アメリカの自動車産業に従事している人の数や年収をグラフ化してみる

2008年12月13日 12:00

自動車工場イメージすでにご存知の通り先日12月12日、アメリカの自動車企業大手ビッグスリー(GM、クライスラー、フォード)に対する資金繰支援法案が事実上の廃案となったことで、これらの企業はまた一歩破たんへの道を進むことになった。アメリカ政府では金融安定化法における公的資金活用を含めた支援策の検討に入ったが、状況は不透明でかつ流動的。下手をすると年内の運転資金すら底を尽きる可能性がある(現時点ですでに12日であるにも関わらず、だ)。このような情勢もあり、【USA TODAY】ではアメリカにおける自動車産業の状況をかいまみれる一つのデータ「自動車産業に従事する人たちの数や年収」を掲載していた。これをある程度加工すると共に、追加データと共にグラフ化してみることにする。

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自動車産業に関わる人の割合の多さ。色が濃いほど多くの人が従事している。五大湖周辺の工業地帯以外に西海岸沿いにも比較的多くの人が携わっているのが分かる。
自動車産業に関わる人の割合の多さ。色が濃いほど多くの人が従事している。五大湖周辺の工業地帯以外に西海岸沿いにも比較的多くの人が携わっているのが分かる。

上の図は自動車産業に関わる人の割合の多さを州単位で表したもの。色が濃いほど多くの人が従事している。五大湖周辺の工業地帯はもちろんだが、それ以外に西海岸沿いにも比較的多くの人が携わっているのが分かる。西海岸では自動車そのものの製造というよりは部品の卸売やディーラーが多い。

ディーラーに限った分布。五大湖周辺よりむしろ西海岸やフロリダに多い。
ディーラーに限った分布。五大湖周辺よりむしろ西海岸やフロリダに多い。

元記事によるとこのデータはブルームバーグの自動車関連調査部門における2008年10月時点のデータのもの。ほぼ最新のデータと見て良い。それによると、組立工などの直接製造に携わる者はもちろん、卸売り、ディーラーなどをも含めた「自動車産業」に関わる人の数は全部で220万1956人。ディーラーをのぞいた直接従事者に限ると109万6374人。

一方、最新の【アメリカ労働省におけるデータ】では、11月における雇用人数は1億4428万5000人、失業者数1033万1000人(就職活動をしていない人は含まず)(失業率6.68%)という数字が出ている。自動車産業従事者全体が雇用者全体に占める割合は1.53%。自動車産業がアメリカの一大産業であり、同時にアメリカの消費社会を象徴する産業であることに違いは無いが、10%や20%といったダイナミックな割合を有しているわけではないこともまた事実である。

さてこれをさらに総計(各州毎のデータは原文を参照してほしい)データをグラフ化したのが次の図。

アメリカの自動車産業における所属人数(万人)
アメリカの自動車産業における所属人数(万人)
アメリカの自動車産業における所属者の年収合計
アメリカの自動車産業における所属者の年収合計(単位は億ドル)
アメリカの自動車産業における部門別平均年収(万円、1ドル=95円計算)
アメリカの自動車産業における部門別平均年収(万円、1ドル=95円計算)

「自動車産業全体」ということで見るとディーラーが過半数を占めていることがわかる。また、年収合計は「仮に自動車産業が皆こけるということになれば、これだけの収入≒消費が消えうる」ことを意味している(もちろんアメリカの自動車産業はビッグ3だけではないのだが)。

三つ目は元データには無かったもの。組立工の数字が少々特異値のように見えたので試算したところ、他の業態とは平均年収が大きく異なることが分かった。自動車産業内においても他の業態と比べおおよそ1.7倍の計算になる。


今回ビッグ3に対する資金繰支援法案が廃案になった直接の原因は、共和党側が「3社の労働者も所属している全米自動車労組(UAW)が2009年中に(ビッグ3における)人件費削減を受け入れる」ことを条件にしたのに対しUWA側はあくまでも「現行の協約が切れる2011年までは賃下げを容認できない」と原則論を貫いたことにある。例えるなら「消防署自身が火に包まれたが、『出動命令が出ていないので消火活動は出来ません』と待機中の消防隊員が消火活動を拒否した」ようなものだ。このままでは彼らにとっては「給料カットに抵抗したら給料ゼロになったでござるの巻」にすらなりかねない。

自動車工場イメージ別データによればビッグ3の従業員(UAW所属)の時給は29ドル。これに各種手当てなどを加えると労務コストは76ドルとなり、トヨタ社員の約58ドルと比べると3割以上も高い。「会社自身が火の車どころか灼熱状態なのだから、それぐらい了承しろよ」というのが第三者から見ると当然の感想だが、組合には組合なりのロジックがあるようだ。「交渉術の一つでブラフだ」といえばそれまでだが、そのブラフで本当に「給料ゼロ・職ナシ」になったらUWA側はどのような責任を取るのだろうか。

さて。

今回のデータは直接自動車産業に関わる人の数に限定されているが、派生する事業をカウントするともっと数字は大きくなる。ビッグ3に限っても従業員は25万人に過ぎないが(それでもかなりの数だ)、子会社、さらには関連会社も含めると、全部で255万人にも達するという。仮にビッグ3が「倒れた」からといってすべてが即失業というわけではないが、それなりに大きなインパクトがあることは間違いあるまい(数合わせのたわごとだが、この255万人がすべて失業状態に移行すると、概算で失業率は8.33%。1.65%ほど引き上げることになる)。

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