主要テレビ局銘柄の第2四半期決算をグラフ化してみる……(4)主要テレビ局の収益構造を再点検してみる

2008年11月16日 12:00

テレビ局イメージここまでの記事で、第2四半期決算においても、TBSの利益構造が特殊であること、他局の本業である放送事業が軟調であることを述べた。そこでここでは、各局毎に事業セクション別の営業利益、そして利益率(売上に対してどれだけ利益があがっているか)をグラフ化し、各局の利益構造を比較してみることにした。それぞれの局の全体的な特性もつかめることだろう。

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日本テレビ:副業利益率高し、だが収益率自身は低下

対象は前回の記事同様に上場テレビ局であり、キー局でもある5局。まずは【日本テレビ放送網(9404)】。なお各テレビ局毎にセクション区分や名称が幾分異なるが、大体はその名前から想像がつくとおりのもの。特記すべき場合はその都度解説を加える。

日本テレビの直近2年間における第2四半期・セクション別営業利益
日本テレビの直近2年間における第2四半期・セクション別営業利益
日本テレビの直近2年間における第2四半期・セクション別売上高営業利益率
日本テレビの直近2年間における第2四半期・セクション別売上高営業利益率

やはりテレビ放送事業が激減しているのが目立つ。また、「その他事業」はサッカー収入やノベリティ、さらには各種不動産事業収入などを合算したものだが、この分野の利益率が高いのも注目に値する。しかし額はいずれも前年同期比でマイナスに転じており、利益率も低下している。制作費が増加するなど原価率が上昇し、営業費用が増えており、オリンピック効果が出てこないのも一因。収益構造の変革の最中であるとのことだが、その過程における「産みの苦しさ」ゆえのものなのだろうか。

TBS:「主事業は放送事業」以外です!?

続いてTBS。「放送局なのかどうか」を疑ってしまいそうなグラフ。

TBSの直近2年間における第2四半期・セクション別営業利益
TBSの直近2年間における第2四半期・セクション別営業利益
TBSの直近2年間における第2四半期・セクション別売上高営業利益率
TBSの直近2年間における第2四半期・セクション別売上高営業利益率

去年のデータと比べると、この1年で収益構造に劇的な変化が現れたのが分かる。映像・文化事業(「花より男子ファイナル」や「ROOKEIS」などのDVDが大ヒット)や不動産事業は大躍進を遂げ、放送事業が「その他」と表現しても良いくらいのボリュームにまで落ち込んでいる。収益率も放送事業はほとんどゼロに等しく、このままの状態が続くと「映像・文化事業や不動産事業のために、仕方なく放送事業を続けている」という状態になってしまう(いや、すでにその状態かも)。

フジ・メディアHD:リストラ大成功でござる

次にフジテレビ、もといフジ・メディアHD。今回一連の記事で、TBS以上に印象深いのがこの局。

フジテレビの直近2年間における第2四半期・セクション別営業利益
フジテレビの直近2年間における第2四半期・セクション別営業利益
フジテレビの直近2年間における第2四半期・セクション別売上高営業利益率
フジテレビの直近2年間における第2四半期・セクション別売上高営業利益率

「多方面事業」、特に「通信販売事業」が軟調なのはいつもの通りだが、「放送事業」の大躍進振りが目に留まる。これはオリンピック効果によるものと、大規模な営業費用の削減によるもの。特に後者では放送事業原価のコストコントロール、事業原価の減少、原価率の改善、販管費の削減(広告宣伝費や業務委託費の節減)などが大きい。オリンピック効果はそれが終わってしまえばそれまでだが、経費削減は今後も効果が続くからだ。

ただし前記事でも触れたように、コストカットによるプラス効果はすぐに結果が現れるものの、それによって生じるマイナス面(品質の低下など)はじわじわと、数字に直接は表れない形で現れてくる。中長期的にこの懸念点をどのようにクリアするのか、今後の課題といえよう。

また映像部門ではaikoを筆頭に、テレビ番組からデビューしたユニット、羞恥心、悲愴感などが貢献。さらにビジュアル部門では「DRAGON BALL GT」やフジテレビドラマ「医龍Ⅱ」などが堅調に推移し、DVDの売上も好調とのこと。もう少し利益規模が大きくてもよさそうなものだが。

テレビ朝日:TBSと似たもの同士!?……

放送内容そのものの特性も似ているということもあり、【テレビ朝日(9409)】はある意味TBSと似たような構造を見せつつある。

テレビ朝日の直近2年間における第2四半期・セクション別営業利益
テレビ朝日の直近2年間における第2四半期・セクション別営業利益
テレビ朝日の直近2年間における第2四半期・セクション別売上高営業利益率
テレビ朝日の直近2年間における第2四半期・セクション別売上高営業利益率

