【更新】半期が赤字に転落した産経新聞の最新版「おサイフ事情」をチェックしてみる

2008年12月27日 19:40

産経新聞イメージ以前【朝日新聞の最新版「おサイフ事情」をチェックしてみる】で日本のクオリティ・ペーパーを自負する朝日新聞の直近中間連結決算内容について吟味した。日本の新聞業界が置かれている現状をかいま見る好材料であり、お金の面から問題点などを見出すことも出来た。今回、毎日新聞と産経新聞という大手新聞社が相次いで中間短信を発表し、両社とも営業赤字に転じていることが判明。先に【半期が赤字に転落した毎日新聞の最新版「おサイフ事情」をチェックしてみる】で確認した毎日新聞に続き、今度は産経新聞について簡単ながら、公開資料をもとにチェックを入れてみることにする。

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産経新聞社(産業経済新聞社)は【フジ・メディアHD(4676)】と関連性が深いことで知られている。実際、フジサンケイグループの一員ではあるが、先に何度か特集記事を組んだ『週刊ダイヤモンド「新聞・テレビ複合不況」』などによれば「フジ・メディアHD入りを自ら断った」「東京本社の公称部数96万部前後に対して実売部数が50万部を切ったらしい」などの話がもれ伝わっている。

さて産経新聞社そのものの財務諸表は先の毎日新聞とは違い、自社サイト内でしっかりと公開されている。最新のものは[こちらになる(PDF)]。約一か月ほど前の公開である。

連結経営成績は次の通り。

売上高……808億1900万円(▲17.4%) 営業利益……▲4億3400万円(-) 
経常利益……6億6400万円(-) 中間純利益……▲19億8400万円(-)

※比率は前年同期比、「▲」はマイナス(以下同)


本業の収益(新聞売買など)である営業利益の時点ですでに赤字。これは新聞社として新聞の売買で会社継続を営まねばならない産経新聞自身にとっては大変ゆゆしき事態といえる(何かデジャヴを感じる……ちょっと前にも、一か月ほど前にも)。営業利益のマイナス額以上に経常利益、さらには中間純利益の赤字額が大きくなっているので、その他事業でも足を引っ張っているのだろう。

さらにさかのぼれる過去のデータを売上高に限って確認してみると、

・2009年9月期中間……808億1900万円(直近期)
・2008年9月期中間……978億0500万円
・2007年9月期中間……984億8900万円

と、少しずつではあるが売上が減少しているのが再確認できる(これより以前は半期報告は無し)。特に2008年中間期と2009年中間期との間で大きく売上が落ちているが、これは後述するようにサンケイリビング新聞社の全株式を売却したことにより、その分の売上がごっそり抜け落ちたのが主要因。

損益計算書を確認する

それでは以前朝日・毎日新聞の短信で行ったように、まずは中間連結損益計算書でお金の流れを確認してみることにする。

産経新聞の中間連結損益計算書(今期2009年3月期と、前期2008年3月期のそれぞれ中間決算)
産経新聞の中間連結損益計算書(今期2009年3月期と、前期2008年3月期のそれぞれ中間決算)

直前の毎日新聞の損益計算書とほぼ同じく、前年同期比の部分で「▲」、つまりマイナス項目ばかり。言い換えれば「どこもかしこも悪化している」ということになる。ただし、産経新聞の場合は毎日新聞とはやや事情が異なる部分もある。それもあわせてチェックを入れるとすれば2点。

本業である新聞事業の赤字

新聞部数の発行数減や経費削減などで売上原価が-15.9%と縮小しているが、それ以上に売上が落ち込み、-17.4%を記録している。%値もかなり大きく元々の額が巨大なため損失額が跳ね上がり、「本業の新聞事業だけで約4億3400万円の赤字」を計上している。元々損益ギリギリのところで利益を出していただけに、売上の減少は非常に痛い。また、他新聞社同様に「売上高の減少ほど売上原価や販管費が落ちていない」現象も見られる。要は売上の減少に見合った事業再構築が進んでいないわけだ(むしろ売上アップの攻勢をかけて失敗した、という解釈の方がポジティブかもしれない)。固定費などもあり、売上高と同じ割合だけ売上原価を落とすのが難しいのが厳しいところ。

