「借金のワナ」……アメリカ家計の借金の時代推移をかいま見る

2008年11月23日 19:40

借金イメージサブプライムローンやCDSなどの金融派生商品、そして最近ではクレジットカードなど、現在の金融危機の元凶の大部分は「借金」と「レバレッジ」、そして「金融工学」のキーワードに凝縮できる。その中でももっとも深刻なのが「借金」。金融危機の発端となった国、アメリカでは大量消費がDNAに刷り込まれているかのごとく消費活動が行われており、「足りないお金はローン(借金)をして手に入れる」というライフスタイルが当たり前のものとなっていた。それが今現在、収入減や物価高により、多くの人の頭痛のタネとなっていることはいうまでもない。【NewYorkTimes】ではアメリカが抱えるこの「借金問題」を「The Debt Trap(借金のワナ)」と名づけ、インタラクティブなコンテンツを展開し、紹介している。今まで断片的に伝えられてきたことが改めて確認できるのと共に、状況は深刻なことが確認できる内容のため、いくつかかいつまんで紹介することにする。

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今回はその中でも、アメリカ人の平均的な家庭が抱える借金の年代別推移について。元々のページは上記リンクから「The American Way of Debt」をたどってほしい。ここではサイトの縦横に合わせるために90度角度を転換するという荒業を使わせてもらった。

アメリカの平均世帯における借金の推移
アメリカの平均世帯における借金の推移

実際の図版では各年代にカーソルを合わせるとその年代の借金額と貯蓄額が表示され、さらに10年単位でその年代の傾向が説明される。また、左側は貯蓄額、右側は各種系統別の借金額を示し、もちろん両方とも面積が大きいほど(横に長いほど)額も巨大なものとなる。

ちなみにこれらの値は、当時の額をそのまま表したわけではなく「現在のドルベース」に換算されている。だから「1920年代の貯蓄額も借金額も小さいけど、これは当時の額のままだからだろう」ということではない。

貯蓄は戦争時代が最多

戦時の貯金イメージまずは厄介ごとの少ない(笑)貯蓄額から見ていくことにする。1940年代に急増しているが、これは戦争中ということもあり人々が消費をひかえて「何かあったときのために」と貯金をしていたから。アメリカにおいても有事には「貯蓄を懸命に行う」という傾向が見られたわけだ。データが掲載されている1920年代以降において、唯一「貯蓄>借金」だった、ある意味「家計が一番安定していた時代」ともいえる。ちなみに一番多かったのは1944年で1万2807ドル。

戦争が終わってからは安心感からか一挙に貯蓄が解かれ、その後少しずつまた増加する傾向を見せている。しかし1970年~1980年を境に少しずつ貯蓄性向は減少し、2000年代に入るとほとんどゼロに等しくなる。ほぼ同時期に「クレジットカード」の普及・浸透が進んでおり、これがアメリカの貯蓄性向を奪った要因と考えられる。

増えるばかりの借金……1980年代まで

住宅建築イメージ一方借金については、図を見れば一目瞭然、1950年以降ダイナミックな増加を見せている。1950年代~1960年代はごく普通の分割ローンが増え、以後その額はほぼ横ばいを続けている。

住宅ローンは同じく1950年以降急増し、1970年代にほぼ横ばいを見せているが、1980年以降再び増加を見せている。これについて説明では「リスクの高い人にも貸し出しをする傾向が増加した。貸し手はリスクを分散化するため、証券化を行い、投資家にそれらを売却した」と説明している。言い換えれば「住宅ローンの貸し手がもっと儲けたいから返済できない可能性の高い人にも貸すようになった。でもバチを被るのは勘弁こうむりたいので、損失の可能性を切り売りし、他人に丸投げした」ということになる。また、これを助長するために、税制が改正されたのも一因。

雪だるま状態……1990年代以降

1990年代以降になると借金の額は加速度的に大きくなる。要素は大きく3つ。

1.クレジットカードの普及と拡大
 1980年代から普及し始めたクレジットカード。特に低所得者層に「打ち出の小づち」状態な魔法のカードとして浸透し、利用額も増えていく。
2.住宅抵当ローン
 住宅価格の高騰を前提に、購入した住宅(完済していないのも含む)を担保にして差額を借り入れ、生活に充当するライフスタイルが広まっていく。
3.住宅ローン
 低所得者層によるローンを組み込んでの住宅購入が加速化する。例の「サブプライムローン」が大活躍した。


しかしふくらんだ風船はいつかははじけるもの。2000年代になると各種借金の前提が崩れ(臨界点を突破し)、借金生活をしていた人たちに重圧がのしかかるようになる。持ち家比率は70%ほどに上昇し、わずか31%の家主のみが住宅ローンを完済している状態に。

・大学生のカード利用率
 ……2/3
・一世帯あたりのカード枚数
 ……13枚

また、分割ローンにおいては1990年代は50%台だった大学生のカードローン利用者が、2000年代には2/3にまで上昇。クレジットカードの未払い額のある家庭は40%に達し(1970年代は6%)、平均的な家庭が持つクレジットカード数は13枚に達している。

平均借金額は2007年に12万1650ドルに達し、その後2008年には11万7951ドルとやや減少している。これは主に住宅抵当ローンと住宅ローンの「整理」によるものと思われる。実際グラフを良く見ると、2007年~2008年の間ではこれら2つの借金は減っているものの、クレジットカード・分割ローンの額は横ばい、あるいは増加の傾向が確認できる。【サブプライムからCDS、そしてクレジット「カード」クランチへ】を裏付ける傾向なのかもしれない。


アメリカにおける貯蓄性向の減少はクレジットカードの登場によるところが大きい。貯蓄は順番として「まず貯めて」「そして消費する」。一方でカードは「まず消費」「そしてその分を返済する」であり、原則的には購入予定のものに対して「先に払うか、後に払うか」の違いでしかない。どれだけ先に欲しいものを早く手に入れられるかを考えれば、先に手元に届くクレジットカードを使った方が良いと考えるのは理にかなったもの。

しかしこの仕組みは同時に「将来収穫するものを先行して手に入れ、後で労力をかけてその埋め合わせをする」という考え方・ライフスタイルをアメリカに浸透させてしまった可能性がある。住宅ローンや住宅抵当ローンも突き詰めれば、(少なくとも借り手からすれば)クレジットカードの考えの延長に過ぎない。住宅ローンの場合は貸し手側が知恵(悪知恵ともいう)を働かせてリスクを細切れにし、さらに世界中にばら撒いて手元からおさらばさせたため、今や世界中を巻き込んだ金融危機に直面している次第である。

小切手イメージ「ドラえもん」の秘密道具の一つに「未来小切手帳」というものがある。これは小切手の口座を開いていなくとも誰でも自由に小切手を切れ、オールマイティに使えるという便利なもの。ただし、使った額は強制的に利用者が今後手に入れる収入から自動的に返却させられる仕組みとなっている。要はサイン主が将来入手する予定の現金を現在使っているだけに過ぎないのだが、この仕組みを理解できなかった主人公ののび太は、調子にのって小切手を切りまくったために数十年先までの収入を先行して使い込んでしまう羽目になった。

あるいはクレジットカードや住宅ローン(サブプライムローン)、住宅抵当ローンも、アメリカの人たちにとってはこの「未来小切手帳」のようなもので、しかもその仕組みをあまり理解していなかっただけ、の話なのかもしれない。


■関連記事:
【カードが減り現金増加傾向!? 米クリスマス商戦におけるクレジットカードの使われ度合いをグラフ化してみる】

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