円高になるとどんな良いこと・悪いことがあるのか再確認してみる……(3)円高デメリットの具体値と日本の努力
2008年11月28日 19:40
「円高」のメリット・デメリットに対する考察最終回は、具体的にどの程度のデメリットが円高で生じるのか、その試算値についてと、海外に商品を展開する日本企業の工夫、そしてまとめなど。
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●円高のデメリットを具体的な数字に
それでは直近で問題視されている「円高」について、どれほど影響があるのだろうか。戦後の日本の産業構造は海外にモノを作って売る「外需型」のため、円高になると「損をする割合」は「得をする割合」よりも大きい。
GDPは0.26%押し下げられる
内閣府経済社会総合研究所が11月に試算した【短期日本経済マクロ計量モデル(2008年版)の構造と乗数分析】によると、仮に10%の「円安」に為替が継続して振れた場合、GDP(国内総生産)は1年目で+0.26%、2年目で+0.54%、3年目で+0.55%という値をはじき出している。ここから逆算すれば、逆に10%の「円高」に為替が継続して振れた場合、GDPは年目で-0.26%、2年目で-0.54%、3年目で-0.55%と概算することができる。
為替の変動で大きな業績変移が起きるのを嫌気して、例えば自動車や電機メーカーなどは海外の主要販売市場国に生産拠点を移すところも出てきた。この場合、為替以外にも色々なメリット・デメリットが生じることになる。
海外で多くのモノを売る企業の場合、現地で生産拠点を設ける場合もある
メリットはその国の通貨と日本円との為替差損をあまり考えなくてもよくなること。そしてさらに、「その国の雇用や経済に恩恵を与える」事も忘れてはならない。現地に工場を作れば多くのスタッフを現地で雇わねばならないし、さまざまな出費がその地域で行われるため、周辺の経済も潤うことになる。城下町ならぬ工場街が出来ることもあるだろう。
ジャパンバッシングの情景を示した写真。プレートには
「アメリカで自動車売りたきゃアメリカで作りやがれ、コンチクショウ、
と全米自動車労働組合が言ってるゾ」と書かれている。
日本はまさにその通りにしたことになる。
かつて前世紀において「ジャパンバッシング」と称し、日本製の電気製品や自動車をこれ見よがしにぶち壊して非難するという行動がアメリカにおいて多発した。これは「日本の製品は高性能で(円安ゆえに)アメリカでは安く販売されるので、自国の産業と経済が圧迫され、失業者も増えてしまう」という説明がなされていた。
現在ではその傾向はほとんど見られない。例えばGM(ジェネラル・モーターズ)をはじめとするビッグ3が財政上大変なことになっても、「日本車が悪い」と叩き壊されるシーンなど見受けられない。これは多くの自動車メーカーがアメリカに生産拠点を持ち、現地経済に少なからぬ恩恵を与えているからだ(そのような日本工場がある州出身の議員は、ビッグ3への支援も消極的だという話も外伝として伝えられている)。
無論これは同時に、「日本国内で生まれるはずだった雇用や経済的恩恵」を失うことをも意味する。日本で内需拡大がなかなか進まなかったり、「景気が良い時も儲けを得るのは大企業ばかりで、国内経済、日本国民にはほとんど還元されない」という非難が強いのも、このあたりを主要因とする。
むろん、円高・円安をはじめとした為替レート、そしてこれまでに触れた金利や株価動向でも説明したことですべてというわけではない。むしろこれらの説明はほんの一部、概要、表面部分をなでた程度。料理に例えれば、レストランのガイドブックの写真とメニュー一覧を見て、その料理をなんとなく理解した程度というところだろう。その料理の本当の美味しさはじっくりと下調べをした上で、自分自身が口にしなければ決して理解する事はできない。
とはいえ、ガイドブックにじっくりと目を通すことでも、その店の状況把握は十分に可能だ。何にも知らずに何となく「そうか、円高になると景気が悪くなるのか」「自国の通貨の価値が上がってなんで不景気になるんだろう」「でも分かんないから別にどうでもいいや」とスルーしてしまうより、その仕組みについて概要だけでも知っていたのとでは、きっと色々な面で自分の生活に違いが出てくるに違いない。
(終わり)
■一連の記事:
【円高になるとどんな良いこと・悪いことがあるのか再確認してみる……(1)円高とは】
【円高になるとどんな良いこと・悪いことがあるのか再確認してみる……(2)円高のメリット・デメリット】
【円高になるとどんな良いこと・悪いことがあるのか再確認してみる……(3)円高デメリットの具体値と日本の努力】
(最終更新:2013/08/01)>
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