主要テレビ局銘柄の第2四半期決算をグラフ化してみる……(3)放送事業と利益、TBSの特殊事情は継続中、そして小まとめ

2008年11月16日 12:00

テレビイメージ「主要テレビ局銘柄の第2四半期決算をグラフ化してみる」その3。他のテレビ局とは少々違った傾向を見せていることが前回「第1四半期」で分かったTBSについて、その事情を他局と比べて、さらに小まとめをしてみる。要は前回記事の踏襲と、状況の変化に対応した文面の足し引きというわけだ。

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主軸事業の「放送事業」利益は……TBSの特殊事業

スポット広告減による
収入源をテレビ局は
制作費の削減で
まかなおうとしている

キー局全体的な傾向としては「広告出稿、特にスポット広告が激減してテレビ局全体の業務成績が悪化している」のが共通のもの。この傾向は前回から変わらない、というより悪化している。そして先のフジ・メディアHDが放送事業分野で成功裏を収めた数字をはじき出しているように、積極的な営業活動や質の向上で広告誘引を図るより、景気状況をかんがみた上で「経費削減で支出を圧縮し、利益をはじき出す」ことが語られている。番組の質はすぐには数字としては表れない一方、経費削減はダイレクトに効果が出るので、現時点では「素晴らしい成果」が見えていることになる。

一方で、この傾向に気づいたからなのだろうか、一部識者やテレビ番組に詳しい読者による「安く使える新人タレントをいじるだけで構成できるクイズ番組や、制作費の負担が少ないドキュメンタリー番組が雨後の竹の子のように増えている。しかもいかにも『制作費かけてません』という見てくれのものが多い」という意見を当方も見聞きしている。このままではますます状況が悪化しそうである。例えば「ダイナミックな経費削減をした」フジテレビ。一年前と比べて、番組の質は良くなっただろうか、それとも悪化しただろうか。判断は各個人にお任せする。

また、各テレビ局毎の特殊事情もそれぞれ別個に数字に反映されている。今回は前回の記事で特殊事情を見せたTBS、コストカットに成功して放送事業分野の収益を伸ばしたフジ・メディアHD、そして第2四半期の時点で最終損益が赤字に転落してしまった日本テレビ放送網にスポットライトをあててみる。

先のグラフなどにもあるように、TBSは主事業の放送事業は軟調で、スポット広告の落ち込み具合も5局中もっとも大きい(期末決算予想で唯一赤字を予想しているテレビ東京よりも、だ)。にも関わらず業務成績の下がり具合は他のテレビ局と比べてむしろ良い数字を出している。経常利益ではフジに劣るものの、最終純利益の前年比では5局中下げ率が一番小さい。これはなぜか。

次のグラフを見れば、その理由が明らかになる。

TBS(9401)の2009年3月期第2四半期における営業利益区分(額の単位は億円)
TBS(9401)の2009年3月期第2四半期における営業利益区分(額の単位は億円)
比較対照その1。フジ(4676)の2009年3月期第2四半期における営業利益区分(額の単位は億円)。「その他事業」は少額だが赤字を出していたのでグラフ構成からは除いた。
比較対照その1。フジ(4676)の2009年3月期第2四半期における営業利益区分(額の単位は億円)。「その他事業」は少額だが赤字を出していたのでグラフ構成からは除いた。
比較対照その2。日本テレビ(9404)の2009年3月期第2四半期における営業利益区分(額の単位は億円)。
比較対照その2。日本テレビ(9404)の2009年3月期第2四半期における営業利益区分(額の単位は億円)。

テレビ局、しかもキー局であるからには放送事業が主事業に他ならない、はず。しかしTBSは稼ぎのほとんどを「映像・文化事業※」「不動産事業」からまかなっていることになる。放送事業からの営業利益はわずか8%。1割にも満たない。第1四半期では「TBSはテレビの稼ぎと不動産の稼ぎが同じテレビ局」と表現したが、第2四半期では「DVDのセールスや不動産事業で成り立っているテレビ局」と書き記してもあながち間違いではなくなってしまう。

TBSの主事業で
あるはずの放送事業は
収益源としては
1割にも満たない

しかも別記事で後述するが、利益率(利益÷売上)では放送事業が0.6%に過ぎないのに対し、不動産事業では実に36.1%の数字をはじき出している。一概に放送事業と不動産事業を比較するのはやや難があるが、本業の数十倍もの割の良い商売をサイドビジネスで実施している計算になる。また、放送事業があって初めて成立しうる映像・文化事業も利益率は9.3%と高い部類。TBSにとって、果たして本業は放送事業なのだろうか。それとも不動産事業や映像・文化事業がメインであり、放送事業は存続するためだけのお飾りなのだろうか。

