OECDの雇用問題レポートをグラフ化してみる
2008年12月21日 12:00
先日OECD(経済協力開発機構)から、主要各国における雇用問題の分析レポートが発表され、その中で日本に向けては【日本は若年層が安定的な職に就けるよう更なる対策が必要】との報告が行われた。主旨は元記事などを参照していただくことにして、今回はこの記事のさらに元記事である【英文記事】に掲載されていた各種具体的データをグラフ化し、解説することにした。ビジュアル化で詳細データを眺めることで、より詳細な実情がつかめるはずだ。
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まず注意事項を。OECDの当レポートでは若年層を15歳~24歳と定義している。ただし【25歳未満の非正規雇用率は72%に急増中、ただし……】でも触れているように、日本における高等教育機関(大学、短大、専修学校など高校より先の学業機関)に通う人の割合は増加の一途にあり、2008年では76.8%に達している。OECD定義の「若年層」の大半は今だ就学中であることに注意を払う必要がある。また「失業率」とは「その年齢層全体に占める失業者の割合」ではなく「その年齢層において就職を希望する人全体に占める失業者の割合」であることに注意しなければならない。「(その時点で)就職を希望しない人」には学生なども当然含まれる(就職は卒業してから)。
さて、まずは若年層における就業率。この10年間で日本平均とOECD平均とでは値が逆転してしまっている。
15~24歳全体に占める就業率
OECD平均がほぼ横ばいなのに対し、日本は漸減。ただし前述の通り「進学率も増加」しているので、先の「25歳未満の非正規雇用率は72%に急増中、ただし……」の記事中の進学率グラフを見れば、実質的にはほぼ変わらないことが分かる。
これを裏付けるのが「失業率」。つまり「就職を希望しているのに職につけない人の割合」。
15~24歳の失業率
5年単位の推移なので変動がつかみにくいが、先の「就業率」と比べてOECD平均より上回っているということもない。
さて次に、若年層の失業者がどのくらい多いのかを表す一つの指針を見てみることにする。15~24歳における失業率と、25歳~54歳における失業率を比べて数字化したのが次のグラフ。具体的には「(15~24歳における失業率)÷(25歳~54歳における失業率)」で表され、この数字が大きいほど「若年層失業率が全般、そして中堅層以降の失業率に比べても高い」ということを表している。
15~24歳失業率の25~54歳失業率比
日本が2.0強を維持しているのに対し、OECD平均は増加の傾向を示している。OECD全体では日本以上に若年層の失業率増加が問題視されているのかもしれない。
次は「失業者の同年齢層に占める割合」。「同年齢層」には就職希望者以外に(先にあるように就学中で)就職を希望していない人も多数いるので、当然ながら失業率よりは低い値を示すことになる。
失業者の同年齢層に占める割合
OECD全体でも低下する傾向にあるが、日本はその平均より低い値を維持している。これはやはり就学率の高さが大きな要因だろう。
問題なのは次の「長期失業者が失業者に占める割合」。
長期失業者(1年以上)が失業者に占める割合
この10年間にわずかではあるがOECD平均を上回ってしまっている。この数字によると、日本の若年層の失業者で5人に1人は1年以上職にありついていない計算になる。長期間不安定な経済状態におかれている人が、若年層全体の0.75%もいる計算だ(=3.5%×21.3%)。
多少誤解を生みやすいデータが次の「同年齢層に占めるニート率」。
ニート率
日本が上昇傾向にある一方、OECD平均では減る傾向を見せている。今後日本の割合がさらに増加することが懸念されるが、「日本のニート率って結構少ないのでは」と思う人も多いだろう。しかしOECDにおける「ニート」の定義が単純に「就業、就学、 職業訓練(就職活動)のいずれもしていない人」に対し、日本の定義はまちまち。例えば内閣府の場合「高校や大学などの学校及び予備校・専修学校などに通学しておらず、配偶者のいない独身者であり、ふだん収入を伴う仕事をしていない15歳以上 34歳以下の個人」である。「このグラフにおけるニートと日本で世間一般的に言われているニートとは意味合いが多少異なる」ことに注意しなければならない。
最後に失業者における「(低就業スキル保有者)÷(高就業スキル保有者)」の割合。OECD基準の算出値によるものだが、簡単に説明すると低就業スキルの持ち主は就職そのもののハードルが極めて高くなり、職業訓練などでスキルを高めないと、就職は困難な状況にある。。
失業者における「(低就業スキル保有者)÷(高就業スキル保有者)」
日本は意外にOECDより高い値を示している。これは元レポートにおける解説、すなわち
「非正規雇用は所得と社会保障の水準が低く、スキルを磨いたり、キャリアを高めたりする可能性もほとんどありません。派遣から正規雇用へと移行するのも困難で、若年層の多くが不安定な雇用から抜け出せなくなっています」
を裏付ける要因の一つとなっている。
元データにはあと2つほどグラフ化できるものが用意されていたが(アルバイト率と学生の落第率)、本旨にはあまり関係がないので省略した。このように「元データ」を使ってグラフ化することで、日本語版の文面だけを元にした二次情報とはまた別の傾向が見てとれるはずだ。
日本語版の記事にあるように、若年層の就労支援は欠かせない。しかしデータを良く見ると、単に「若年層の就職難」というよりはむしろ「高学歴の経験を持つにも関わらず就職できない、あるいは学歴が職に結びつかない(就職の際のスキルとなりえない)」という傾向、言い換えれば「教育課程と労働市場、就職希望者本人と企業が求めている人材・技術とのミスマッチ」が見え隠れしているような気がしてならない。
「需要と供給のミスマッチ」を解決するもっともシンプルな方法は、情報の伝達を強化する(&現状の正しい認識を関係者すべてに行わせる)ことと、マッチングシステムを強化すること。OECDのレポートにあるように行政が直接・間接両面から積極的に関与すると共に、民間がこれをチャンスととらえサポートするビジネスを展開できるよう後押しするべきだろう。
(最終更新:2013/08/01)
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