4か月で20分の1に! 鉄スクラップの価格をグラフ化してみる
2008年11月13日 12:00
新興国の需要拡大やオリンピックによる建造ラッシュで鉄鉱石や製鉄、さらには鉄スクラップなどの価格が急騰し、マスコミを騒がせたのは記憶に新しい話。鉄くずがいくらでも高値で売れ、マンホールやガードレールなどが相次いで盗難の憂き目にあうニュースも日常茶飯事のごとく伝えられていた。しかし投機マネーの撤収で今や製鉄・スクラップ鉄などの「資源バブル」は一気に崩壊。オリンピック特需や新興国にまで及ぶ景気後退で、オーバーシュート(反動による過剰な下げ)を見せている。具体的にはどれだけの「急落」が見受けられるのか。業界関連サイトからデータを抽出し、グラフ化してみることにした。なお特記ない限り価格は1トンあたりのもの。
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●半年もたたずに20分の1以下に下落する乱高下相場
今回利用したデータは二か所からの抽出。まずは鉄源(鉄を含む化合物の総称)関連の業界団体【日本鉄源協会】が公開している各種データ。概要が分かりやすいよう、まず2005年以降の鉄スクラップの価格推移を月次で見てみることにする。データは関東・中部・関西の平均値を採用。
スクラップ価格・3地区平均(月次、日本鉄源協会)
新興国の景気堅調さが伝えられるようになった2006年あたりからじわじわと上昇していたものの、急カーブを描くようになったのは2008年に入ってから。これ以降「バブル」が発生し、2008年夏ぐらい(つい最近まで)高値圏を推移していたことになる。金融危機が叫ばれだしたのが2007年夏頃だから、それからの1年ほどは鉄鋼業界は「金融危機? そんなの関係ないね」状態だったことが分かる(思い当たる節もあるだろう)。
しかしこれもオリンピックの終了、金融危機(金融工学危機)が本格的な展開を見せる今年の夏以降急速に値を落とし、まさに急降下状態で現在に至る。
月次データは10月までのものしかないが、週次データでは11月第2週までが用意されている。動きをクローズアップする形にもなるので、こちらも見てみよう。
スクラップ価格・3地区平均(週次、日本鉄源協会)(クリックして拡大表示)
7月につけた高値以降、一時反発を見せながらも結局下落の度合いは加速。直近データの11月第2週では約9538円という値を見せる。わずか4週間で7分の1になったわけだ。冒頭で「オーバーシュート」という言い回しを使ったが、その実情がお分かりいただけただろうか。
鉄スクラップと違い、加工された製鉄商品はまだ価格が安定している。一つ事例としてH形鋼の価格をグラフ化する。
H形鋼価格・3地区平均(週次、日本鉄源協会)(クリックして拡大表示)
こちらも週次データだが、鉄スクラップと比べると価格のダイナミックな変移はない。しかし今年の夏のバブルにむけてじわじわと値を上げ、それ以降は下げ基調なのは鉄スクラップと変わらない。H形鋼の下げ幅が鉄スクラップと比べてゆるやかで、比較的高値で推移しているのは、毎月月末に当サイトでも分析を報告している「建築着工面積」(要は新規に作られる建物の面積)が前年同月比で大きく伸びていることに起因している。もっとも住宅も供給過剰・需要漸減状態が続いているので、じきにH形鋼などの鉄製品もだぶつきを見せ、バブル時の高値を修正する動きを見せるはずだ。
今回もう一つ使ったデータは【日本鉄鋼新聞】が公開しているもの。過去の市中相場を月末値でダウンロード可能なので、ここから「鉄スクラップ 特級H2」を抽出した。先の日本鉄源協会のものとは条件が異なるが、鉄スクラップの動向を推し量ることはできるはずだ。高値安値・東京大阪のデータが用意されているが、ここでは単純に東京の高値の値のみで月次の折れ線グラフを作成する。
スクラップ特級H2(トン当たり価格、東京高値のみ)(日本鉄鋼新聞)(クリックして拡大表示)
1999年からのデータが取得できたせいもあるが、いかにバブル状態だったかがひとめでわかる。また、先に【10月の投資用プラチナ地金の販売量過去最高を記録】で掲載したプラチナの価格とも似たような傾向を示していることに気がついた人もいるだろう。
