主要テレビ局銘柄の第2四半期決算をグラフ化してみる……(5)主要テレビ局の「スポット広告の減り具合」をグラフ化してみる
2008年11月16日 12:00
2009年3月期(2008年4月~2009年3月)・第2四半期(中間期)における主要テレビ局5局の公開決算データを色々な面から斜め読みしているわけだが、今回はもっとも注目されている「スポット広告」を中心に図にまとめ、現状をざっくりと把握してみることにする。
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詳細は先に解説しているが、おさらいの意味でもう一度簡単にまとめてみる。テレビコマーシャル(TVCM)には提供方法で大きくわけて「スポット広告」と「タイム広告」の方式がある。
タイム広告とスポット広告(再録)
スポット広告……ばらまき
「タイム広告」とは「番組提供広告」とも呼ばれ、放送される番組をスポンサード(後押し)するもの。広告費をテレビ局経由で番組に提供してその番組を後押しする代わりに、その番組内で自社の広告を出すことになる。一社で独占する場合もあれば、複数社で提供する場合もある。放送時間や視聴者性向をある程度絞れるため、効果的な広告展開が期待できるが、人気のある・効果の高い番組の広告費は高め。人気アイドルのコンサートチケットは割高なのと同じ理由だ。
一方「スポット広告」とは、番組と番組の間に存在する時間帯(ステーションブレークと呼ばれる)に放送されるもので、どこかの番組にも属さない。詳しくは「スポット契約」(ある時間枠に放送される)と「フリースポット契約」(時間などは指定されず、一定期間内に指定した本数が放送される)の二種類があるが、「番組の色がほとんどつかない、ばらまき式広告」と考えれば良い。その性質上、短期決戦的な広告展開(新製品の発売間近な時、期間限定のキャンペーン)に使われる。とにかく物量作戦で、そんな感じだ。
各テレビ局とも「株価下落で手持ちの有価証券の価値が減り、減損処理をしなければならなくなった」との説明のほかに、「不景気などが原因でスポット広告が激減したから、業績が悪化した」とコメントしている。前者はともかく後者はテレビ局の体質そのものの問題である。それが本当にその通りなのか、昨年度と今年度の同2四半期における売上を、「タイム広告」「スポット広告」「その他」の区分でざっくばらんに切り分け、棒グラフ化したのが次の図。なお今記事ではテレビ局の並びを証券コード順ではなく、関東地域のチャンネルの若い順にさせていただいた。ご了承願いたい。
第2四半期売上構成比(2008年3月期・2009年3月期)
元データはあくまでも「売上」であり、ここから諸経費が引かれてはじめて「利益」になる。利益率の違いもあり、これがこのまま「儲け」に直結するわけではないが、勢いを確認する指標にはなる。
各局とも「タイム広告」にはさほど変化はない、むしろ一部では増加しているものの、「スポット広告」が大きく減少している。売上が昨年とさほど変わらない局は、「スポット広告」の減少分を他の事業で穴埋めしているのが良く分かる(TBSの不動産などが好例)。
次に各局の「タイム広告」「スポット広告」の前年同期比をグラフ化する。今第2四半期において、どれだけ「スポット広告」が減っているかが良く分かるはずだ。似たような図は先にも掲載したが、今回は「タイム広告」の変化率も合わせて掲載。
2009年3月期・第2四半期におけるタイム・スポット広告の前年同期比
こちらのグラフを見ると、タイム広告がTBS以外はむしろ順調に伸びているのに対し、「スポット広告」が落ち込んでいるのが分かる。特に【TBS(9401)】は落ち込み方が著しく、タイム広告も軟調なので、放送事業部門では相当な焦燥感を持っているはずだ。……もっとも同局は不動産事業など他事業で財務的な支えを得ているので、「そんなの関係ねぇ~」状態なのかもしれない。
「前年比率で落ちてるのは分かった。それでは売上全体にどの程度影響があるの?」という疑問がわいてくるだろう(これも以前の記事同様)。そこで作ったのが次のグラフ。「タイム広告」「スポット広告」それぞれを前年同期と比べ、今年分における増減を「今年度第2四半期の売上全体」に占める割合で表したもの。例えばこのグラフ上の数字で「スポット広告:-10%」と出ていたら、スポット広告の今年における前年同期からの減少分で、今年度第2四半期の売上全体の10%に相当する額が減ってしまっているという計算。