一方大規模なリストラで放送事業の利益をはじき出したフジは、放送事業における利益が大きな割合を占めている。苦境におちいっている日本テレビは2/3程度。両局とも「放送事業」以外の売上がそれほど大きくないのが特徴だ。もっともそれこそが「放送局」としては当たり前の姿なのだが。

※短信によれば映画「花より男子ファイナル」が興行収入77億円の大ヒットとなって利益を上げたほか、同テレビシリーズのDVD、さらにはドラマ「ROOKIES」のDVDなどの売上高・利益が部門実績に大きく貢献した、とある。


ここまでの記事(1~3)を箇条書きにまとめると次のようになる。

・テレビCMは番組買取の「タイム広告」と番組の間に流される「スポット広告」に大別される。
・キー局5局すべてが業績下方修正を出している。景気の鈍化による影響が大きい。
・テレビ局の業績全体は軟調。スポット広告の落ち込みは継続中。
・特に業績の悪い業種における、スポット広告の出稿減が目立つ。
・各局は業績の悪化を制作費削減で補おうとしている。フジテレビはそれを断行し、放送事業で大きな収益をあげた。
・TBSは放送事業による利益が全利益の1割に満たない。不動産で5割、放送の周辺事業で4割を上げている。


これまでの当サイトの記事以外でも、例えば【自動車の専門サイトResponse】にさりげなく、ではあるが広告代理店関係者の話として[トヨタ自動車(7203)]が「08年度の広告費予算を一律30~40%削減する方針」という話を掲載している。また、【ロイター電(Ascii.jp経由)】では日本テレビの事例として「制作費の削減」「放送事業の売上高全体に占める割合を減らし、他の事業の割合を増やしていく。特に権利ビジネスに力を入れたい」という話を目にすることができる(あるいは現状の苦境はその過渡期にある「産みの苦しさ」の可能性もある)。さらに最近では【モスバーガーの「迷走」とテレビコマーシャルの打ち切り検討と】にもあるように、上場企業のトップが公然の場で「テレビCMの費用対効果が低い」こと、テレビCMからの撤退を検討していることを口にする状況ですらある。

昨今の景気の急速な冷え込みの中で、テレビCM、特にスポット広告が短期的に減らされることは間違いない。さらに中長期的にもメディアの多様化などから、減らされる方向で進んでいくことはほぼ確実。そしてそれに備えて、各局もさまざまな手を打ちつつある……というより打たねば事業体としての将来は見えてこない。

スポット広告出稿減による
放送事業の落ち込みが
急速な景気後退で加速。
テレビ局の変革が
前倒しで求められるように。

「他の新興メディアの成長による消費者注力の分散・テレビ放送の『効力』の低下→広告効果の低下→広告出稿数の低下→局の収益が悪化」という図式は以前から言われていた話であり、わずか四半期の間にもその状況が進展していることがうかがえる。各種データからも、インターネットや携帯電話の普及や特性(効果が計測しやすい、フレキシブルに対応できるなど)に伴い、広告出稿側や広告取り扱い代理店のデータからも「テレビCMへの広告費を削っている」という状況が把握できる状態になっている。

【「新聞没落」…週刊ダイヤモンド最新号を読み解く】でも触れているが、2011年の地デジ(地上デジタルテレビジョン放送)への切り替えが、主要5局を中心としたテレビ業界を大きく動かすイベントになることは間違いない……というのがこれまでよく言われてきた話。しかし景気の急速な悪化とそれに伴う企業側の広告出稿の出し渋りにより、テレビ局側も「変革」を前倒しする必要に迫られている。第2四半期(中間)決算において5局中2局が最終赤字、現時点で1局が期末においても赤字の予想が出ているあたり、タイムリミットが確実に加速しつつ近づいていることがうかがいしれよう。

(続く)

■一連の記事:
【主要テレビ局銘柄の第2四半期決算をグラフ化してみる……(1)スポット広告と下方修正】
【主要テレビ局銘柄の第2四半期決算をグラフ化してみる……(2)業績斜め読みとスポット広告の落ち込み】
[このリンク先のページ(tbs.co.jpなど)は掲載が終了しています]
【主要テレビ局銘柄の第2四半期決算をグラフ化してみる……(4)主要テレビ局の収益構造を再点検してみる】
【主要テレビ局銘柄の第2四半期決算をグラフ化してみる……(5)主要テレビ局の「スポット広告の減り具合」をグラフ化してみる】


(最終更新:2013/09/05)

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