仮にこのままの売上高・売上原価を維持しつつ営業利益を出すためには、販管費を現在の276億3600万円からさらに赤字分の4億3400万円削る必要がある。その場合の販管費の前年同期比は-17.8%となり、ほぼ売上高の減少分に一致する。販管費は固定費用などもあり削減が難しいが、目標値としては「売上に見合った額」という考え方は、ある意味正しいわけだ。

特別利益(・特別損失)

去年と比べて約19億円の特別利益追加計上、事業再編費発生による特別損失約17億円の追加計上が確認できる。このうち前者、特別利益については[5月15日に発表されたように(PDF)]フジサンケイグループ全体の事業構造改築のため、産経新聞が保有していたサンケイリビング新聞社の株式をすべてフジテレビジョン(当時)に売却し、この売却益を得たためである(単体の諸表注記を見ると「関係会社株式売却益3,901百万円」とあり、約39億円もの確定利益を得た計算)。ただしこれが前述したように、サンケイリビング部分の売上(サンケイリビング自身だけでなく、計7社が連結対象から外れている)を産経新聞社から減らすことになり、本業である新聞事業の規模縮小・低迷を加速化させることになる。

一方事業再編費だが、こちらは諸表を見ても「事業再編損」とだけしか書かれておらず、詳細は不明。サンケイリビング売却に伴い、あるいはその売却益を「ここぞ」とばかりに使い、内部改革に打って出た可能性もある。


「②」は額としては非常に大きいものの、これはいわば「身の切り売り」。野球チームに例えれば、ホームランバッターを他球団に金銭トレードに出し、収益を上げたが次期以降は彼による得点加算が期待できない、といった具合。もちろんこのような所業を毎年行えるわけが無く、来年以降はこのかさ上げは期待できない。

今中期は20億円弱の純損失に「達した」ではなく、むしろ20億円「で済んだ」と表現すべきで、このままの状況が続けば来期はさらに多額の赤字を計上することは想像するに難くない。

報告書の文言を確認する

続いて報告書に書かれている各種説明を抽出する……とはいうものの、実は公式サイト上の財務諸表にはその類の文言は一切無い。先の毎日新聞と同様、【EDINET】において「有価証券報告書等」から「産業経済新聞社」で検索して同様の諸表を抽出し、事業概要の説明を見ると、次のような説明を確認できる。

我が国経済は、米国の低所得者向け住宅融資「サブプライムローン」問題に端を発した信用不安が米大手証券会社の破綻を引き起こしたことで急激に減速した。

(中略)

新聞業界では、古紙取引価格高騰のあおりを受けて新聞用紙が値上げされた。引き続き第2次の値上げが検討され始めている。一方で、売り上げの大きな割合を占める広告収入は低落の一途をたどり、大手広告代理店・電通によると、各社とも前年比80%台に落ち込んでいる。朝夕刊セットを基本とする従来型の新聞販売は下降線をたどり、駅売店やコンビニエンスストアなどの1部売り即売市場の伸びも鈍化。業界環境は厳しさを加速している。


毎日新聞が「若年層が特に離れている」ことを強調したのに対し、産経新聞では業界全体を取り巻く状況が悪化していることを説明している。材料費高騰、広告離れ、新聞販売数低下など、これまでに新聞絡みで当サイトでも記事として伝えてきた話が続く。

各紙の具体的な情報も一部確認できる。例えば主軸の産経新聞では

販売戦略の見直しなどにより、朝刊約215万部、夕刊約62万部と朝夕刊とも前連結会計年度末の販売部数から漸減した。一方、新聞業界を取り巻く広告環境は厳しさの一途をたどり、広告収入は大幅に落ち込んでいる


