株価の大幅な下落が響く…2008年10月分の景気動向指数は現状7か月連続の下落、先行き3か月ぶりの下落
2008年11月12日 08:00
内閣府は11月11日、2008年10月における景気動向の調査こと「景気ウォッチャー調査」の結果を発表した。それによると、各種DI(景気動向指数)は相変わらず水準の50を割り込んでいる状況には変化はなく、先行き指数も先月から反転し減少傾向を見せるようになった。基調判断は先月よりさらに表現がキツく「景気の現状は急速に厳しさを増している」であり、引き続き予断を許さない状況にある(【発表ページ】)。
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●金融不安で消費はマイナス、ガソリン価格低下も効力薄く
文中・グラフ中にある調査要件、及びDI値についてはまとめページ【景気ウォッチャー調査(内閣府発表)】上ので解説済みなので、そちらで確認してほしい。
10月分の調査結果は概要的には次の通り。
・現状判断DIは前月比マイナス5.4ポイントの22.6。
→7か月連続の低下。「悪化」が約10ポイントも増えている。「やや良くなっている」「変わらない」派も急速に減少。
→家計は株価の大幅な下落などが災いし消費マインドが悪化。高額商品の販売が不振となり小売関係などを中心に下落。企業は原油は下がったものの、金融危機の深刻化や世界的な景気減速、円高傾向など製造業を中心に打撃が大きい。
・先行き判断DIは先月比マイナス6.9ポイントの25.2。
→3か月ぶりのマイナス。
→景気や株価の先行き不安、消費マインドの悪化などが懸念。企業DIは世界的な景気減退などを心配してのマイナス。
●2001年パターンを踏襲中・先行き指数失速す
それでは次に、それぞれの指数について簡単にチェックをしてみよう。まずは現状判断DI。
景気の現状判断DI
上でも触れているように、株価の大幅な下落により消費マインドが急速に冷え込み、特に小売・住宅など高額商品が取り扱われる部門での下げが目立つ。ただでさえ住宅関連は「まだまだ下がるかも」などの思惑から買い控えが起きているのに、二重の負担がかかった形だ。先月の「これ以上状況が悪化しようが無い」という思惑は楽観主義的なものでしかなかったようである。また、輸出関連の不調から製造業の下げも大きい。
続いて景気の現状判断DIを長期チャートにしたもので確認。
2000年以降の現状判断DIの推移(赤線は当方で付加)
「現時点ですでにITバブル崩壊後の不景気時期にあたる2002年~2003年(日経平均株価が7000円台を記録)の時期の水準に近い状態が続いている」とは先月の言だが、10月ではあっさりとそのライン(赤線)を下に突き抜けてしまっている。直前の小反発の位置が前回の2001年初頭のパターンと比べて低めのところに位置していたことから、「今回の下げ・底は前回よりもヒドいことになるのでは」という懸念があったが、それが現実のものになりつつある。
・「雇用と全体の下落逆転」は
継続中。
・合計のDIは2002~03年の
不景気時代水準を突き抜けた。
→確実に前回不況時より悪化。
雇用関連の下げが
まだ甘いか?
注意すべきなのは今年に入ってから何度と無く指摘しているように「前回(2001年~2002年)の急落時には、家計や企業、雇用動向DIにぶれがあったのに対し、今回の下落では一様に、しかも急速に落ち込んでいる」こと。景気状況がいっせいに悪化したことを表しているが、これは今年後半から急激に加速した資源高(特に「サブプライムローンショック」「8.17.ショック」と呼ばれるサブプライムローン問題関連)が引き金。ただし資源高そのものはそれ以前から兆候が見られていたことが確認されている。やはり市場の大幅下落が引き金となったのだろう。お金の周りが悪くなるのだから当然なのだろう。
その後市場は落ち着きを見せ……というより資源高を演出していた投機筋の撤退で安値を見せているが、今度は景気そのものの悪化で各種マインドは低下の一途をたどっている。資源高値で景気が悪化し需要が減り、需給の関係もあって資源が安値をつけても、景気は回復せずに需給バランスは崩れたままという、おかしな状況が続いている(恐らくは投資ファンドが、需給バランスを調整すべき「資金」を根こそぎ引き抜いてしまったため、バランサーがなくなったからだろう)。
