新聞の購読者数の減少理由を考え直してみる
2008年12月07日 12:00
先に【日本の広告宣伝費上位10社の広告費をグラフ化してみる+α】などでも触れた、先日発売された『週刊ダイヤモンドの最新号「新聞・テレビ複合不況~崖っぷちに立つマスメディアの王様」』を元に現在の新聞やテレビの状況を考えてみるシリーズ最終回。新聞の購読者数の減少についてまとめ直してみることにする。
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新聞の購読者数(≒発行部数)が減少しているという事実そのものはすでに【新聞の発行部数などをグラフ化してみる】などで公開データを元に説明した通り。くだんの週刊ダイヤモンド最新号では【「新聞没落」…週刊ダイヤモンド最新号を読み解く】同様に、各新聞社が(公式には一様に否定しているものの)「押し紙」という仕組み(需要以上の新聞を印刷して新聞販売店に「押しつける」)を紹介すると共に、近頃では「押し紙」の割合がますます増加したこと、販売店から反旗が上がっていることなども解説している。
新聞発行部数(一般紙+スポーツ紙)(再録)
購読者数「=」発行部数ではなく「≒」としたのは、この「押し紙」の部分のニュアンスも含めているということ。某社では発行部数=公式販売部数のうち、実に半分程度が押し紙との話も掲載されている。だから上記記事の「グラフ化」された新聞の発行部数以上に、急速なスピードで新聞の「購読者数」が減っている可能性は十分にありうる。
実際に新聞社内では「急速なスピードでの購読者数減少」は把握しているようで、対応に窮しているという。その「減少理由」について元記事では4つの項目を挙げている。この点を、こちらの解説なども加えながら紹介することにする。現在の「新聞」というメディアが置かれている立ち位置がよく分かるはずだ。
●1.インターネットによる新聞のニュース配信
各社とも広告収入の減少を補うためにネット戦略を展開。アクセス数を増やす努力をしている。ところが「結果的にニュースをいつでもタダで読めるようにしてしまったことで、紙の部数が減る『カニバリズム』(共食い)が起こっている」。
偶然にも先日民間調査機関による調査として【新聞を読まない人の約7割「テレビやネットでニュースを得るから」】という結果が出ている。現在「新聞を取らずにネットでニュースを読む人」の割合は増えているが、新聞を手に取るかもしれない層のインターネットへのシフト、これまで新聞を取っていた人たちのインターネットへの移行など、どのような経路を経てきたのかまでは分からない。どちらにしても「カニバリズム」が起きていることには違いない。
新聞社側でもネットに配信をする記事を一部に留めて「残りは本紙を買って読んでね」とするなどの工夫も見られるが、あまり効果はないようだ。インターネットによる広告費は順調に増加しているが、それを上回るスピードで新聞本紙の売れ行き・広告費が減少しており、補完するまでには至らないというのが現状。
●2.潜在読者との物理的な接点の減少
これは当方(不破)も元記事で指摘されて初めて気がつき「なるほど」と思ったこと。オートロックのマンションが増加したことで、インターホン越しのやりとりとなり、営業の糸口すらつかめなくなっているとのこと。さらに加えれば、一人暮らし世帯が増加し、営業に回っても留守で誰も出ないなど、営業効率そのものの低下も挙げられよう。
●3.読者側の意識変化
「新聞を取っているのが当たり前」という時代は過ぎ、ニュースはテレビやインターネット、ケータイで取得することが日常茶飯事となる昨今。以前「就職試験のために新聞を読もう」というキャンペーンTVCMが展開されていたし、今でも「受験勉強のためには出題率の高い当社新聞を」というセールスポイントを掲げる新聞社もある。しかし現実問題として「就職を控えた学生ですら(新聞を)読まなくなった」というため息すら有力紙の首脳の口からもれるほど。
ただし。元記事では「読み手が欲する情報を新聞側が伝えていないという指摘もある」として、新聞社側の報道姿勢をチクリと皮肉る記述も添えられている。
●4.用紙代の値上げ
新聞社へ提供される用紙は、一般の事業会社と比べて優遇されているという。毎日大量に使用してくれる「超お得意様」だから当然といえば当然。しかしその「お得意様」特権を用いてですら用紙代の値上げを製紙会社から要求されているとのこと。大量に使うがために、ほんの少しの値上げでも大きな出費増となることに違いない。
元記事では以上4点を「新聞社の購読者が急速に減少した理由」として挙げている。しかし「4.用紙代の値上げ」はともかく、「1.」~「3.」は昨日今日に始まった話ではなく、インターネットや携帯電話が普及し始めた前世紀末から今世紀にかけてすでに見られた状況。なぜここ数年、特にこの1~2年で急速にこの話題が表に出てくるようになる(ほど事態が深刻化)したのかまでは、箇条書き化されている部分の文章だけでは分からない。
元記事の39ページには「図解 ひと目でわかる2大マスメディアの苦境」として、さまざまなデータを図式化して、経営的に困難な状態に陥っている新聞・テレビの現状を解説している(一部は再構築して当サイトでも掲載している)。これらを見ると、
・予兆は1990年代後半からあった
・状況の悪化を放置したことで臨界点を突破し、さらに状況を悪くしている(押し紙と販売店問題)
・「地デジ対策」による巨額の経費計上
・不景気や多メディアによる広告収入の減少と、そのしわ寄せを制作現場に押し付けたことによる提供コンテンツの質の低下、それがさらにメディア離れを加速させるという「ネガティブ・スパイラル状態」の形成
などの状況が見て取れる。要は「前々から気配はあったが、ここ数年来の状況の加速的進展で表立った動きをせざるを得ない状態に陥った」というのが正解だろう。
例えるなら現状は「虫歯があるのが分かっていても歯医者で痛い思いをして治療するのはイヤだから、だましだまし生活を続けていた。しかし、いよいよもって虫歯が進行し、痛くてどうしようもなくなった状態」といえる。
虫歯の場合には歯医者に行けば事は済む。しかし新聞やテレビの場合は、「歯医者での治療」にあたる「事態打開のための特効薬」が見出せていないのが苦しいところ。どの放送局、新聞社が「しっかりと治療をしてくれる歯医者」を見つけることができるか、そして「痛みを耐え抜いて治療を行うだけの勇気を持って歯医者の門を叩く」ことができるのか。今後数年間、恐らくは「地デジ」の導入前後までに大きな動きが見られるだろう。注意深く見守りたいところだ。
(最終更新:2013/09/05)
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