とあり、新聞の販売部数の減少以上に広告出稿数が減っていることがかいまみれる。

一方、【iza】【当日の新聞を朝刊配達時に! 産経新聞がiPhone向け新聞配信サービススタート】でお伝えしたiPhone版無料配信のように、デジタル方面では新聞社の中では先行している同社だが、その部門においては次のような文言が見られる。

<デジタル事業>
産経新聞グループのデジタル事業を集約する(株)産経デジタルは、インターネット広告の増加と経費の削減などで大幅な増益を達成した。同社が運営する「MSN産経ニュース」や「iza(イザ!)」など5サイトは月間合計8億ページビューを記録するなど順調に推移している。「MSN産経ニュース」は産経新聞グループの完全速報体制が構築されており、新聞社系のインターネットサイトの中でも特にユーザーの注目を集めている。


少なくとも集客は順調に推移しているとの自負があり、実際それは事実であるかにも見える。ただし市場公開されている企業ではないため事業別の収益を確認することができず、果たして「デジタル事業」がどれほど収益の上で貢献しているのかを把握することはかなわない。


産経新聞は正直なところ、読売や毎日、朝日新聞と比べれば規模が小さく、そのため「新聞市場全体が縮小する中で取捨選択の際に優先順位が低く、切り捨てられる可能性が高い」ため、前年同期比における売り上げなど主軸事業の落ち込みが激しいものと思われる(これは冒頭で触れた『週刊ダイヤモンド「新聞・テレビ複合不況」』でも言及されていた)。実際、1年間で主軸事業が2割減の落ち込みを見せれば、慌てるなといわれてもムリがあるというものだ。

しかしこれもまた上記ダイヤモンド紙でも触れているのだが、「小さいからこそ小回りが利く」というのも事実。くだんの「押し紙問題」も状況改善の点では産経新聞が一歩進んでいるとの話であるし、読者がトラックバック可能な「iza」を早々に運営開始したり、先日のiPhone向け無料配信サービスを始めるなど、デジタル部門では一番進んでいるように見えるのは間違いない。

新聞イメージ財務的にはそれこそ「綱渡り」的な状態。しかし自身の立ち位置を見定め、できることをしていけば、あるいは新聞業界の荒波にもまれつつも「独自の力で」乗り越える可能性を秘めている、ようにも見える。まずは他紙に先行した経験を持つデジタル部門の収益モデルを確立し、解説文章中に数字を明記できるようにすることが、起死回生の方法といえるのではないだろうか。そのためには(一つの手段として)デジタル部門に長けた企業との提携も模索すべきかもしれない。

なお朝日、毎日、産経とくれば後は日経と読売となるわけだが、日経新聞は同じくEDINETで決算・中間ともに見つけられるものの「まだ」黒字を維持しており、解析するのは趣に欠ける。また読売新聞は決算短信しか発表しておらず、これが5月発表と随分古いものなのであまり意味を成さないことから、こちらも省略する。ただし[その読売新聞の決算短信(PDF)]によれば、やはり営業利益の時点で赤字を計上、利息や配当金、さらには引当金の戻入利益で黒字を計上しており、新聞そのものの事業は火の車状態であることが容易に想像できる。

各新聞社ともそれなりにベースとなる財力はあるため、赤字即破たんということはありえない。グループ・友好会社の協力もあり、多少の赤字なら何とかなるだろう。しかし本事業の新聞事業、さらには最終損益が赤字を計上したままでは、遅かれ早かれ手を上げざるを得なくなる。手助けしてくれるはずのテレビ会社もかなり危ない橋を渡っている以上、新聞社が現状を「正しく」見据え、それに対応すべく「変わる」ために残された時間はそれほど多くないのかもしれない。


(最終更新:2013/09/05)

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