相変わらず「音楽出版事業」や「その他事業」の利益、利益率が高い。営業利益ではTBS同様に「テレビ放送事業? その他事業じゃないの?」とツッコミを入れられてしまいそうな割合にまで落ち込んでいるし、利益率もテレビ放送事業はギリギリ採算分岐点の上にいる状態。「他事業の展開のために仕方なく放送事業をしていると見られても仕方が無い」という点でもTBSと似たような状況にある。

テレビ東京:経費削減効果どころじゃない

最後に【テレビ東京(9411)】。こちらも「色々な意味で」特異性を見せている。

テレビ東京の直近2年間における第2四半期・セクション別営業利益
テレビ東京の直近2年間における第2四半期・セクション別営業利益
テレビ東京の直近2年間における第2四半期・セクション別売上高営業利益率
テレビ東京の直近2年間における第2四半期・セクション別売上高営業利益率

テレビ東京では主事業の放送事業以外のジャンルをすべて「ライツ事業」におさめている。また、規模そのものが他局と比べて小さいので、横軸の金額の区分「億円」の単位が違うことに注意して欲しい。第1四半期においては「経費削減効果は後期から」「主事業で赤字という結果すら導きかねない」とコメントしたが、わずか四半期後にその懸念が表面化してしまった。放送事業・ライツ事業共に営業利益率はマイナス。つまり事業を展開しても利益を生み出さないということ。

前回の短信「大規模な経費削減などの改革を行い、後期からはその成果が見えてくるため収益構造は改善されていく」との文言が霞のようですらある。


ざっと5局のデータを見比べてみたが、概要を箇条書きにまとめると次のようになるだろうか。

・各局とも主事業の「テレビ放送事業」の利益率が元々低く、昨今の広告削減でさらに利益、利益率共に減少の一途をたどっている。
・フジ・ビジョンHD以外は「テレビ放送事業」以外の事業(副事業)の方が利益率が高い(儲けやすい)傾向にある。
・財務的な収益改善に成功したセクション(TBSの不動産、フジの放送事業)は前年同期比で利益率がずば抜けて躍進している。
・「テレビ放送事業」の低下もあり、テレビ朝日もTBSのように「テレビ放送事業」と「他事業」とで双肩状態の財務体制に。ただし放送事業が急速に低下したため、相対的に他事業の比率が大きくなっただけ、とも見受けられる。TBSの不動産事業のように継続的な収入元を得ているわけではなく、CDやコンサート、映画などマルチメディアに大ヒットを飛ばせるような「仕組み」を生み出す必要がある。本来これはフジが得意だったはずだが、フジは放送関連事業の大規模化にはまだとりかかっていない模様。
・テレビ東京は可及的速やかに抜本的な構造改革が必要。現在実行中で後期から効果が出てくる「体質改善の効果」をさらに上回るような大胆な「手術」を行わないと、収益そのものが生み出されなくなる。


テレビ局イメージ元々各局本業の「テレビ放送事業」は利益率がそれほど高いわけではなく、景気の変動など他要因に動かされやすい傾向がある。さらにどうしても一定額の固定費が必要とされるため、損益分岐点ギリギリで売上を出している昨今では、情勢はきわめて厳しい。「広告媒体そのものの構造変化」(インターネットや携帯電話の普及)の影響が漸次浸透する中で、急速に進んだ不景気に止めをさされた形だ。早急に対処をしなければ、テレビ局の事業そのものが成り立たなくなる可能性は決して低くない。

各局の短信を見ると収入の増加どころか今後も景気後退により広告収入が確実に減少することが予想されるため、「一に経費削減、二にコスト削減、三四が無くて五にコストカット」をスローガンに、徹底的な節減を行うとの文言が踊っている。また日本テレビのように構造改革を推し進めるところもあるが、その過程で昨今のような不況に遭遇しただけに(不況だからこそ構造改革をせざるを得ないという考え方もあるが)、非常に苦しい立ち位置にある。しかしここから後戻りする事はかなわないだろう。

経費削減がどこまで収益構造の改善につながるのか。フジ・メディアHDはとりあえず四半期において「大成功」の栄冠を得ることが出来たと表現しても良い。しかしそれが本当に「無駄な部分」のコストカットなのか、そして中長期的に見た質の変化(低下)をどこまで押さえることができるのか。その評価は時間の経過と共に現れてくる。そして今後の各局の財務的な発表資料にも、成果が少しずつ反映されていくことだろう。

(続く)

■一連の記事:
【主要テレビ局銘柄の第2四半期決算をグラフ化してみる……(1)スポット広告と下方修正】
【主要テレビ局銘柄の第2四半期決算をグラフ化してみる……(2)業績斜め読みとスポット広告の落ち込み】
[このリンク先のページ(tbs.co.jpなど)は掲載が終了しています]
【主要テレビ局銘柄の第2四半期決算をグラフ化してみる……(4)主要テレビ局の収益構造を再点検してみる】
【主要テレビ局銘柄の第2四半期決算をグラフ化してみる……(5)主要テレビ局の「スポット広告の減り具合」をグラフ化してみる】


(最終更新:2013/09/05)

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