株価が安いとどんな良いこと・悪いことがあるのか再確認してみる

2008年11月24日 12:00

株価下落イメージ株式投資をしていない人にとって、株価の下落は「対岸の火事」のように見えるかもしれない。しかし実際には色々な面で影響を与えている。対岸の火事どころか、気がつかないうちに足元に火がついているかもしれない。それでは「株価が安くなると何が良くて何が悪い」のが。非常に簡単に、大ざっぱにではあるがその一部を説明してみることにする。

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株価が下がると……メリット

1.企業買収がしやすくなり、業界再編が進む
株価とは企業の資本を構成する株式の価格のこと。それが安くなるということは、公開企業の「資本」を買いやすくなる。元々余剰資金を大量に保有しており、事業拡大のために他社の買収を狙っていた企業にとっては、絶好の「お買い得」な機会がやってきたことになる。

1億株の株式を発行しているA社と、そのA社の買収を検討していたB社の場合
1億株の株式を発行しているA社と、そのA社の買収を検討していたB社の場合

株価の上下は必ずしもその企業自身の業績や安定度のみを反映しているわけではない。周囲他社の株価やその他の原因によってつられ安をする場合も多い。そんな時、買収しようと考えている企業にとってはチャンスなわけだ。

仮にこのB社の立場がA社自身なら「自社株買い」にもなるし、A社の経営陣らならばMBO(マネジメントバイアウト、Management Buyout、経営陣買収)にもなるわけだ。

このような流れが進めば必須的にその業界の再編が進むことになる。過程で効率化が行われるなどして、業界・その企業自身にプラスとなる場合が多い。

2.割安株を購入できるチャンスが広がる
個人投資家にとってはその企業自身の問題ではなく周囲環境につられて株価が下落している場合、優良企業の株式を割安で購入できる機会が生じる。具体的にどのような企業の株式が割安かは個々の判断によるのでここでは説明しないが、例えば「倒産リスクが極めて低く、利回りが少なくとも国債金利を上回り、株価純資産倍率が1.0を下回る(理論上は解散したら株価以上の払い戻しが生じる)」などの基準が考えられる。

株価が下がると……デメリット

1.企業の資本が侵食されて貸し渋りが生じる
上場・非上場に限らず多くの企業は上場企業の株式を保有し、企業の財産として計上している。一定の決まりに基づいてこの株式の評価は財務諸表上に計上される。もちろん株価が下がれば評価損が発生するし、一定額以下になれば「実際には売却して損失を確定していないにも関わらず」損失として計上しなければならなくなる。

保有株式の含み損が増えると企業の資本そのものが侵食され、銀行などの査定が厳しくなる(実際には株式の含み損益の計上はもっと複雑な計算によるものだが、ここでは理解しやすいように単純化した)。
保有株式の含み損が増えると企業の資本そのものが侵食され、銀行などの査定が厳しくなる(実際には株式の含み損益の計上はもっと複雑な計算によるものだが、ここでは理解しやすいように単純化した)。

企業側としては損失が確定していないにも関わらず、財務諸表上で損失が発生してしまう(上の図では理解しやすいように単純モデル化している。本当はもっと複雑)。そして銀行側としては融資の是非について財務諸表も判断材料の一つとしている。結果として「株価が下がる」「資本上の損失が株価下落で発生する」「銀行側がその損失を考慮した財務諸表を見て融資判断について首を横に振る」という流れが生じることになる。

2.年金の運用成績が悪化する
年金も実はその多くを株式で運用している(【年金の運用実績を知るために……どうなってるの! 年金保険料】)。株価が下がれば直近の運用成績は悪化する。元々年金は中長期的な投資スタンスで運用しているため、破たんリスクさえ避けることができれば、1年や2年の一時的な含み損状態はあまり考えなくてもよいのだが、やはりそれでも色々と問題が生じるようだ。

3.消費者の消費が抑制される
株価が下がると個人が消費を抑える。一見すると関係がなさそうだが、実は大きな理由がある。株価が下がると株式を保有している個人投資家の資産も目減りする。おサイフの中身や銀行残高がいつのまにか半分、1/3に減っていたような感覚だ。当然消費意欲は減退してしまう。さらに雰囲気的に、株式投資をしていない人にも「消費を抑えねば」という意識が広まる。

株価が下がると個人の消費意欲も減退する
株価が下がると個人の消費意欲も減退する

例えば【2008年10月分の景気動向指数は現状7か月連続の下落、先行き3か月ぶりの下落】でも紹介したように、2008年10月の景気ウォッチャーでは、9~10月の株価急落を受けて消費者の消費性向が急速に落ち込んだことが、企業側からも相次いで報告されている。一部を挙げただけでも

・円高や株価急落など、景気のますます悪くなる要素が多く、来客数や販売台数はここ数か月で急速に落ち込んでいる(乗用車販売店)。
・金融不安、株価下落など良い話題がなく、高額品である家電の購買にブレーキが掛かっている。し好性の高い大型液晶テレビ等が極端に落ち込んでいる(家電量販店)。
・株価の暴落によりぜいたく品や高額品の売行きが落ち込んできているが、ボーナスや残業代の減少により、個人消費は更に冷え込む(一般小売店)。
・来街者が10 月になって極端に減っており、前年から20%以上売上が減っている店が多い。株価下落により予定していた商品、特に高額品の買い控えが増えている(商店街)。
・株価の下落が消費マインドに影響を与える。冬のボーナスも期待できないことから、今後の景況感は落ち込む。単価の低い商品の伸びが高いが利益への寄与が低く、競合他社も生き残りをかけて売出しを行うため、体力の少ない店舗の淘汰が加速する(コンビニ)。


この通りである。株価下落は株式保有者はもちろん、そうでない人にもネガティブな心理を伝播するというわけだ。

4.株価下落で信頼性欠如
これは特に昨今の不動産業・建設業に多い。株価下落により取引先に不安感を助長させ、さらなる「リスク回避策」を求められるようになる。これが伝わるとさらに株価下落につながり、さらに……というわけで、マイナススパイラルにおちいることもしばしば。

最近の不動産・建設関連の上場企業にはこのような状態に苦しんでいるようすが、リリース上でしばしば見受けられる。例えば【事前情報漏えいと「自社株急落」の事業への影響~新井組の場合】にも示したが、新井組の場合は

この間、新井組の株価の下落により、取引先からも決済サイトの短縮、現金決済への切り替え等の要請が相次ぐ事態となり、資金繰りが圧迫されることとなりました。


とのべ、株価の下落が貸しはがしの原因となり、それが企業の命運を左右する一因となったことを説明している。


以上、株価下落のメリット・デメリットを挙げたが、全般的にはデメリットが多い。あと、挙げるとすれば「空売りをしている人の儲けが増える」くらいだろうか。

チャンスを待っているイメージ経済アナリストの中には「日経平均株価が2万円台に達すれば、現在生じている金融関係の問題のほとんどは解決する」と論じている人もいる。実際、株価はこれだけ多くの事象に深く関わっているのだから、それもあながち間違いとはいえない。

今は株価下落、状況悪化、さらに株価下落というマイナススパイラル状態にあると考えることも出来る。今しばらくはひたすら耐え、上昇機運を見逃さないようにアンテナの精度を高めておくのと共に、メリットの二番目である「割安株の購入チャンス」のタイミングを推し量るのが無難といえよう。


(最終更新:2013/08/01)

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