ともあれ、「10月の時点で」日本鉄鋼新聞による鉄スクラップ価格はトンあたり3000円。1999年につけた最安値2500円とほぼ同じレベルにまで下がっている。最高値の61000円と比べたら実に20分の1以下。先の日本鉄源協会のデータでは11月は10月以上に値を落としていることを考えると、こちらのグラフでも11月の値が確定した時点で「グラフの表示範囲内の」最安値、つまり2500円かそれ以下をつけている可能性が高い。
●なぜここまで鉄スクラップの価格が下がったのか
それではなぜここまで鉄スクラップの価格が下がり、さらに下げ続ける様相を見せているのかを考えてみる。ここの部分は『週刊ダイヤモンド11/10号』も参考にさせていただいた。
まず一つは「投機マネーの市場からの撤収」。日本鉄源協会の月次データのところで「金融危機が表面化した2007年夏以降でも下げは見られず、バブルが加速化した」ことに触れているが、元々「サブプライムローンなどの金融商品の破たんで株価が暴落し、株式市場から逃げた投資ファンドなどによる投機マネーが商品先物に逃げ込んだ」のが、各種資源の急騰の原因の一つ。それが、今年の夏~秋にかけての金融危機の本格化、特にリーマン・ブラザーズの破たんをきっかけに、各ファンドにおける金主からの解約要請が相次ぎ、ファンドも手持ちに現金を抱える必要が生じてきた。そこで「売れるものは何でも売れ」とばかりに売りまくり、当然のことながら鉄関連も売られ、鉄スクラップ価格も引きずられて暴落したことになる。
また、金融危機と関連して「(新興国の)需要激減」が挙げられる。投機マネーによる資源高に支えられる形で、新興国は資源を売り、キャッシュリッチな状態になり、ビルの建築や公共施設の整備など、あらゆる方面に投資を行うようになった。ところがその急成長を支える資源高が、演出家である投機マネーの撤収により終了。値を下げることで収入源が急速にしぼみ、当然建築需要なども縮小せざるを得なくなる。建物を建てる予算が減り、建設計画が減れば、当然鉄の需要も減る。「新興国は成長過程にある」とはいえ、直近のようなバブル状態は望めない。もちろん先進国では住宅バブルがはじけて頭痛の種となっており、鉄の需要拡大など問題外。
これら「世界的な景気後退」による需要減に加え、「オリンピック特需の終了」も大きな要因。内情はともかくあれだけ大きな規模で2ケタ台の成長を続けてきただけに、鉄の需要もケタ違いのものだった。その特需が無くなったことは、実利的にもマインド的にもダメージが大きい。
現在の鉄スクラップの価格は「オーバーシュート気味だ」という意見が多い。とはいえ、一度落ちた需要と価格を元に戻すだけの要素が現時点では見つけにくいのも事実。食料品と比べれば日持ちがするのが幸いだが、管理費もかかるし、高値で買い取った鉄スクラップが利益の出る値で売れる保障はどこにもない。聞く所によると直近では鉄スクラップの買取価格は今や1キロ1円にまで落ちているという。これが事実だとすれば1トンで1000円となり、オーバーシュートどころではない話となる。
これらの状況はまるで、【『甦るPC-8801伝説 永久保存版』収録ゲームリスト公開】でも触れた、往年の「マルチプレイ資源争奪ゲーム」こと『M.U.L.E.』のプレイシーンのようでもある。状況を地で行っているような気にさえなり、複雑な気持ちを抱かざるをえない。
せっかく資源価格が下がっても商品価格への反映はかなり遅いスピードに見受けられるし、消費者のマインドもサイフの中身も相当低いものになってしまっている。仮に恩恵を受けることになるとしても、随分と先のことになりそうだ。
数少ない「すぐに現れたプラス効果」といえば、これも冒頭で触れたように「マンホールなどの鉄製品の盗難事件」が減ったことぐらいだろうか。皮肉な話ではある。
(最終更新:2013/09/05)
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