「借金のワナ」……クレジットカードの広まり具合を世界地図でながめ見る
2008年11月25日 06:30
サブプライムローンやCDSなどの金融派生商品、そして最近ではクレジットカードなど、現在の金融危機の元凶の大部分は「借金」と「レバレッジ」、そして「金融工学」で構成されているようなもの。また、互いが相関関係を持っており、それぞれが要素として他の項目を内包しているからタチが悪い。そしてそれらの中でももっとも注目すべきなのが、アメリカの人たちのライフスタイルには欠かせない存在となった「借金」。この「借金」について【NewYorkTimes】では特集を組んで紹介していた。その特集名は「The Debt Trap(借金のワナ)」。今まで断片的に伝えられてきたことが改めて確認できるのと共に、状況は深刻なことが確認できる内容のため、これまで何度かに分けて紹介してきたわけだが、今回は「クレジットカード」の関連項目を見ることにする。
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「クレジットカード」とアメリカの人たちの消費性向については、先の【「借金のワナ」……アメリカ家計の借金の時代推移をかいま見る】でも触れているが、箇条書きにまとめなおすと次のようになる。
・「貯蓄」「消費」の従来の消費スタイルの順番をひっくり返し、「消費」してから「貯蓄」というライフスタイルを気軽に実現できるようにした。
・仕組みそのものは革命的。しかしあまりにも便利なため、その魅力(魔力)に飲まれる人が増加した。
・クレジットカードの使用は基本的に「将来の果実の先取り収穫」。その「先取り期日」をどんどん未来にまで伸ばせるため、理解度の低い人は(数年分の自分の収入が)一挙に手元にやってきたという錯覚にとらわれるようになった。
・「貯蓄」をしなくても「消費のために行う貯蓄」と同じような結果を出せ、しかも欲しいものが先行して手に入るため、貯蓄性向が低下した。
・支払いより先に商品入手による満足感が得られるため、物欲が加速化する一因に。
便利であるがゆえに、その便利さに身も心もゆだね誘惑にかられたままに行動していると、取り返しのつかない結果になってしまう、というわけだ。
さて「借金のワナ」ではクレジットカードの説明について、3つの世界地図を展開している。それぞれ「クレジットカードによる借金」「クレジットカードの数」「クレジットカードの増加数」だ。順を追ってみていくことにする。なおデータはすべて2007年当時のもの。
まずは「クレジットカードによる借金」。
クレジットカードによる借金
2007年における統計データで平均的な家計において、可処分所得のうち何%がクレジットカードの借金(返済に充てられているか)を示している。色が薄いほど割合は少なく、濃いほど大きい。具体的な数字は示されていないが、もっとも大きな領域「6~10.5%」は
・アメリカ ・カナダ ・ベネズエラ ・イギリス ・南アフリカ
・トルコ ・ギリシア ・オーストラリア ・マレーシア
の9か国が確認できる。日本は0.5~3%の領域のようだ。
先の記事の図の解説では「低所得者層が積極的に使うことでクレジットカードは広まっていき」という一文があった。もちろんインフラが整っていることが前提条件となるが、南米諸国の多くで少々高めな数字が見られるのが気になる。
続いて個人当たりのカード枚数。このカードにはクレジットカードだけでなく支払い用のカードやプリペイドカード(電子マネー)なども含む。例えばSuicaやEdyなども該当するわけだ。クレジットカードだけの枚数を見たかったのだが、今記事では用意できなかったようである。
一人当たりのカード枚数
最大領域は1.5~4.5枚。この領域に含まれる国は
・アメリカ ・カナダ ・デンマーク ・日本 ・韓国
の5か国が確認できる。日本の場合はクレジットカードだけでなく、電子マネーの普及が大きいのだろう。
最後に2002年から2007年の5年間におけるカード枚数の増加率。
カードの増加率
茶色っぽい色は減少傾向を見せている国。これはイギリスと韓国の2か国。他はデータが無いか変わらずか、あるいは増加の傾向。もっとも大きな領域は350%~2000%プラス、つまり3.5倍から20倍に枚数が増加したことを示している。これに該当するのはロシア一国のみ。元々普及枚数が少なかったこともあるが、ロシアで急速に資本主義の象徴ともいえるクレジットカードが普及したことが確認できる。
ちなみにアメリカは0~50%の領域。これ以上増やせない状態にあるようだ。また、クレジットカードによる借金のところでも触れたが、南アメリカ各国の値が高めなのが気になる。
これらのマップからは
・少なくとも今元記事の主題であるアメリカではクレジットカードの利用が飽和状態にある(可処分所得に占める支払額、カード枚数共に最高領域)。
・資源高により国が急速に富んだ新興国(特に南米・ロシア)ではクレジットカードが急速に普及しつつある
・ヨーロッパでもカードの普及率は高い。経済的に大変なイギリスではアメリカ同様にクレジットカードの支払いで消費者が大きな負担を背負っている
などの状況がうかがえる。日本でも報道こそ下火にはなったが、各種「Q&A掲示板」を見ると、クレジットカードを使いすぎて頭を抱えている人の相談が毎日山のように寄せられているのを目にする(もっとも日本の場合は消費者金融からの借り入れの相談も同様に多いのだが)。決して他人事ならぬ他国事とは言ってられない状況といえる。
他のローン同様にクレジットカードも金融危機に伴い、与信がきわめて厳しくなっている。それと共に借り入れが出来なくなったり利率が上がり、返済や生活が困難になり、貸し倒れが発生するという話が増えている。貸し倒れが増えればクレジットカード会社のリスクは高まり、ますます貸付条件が厳しくなるという堂々巡りが起きている。【サブプライムからCDS、そしてクレジット「カード」クランチへ】でも触れた、「クレジットカードクランチ」の前兆が見えつつある。
借りたものはいつかは返さねばならない。その大原則を忘れない限り、クレジットカードという「魔法のカード」は有効に使え、生活を豊かにしてくれるはずだ。しかしその力を過信し、振り回されると「魔力」が暴走し、痛いしっぺ返しを食らうことだろう。カードを手に取るとき、そのカードは自分の将来の「収穫すべき果実」、そして「将来の自分自身」に直接つながっていることを忘れてはならないのである。
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(最終更新:2013/08/01)
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