朝日新聞の最新版「おサイフ事情」をチェックしてみる
2008年11月22日 18:30
先日【テレビ朝日(9409)】が親会社にあたる朝日新聞の直近中間連結決算内容を公開した。朝日新聞そのものは非上場の会社のため、決算諸表は上場企業のそれに似てはいるがいくつかの項目が省かれたシンプルなものとなっている。しかしその中にも、各大手新聞社、そして朝日新聞特有と思われる「おサイフ事情」をかいまみることができる。ここでは簡単ながら、公開資料をもとにチェックを入れて見ることにする。
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該当資料は【11月21日に発表された「親会社等の中間決算に関するお知らせ」(PDF)】。上場企業の短信に似ているが、期末決算予想の項目が無い、概況要約や状況説明の文章が無いなどの違いがある。
連結経営成績は次の通り。
売上高……2698億7100万円(▲4.4%) 営業利益……▲5億0400万円(-)
経常利益……34億8100万円(-) 中間純利益……▲103億2500万円(-)
※比率は前年同期比、「▲」はマイナス(以下同)
本業の収益である営業利益の時点ですでに赤字となってしまっている。これは朝日新聞自身にとっては非常にゆゆしき事態といえよう。さらにその他事業で大きく足を引っ張られ、最終的な赤字額は実に100億円を超してしまっている。売上高の減収は中間決算レベルでは4期連続。営業利益の赤字・純利益の赤字は過去さかのぼれる(≒中間決算資料の公開をはじめた)2000年以降はじめてのこととなる。
●損益計算書を確認する
それでは以前【テレビ局決算の素朴な疑問「なんで売上変わらないのに大幅に利益減ってるの?」】で行ったように、まずは中間連結損益計算書でお金の流れを確認してみることにする。
朝日新聞の中間連結損益計算書(今期2009年3月期と、前期2008年3月期のそれぞれ中間決算)
前年同期比と比べると、財務状態が悪化したポイントは大きく3つ。
①本業である新聞事業の赤字
新聞部数の発行数減や経費削減などで売上原価が-2.0%と縮小しているが、それ以上に売上が落ち込み、-4.4%を記録している。%値はさほど大きく無いが元々の額が巨大なため損失額も大きく、「本業の新聞事業だけで約5億円の赤字」を計上している。去年同期では75億円近い黒字を出していただけに大問題……というより新聞事業そのものがこのままではビジネスとして立ち行かなくなっていく可能性もある。
②巨額の寄付金の存在
去年と比べて50億円近い増加額を見せる寄付金。色々かんぐるところもあるが、資料にはこれ以上の情報が盛り込まれていない。
③有価証券の売却損
こちらもかなり大きな額で、売却益が9.3億円、売却損が44.7億円、差し引き35億円程度の損失を計上している。実はこちらもそのほとんどがテレビ朝日との提携に際して行われたもの。
●テレ朝と朝日新聞などの間で交わされた複雑な株の持ち合い
上記3点のうち③について「テレビ朝日との提携」云々と説明したが、詳細は次の通り。今年6月に【リリース(PDF)】が出されているが、テレビ朝日と朝日新聞社は事業連携体制を強化するため、新しい枠組みを設けることで一致。それぞれの株式について色々と移動(実際には売却や贈与)を行った(ワーキンググループを作って会議をもったりクロスメディア戦略や人事交流などの実務面もあるが、ここでは省略)。
その際に、テレビ朝日・朝日新聞、そして朝日新聞の社主である村山美知子氏、さらには朝日新聞社創業家である村山家ゆかりの財団法人香雪(こうせつ)美術館の間で、次のようなやり取りが行われている。
6月6日に行われた、テレビ朝日・朝日新聞、朝日新聞社主・村山美知子氏、朝日新聞社創業家である村山家ゆかりの財団法人香雪(こうせつ)美術館の間のやりとり
要は
・社主の朝日新聞社株式の直接保有比率が減った(36.46%から14.61%)
・朝日新聞は売却損が発生したが直接現金は一銭も使っていない
・テレビ朝日は高値(※朝日新聞社株は社内価格は1600円と規定されている)で朝日新聞社株を取得した。ただし直接朝日新聞社からではなく、(社主ではあるが)個人からの買い取り
・ともあれ朝日新聞とテレビ朝日の間で「株式の持ち合い」関係が成立した
ことになる。非常にややこしく、「朝日新聞社とテレビ朝日間の提携なら、直接朝日新聞がテレビ朝日に自社株を売れば良いのでは」と考えるものだが、色々と朝日新聞社の社主や大株主らの間で「相続も絡んだ複雑な内情」があるようだ。が、それも今件ではあまり関係のない話なので省略する。
詳細が公開されていないのでどの程度の割合かは不明だが、このテレビ朝日株株式売却の際に発生した売却損が、③の有価証券売却損として大きくのしかかっているものと思われる。
問題点をまとめてみることにする。
1.本業の新聞事業が火の車にも関わらず50億円もの寄付金を行う必要が生じたのはなぜか。そしてどこに寄付を行ったのか
2.本業の新聞事業のお尻に火がついている
寄付行為については【朝日新聞がテレ朝株を文化財団に寄付(広告業界ニュース)】にもあるように、創立130周年記念の記念事業の一環として「文化財保全事業への積極行動」の一つとし、財団法人朝日新聞文化財団へ保有するテレビ朝日株式2万0120株を寄付している。リリースが見つからないが、寄付をしたとされる9月26日時点のテレビ朝日の株価15万2100円を単純に乗じると30億6025万2000万円となり、ある程度つじつまは合う。それでも残りの20億円程度は相当大きな額だが……。「クオリティ・ペーパー」を自負しているのだから、多額の寄付行為はむしろ積極的にアピールし、社会貢献度の高さを知らしめるべきだと思われる。
やはりそれよりも問題なのは、本業の新聞事業が赤字を出してしまったということだろう。新聞業界の不調は【新聞の発行部数などをグラフ化してみる】や【「新聞没落」…週刊ダイヤモンド最新号を読み解く】などでお伝えしている通りだが、それが事業そのものの採算が取れなくなったというリアルな点で形となって見えてきたことになる。
果たして「本業の新聞事業に赤ランプ」がついてしまったのは朝日新聞だけだろうか。それとも他の新聞社も似たような状態なのだろうか。今後大手新聞社を親会社に持つキー局などが決算の場でデータを公開することがあれば、その実情が明らかにされることだろう。
(最終更新:2013/08/01)
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