、主要国上位6か国(エリア)を抽出してグラフ化したのがこちら。2000年3月から最新データの2008年10月分までが対象。毎年期間切り替えの時期があるので、その部分は差が生じないように調整をしてある。要は概要が分かればよい。金融(工学)危機が「現状では」ピークを迎えた2008年10月以降のデータが気になるところだが、現時点では11月以降のものは公開されていない。また半年ほど経過するまでのお楽しみ(!?)としておこう。

米国債の引き受け先(全体額含む)
米国債の引き受け先(全体額含む)

第一印象は「国債が借金なのは理解しているはず、だが……さらに増えてないか?」という、あっけに取られた感のある突っ込み。「2003年以降、国債額が際立って上昇しているのが分かる。ちょうどその頃、アメリカなどによる対イラク戦が始まったことから、いかに財務的な負担となっているかが理解できよう」というのは前回の記事の言い回しだが、その後わずか7か月間で500×10億ドル=5000億ドル増刷していることが分かる。カーブが直近で急上昇を描いていることからも、その急激さが把握できるはず。ドルを基準にした絶対額で見ても、日本がなだらかな下降線を描いていること、中国などがボリュームを増やしているが見てとれる(これについては後ほどまとめて言及する)。

なお※1の石油産出国は中東諸国以外ベネズエラ、インドネシアなども含む。また※2のカリブ諸国の銀行とは俗に言う「タックス・ヘイブン」なところ。実際の金主は不明、というところ。

この傾向は、全体額を除いたグラフで見るとさらに明らかになる。

米国債の引き受け先(主要国のみ)
米国債の引き受け先(主要国のみ)

いずれもドルベースであることを前提として、ではあるが、イギリスが柔軟な運用をしていたこと、ブラジルが地道に、そして2006年中盤以降猛烈な勢いで買い集めていたのが分かる。そしてそれ以上に中国が2002年中盤以降大規模な購入をしていることや、日本の保有額が少しずつだが減少しているのが一目瞭然に見て取れる。そしてこの半年ほどの間に、イギリスと中国が急速に買い増しを進め、ブラジルが下降気味なのも分かる。

これらの動向をもう少し詳しく見るために、期間を2006年1月以降に限定したグラフが次の図。

米国債の引き受け先(主要国のみ、2006年1月~)
米国債の引き受け先(主要国のみ、2006年1月~)

主要国の動向をまとめると次の通り。

・日本……漸減
・中国、イギリス……漸増。特に中国は2008年後半から急増
・カリブ諸国の銀行……急増。絶対額は少ないが、割合ではこの半年で2倍に
・ブラジル……2008年半ばを境に漸減へ


日本は運用資産のポートフォリオの組み換えをしている最中なのでアメリカ国債の保有額が漸減しているのは理解できる(ドルベース換算なので為替変動は無関係)。ブラジルが減少を始めているのは、国内の経済状態が危うくなり、米国債を買っている場合ではなくなったからだろう。

一方、中国・イギリス・カリブ諸国の銀行の増加振りが目立つ。イギリスはこの1年で2倍、カリブ諸国の銀行は半年で2倍に増加、そして中国は2008年の9月で日本の保有額を追い抜き、もっとも多くの米国債を保有している国の立ち位置を確保している。「米国債はデフォルトしない」という前提のもと、今がお買い得という判断からの選択だろうか。

それでは各国の引き受け額が発行額全体に占める割合はどのくらいで、どのような変化を示しているのか。比率それぞれの比較と、全体軸に配したグラフの双方で表してみる。

米国債の引き受け先(全体軸に配したグラフ)
米国債の引き受け先(全体軸に配したグラフ)
米国債の引き受け先(棒グラフ)
米国債の引き受け先(折れ線グラフ)

オイルマネーと呼ばれる石油産出国は意外に買い増しをしていない。その一方、日本の取得配分比率の減少分+増刷分を中国とイギリスが買い取っているのがよく分かる。


少なくとも今回のグラフを見る限り、「国債を持っている(借金証書が手持ちにある)」という意味では、アメリカに対する中国、そしてイギリスの意見力は強まっている、と考えるのが正しい(ブラジルはそれどころではなくなってしまったようだ)。

また、これらのグラフはあくまでも発行側であるアメリカの立場から見たもの。つまり繰り返しになるがドルベースでの計算なので、日本円に計算した場合の日本の米国債の保有額はもっと少なくなる(何しろこの半年の間だけで1ドルあたり10円以上の円高・ドル安が進行したのだ)。日本が対外債の購入割合・額を大幅に減らしたという話は聞いていないので(年金などで運用を弾力化し、手堅い債券から株式などに割合をスライドさせるという話はある(【年金運用、第2四半期は1.6兆円の赤字・サブプライム問題の影響色濃く】))、満期の国債を償還し、代わりに購入する新規発行の国債の量が少なくなっているのだろう。

問題なのはむしろこれから、具体的には2008年11月以降。4月から10月の時点ですらすでに全体の2割近くも増刷(約5000億ドル、約45兆円)しているのに、今後「金融危機対策予算」の手当ての工面が行われるとなれば、どこまで増刷されるのだろうか。そしてこれまで通りすべて引き受け手が現れるのか。デフォルトしないことが前提ならば、これほど美味しい金融商品はないのだが、米国債CDSスプレッドが拡大している状況を見ると、買い手も疑心暗鬼の面が出てきているようである。今後の主要国の動向を注意深く見守りたいところだ。


■関連記事:
【石油と食料品急騰で懸念されるアメリカのインフレ加速・金利引き上げの噂も】

(最終更新:2013/07/31)

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