前年同期比の増減が今期売上に占める割合
一番上の「第2四半期売上構成比」のグラフと見比べてほしいのだが、各局によって「タイム広告」「スポット広告」の売上高構成比は微妙に異なる。例えばTBSは比較的「スポット広告」の割合が高く、【日本テレビ放送網(9404)】【フジテレビ(4676)】、そしてテレビ東京は「タイム広告」の方が売り上げが大きい。個々の番組の人気度や、当初から企業提供の番組が多いからだと思われるが、この数字のみだけではそれを断言することはできない(※ちなみに直近の下方修正では、この「タイム広告」にも減少の傾向が見られると伝えている)。
ともあれ、各局の「タイム広告」「スポット広告」の割合の違いにより、それぞれの広告の「前年同期比の”減少率”」と売上そのものに与える影響とは違う様相を見せてくる。例えばその局で「スポット広告」そのもの売上高絶対額が巨大なものなら、”減少率”がさほど大きくなくとも、額は大きなものになる。
良い事例が【テレビ朝日(9409)】。「スポット広告」が広告費全体に占める割合が大きいため、減少率はフジテレビより下なのにも関わらず、売上全体に占める割合はフジテレビよりわずかながら上になってしまっている。テレビ朝日自身は「その他」の部分でずいぶんと利益を上げて全体的な数字はそれなりに良さげではあるが、放送事業部内では顔が真っ青になっているはずだ。……このあたりの構造、実は第1四半期とまったく変わるところがない。
また、タイム広告の増加分以上にスポット広告が落ち込んでしまっているため、全体として放送事業における売上が落ちているのも理解できよう。またこの傾向は「スポンサード番組」が増加していることをも意味する。「なんか最近、宣伝臭い番組が増えたな」と感じている人がいたら、自分の感性に拍手をあげてもよいだろう。
これらの図表などから分かることは、
・スポット広告の下落率はどの局も前年同期比で1割前後という「目もあてられない」状況にある(この傾向は四半期前から変わらない)
・今後さらにスポット広告、そしてタイム広告の減少は容易に想像がつき、売上に与える影響もさらに増える可能性は高い
・放送事業の広告費以外で大きく稼げる「ドル箱」がある局は、スポット広告の下落をどうにか穴埋めできている
・TBSはタイム、スポット共に大きな減少を見せている。しかし収益構造が大きく変化しているので、大きな問題にはならないものと思われる。
などとまとめることができよう。
「スポット広告」の急激な減少は、これまでのテレビ局関連の記事でも触れているように、不景気が第一義的なもので、ついでインターネットや携帯電話などの(ばらまきという観点で特に)ライバル的な広告媒体に予算を奪われているのが要因。特に不景気の加速により、スポット広告の減少は激しさを増し、一部ではタイム広告にまでその影響が及び始めている。
テレビ東京で見られる「スポット広告だけでなくタイム広告も落ち込んでいる」現象がTBSにも見え始め、この傾向は他局にも及ぶものと想像される。放送事業とは関係の薄い、確固たる収益源を持たないTBS以外は、厳しい期末決算を迎えることになるだろう。あるいは今後期末までに、さらなる下方修正を余儀なくされる局も現れるかもしれない。
また一方で、コストカットを成し遂げて放送事業の収益構造改善に成功したとしても、その経費削減方法が正しいやり方だったのかどうかは、時間をおいてみないと分からない。実は必要部分まで削減してしまい、提供すべき商品の質が落ち、短期間では取り戻せない損失をこうむる可能性もある。その意味では、「放送事業の大規模なリストラ」を数字の上で成し遂げたフジテレビにおいて、どのような「主事業たる放送事業の品質」の変化が見られるか、注目していきたいところである。
(終わり)
■一連の記事:
【主要テレビ局銘柄の第2四半期決算をグラフ化してみる……(1)スポット広告と下方修正】
【主要テレビ局銘柄の第2四半期決算をグラフ化してみる……(2)業績斜め読みとスポット広告の落ち込み】
[このリンク先のページ(tbs.co.jpなど)は掲載が終了しています]
【主要テレビ局銘柄の第2四半期決算をグラフ化してみる……(4)主要テレビ局の収益構造を再点検してみる】
【主要テレビ局銘柄の第2四半期決算をグラフ化してみる……(5)主要テレビ局の「スポット広告の減り具合」をグラフ化してみる】
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