一方これまでの傾向として見られた「直近の最底値の際には雇用関連の指数が全体指数より下側に大きくクロスして落ち込む傾向」が3月では小規模ながらも見られ、4月以降継続していることが注目に値する。しかし10月では全体指数も大きな下げを見せ、前回底部分で確認された「全体」「雇用」間の乖離が見られないため、あるいはまだ下方に向かう可能性もある。やはり今回の不況は前回「以上」の不況感をもたらしそうだ。
景気の先行き判断DIについては、先月まで二か月間継続していた「少々上げ」の状態が台無しにされてしまった。
景気の先行き判断DI
どの項目もまんべんなく下落しており、ガソリン価格の安定、下落もすべて吹き飛んでしまっている。中でも円高・世界的な普及など複数要因で不安が重なっている製造業、そして企業の財務的な引き締めの影響を受けやすい雇用関係の下げがきつい。
2000年以降の先行き判断DIの推移(赤線は当方で付加)
総合先行きDIはすでに2か月前で2001年後半の最下方値に達している。それ以降はやや横ばいかほんの少しだけの上げで推移していたが、10月で大きく底値を突き抜けてしまった。。この傾向は「現状判断指数」と変わらない。10月におきた株安や景気の悪化がいかに大きなインパクトを与えたのかが分かる。もちろん「現状」同様に雇用関連の数字の下落度合いが、2001年の不況と比べてまだ足りないように見受られ、先月コメントしたように、再び下降トレンドに移行する可能性が高まったようだ。
2003年以降よく見受けられるようになった上昇・安定時の傾向「雇用指数が全体指数を大きく上回る」がまだ確認できず、クロス・逆転も起きていないことからも「まだ底ではない」ことは確認できる。
発表資料には現状の景気判断・先行きの景気判断それぞれについて理由が詳細に語られたデータも記載されている。簡単に、一番身近な家計(現状・全国)に関して事例を挙げてみると、
・地上デジタル放送への関心が高まってきており、デジタルサービスの申込数はやや上向きと言えるが、高速インターネットサービスの申込数は月額使用料を抑えたい意向の客が多く、変わらず厳しい状況が続いている(通信会社)。
・原材料価格の高騰などで販売単価はわずかに上昇しているが、買上点数は減少している。買い控えや安い店への買い回りが目立つ(スーパー)。
・円高や株価急落など、景気のますます悪くなる要素が多く、来客数や販売台数はここ数か月で急速に落ち込んでいる(乗用車販売店)。
・度重なる食の問題で、食物に対して過敏になっていることに加え、金融不安や景気後退がささやかれる状況下では、外食する気分になりにくい(一般レストラン)
・金融不安、株価下落など良い話題がなく、高額品である家電の購買にブレーキが掛かっている。し好性の高い大型液晶テレビ等が極端に落ち込んでいる(家電量販店)。
・9月の米大手証券会社の倒産以来、高級ブランドを中心に急激に売上が落ち込んでいる。比較的堅調なのは食品のみである。来客数は前年並みなものの、食品のみ買って速やかに退店する客が多く、他のフロアへの買い回りが見られない(百貨店)。
など、全体的に不況感が浸透していることが分かる(何しろ大別項目で「良」「やや良」の事例が存在しないのだ)。また、スーパーなどの月次報告記事で何度か触れている「安売りとついで買いの関連性が薄れてきた」ことに関連し、現場の声として「安売りをして『ついで買い』を狙っても、消費者は必要なもののみを手にして早々と店から出てしまうため全体的な売上が上がらない」状況が確認でき、非常に興味深い。
また、企業関係のコメントで「不動産や戸建住宅の契約率が大きく低下しており、分譲マンションや戸建業者の間では、住宅を建てずに更地で売却する動きが増えている(不動産業)」「自動車産業の売上不振により、ここ数か月は見積すらない。自動車以外も受注量は減少傾向である(一般機械器具製造業)」など、不動産業界・自動車業界の現状をかいま見れるコメントも目に留まる。
景気感は一挙に急落。
実体経済にも
大きな影響が進行中。
掲載は略するが、先に【3割の企業が「年末には資金繰り悪化」】でも触れたように、資金繰りの悪化で年末が綱渡り状態になりかねないという記述があちこちのコメント欄で見受けられる。日本の景気が急速に動いているようすが、一読すると手に取るように分かるのが正直辛い。
本文中でも何度か指摘しているが、今回の景気悪化が2001年から2002年にわたった景気悪化のパターンを踏襲するのなら、全体の指数の底打ちと前後して「大幅な雇用関係指数の下落・他指数との乖離(かけはなれること)」現象が見られるはずである。10月のデータを見る限り、9月の時点でかすかに見えた景気感反転の兆しは粉々に吹き飛んだ形となり、さらなる下落すら容易に予想できる。「ただし雇用関係指数絡みの動きがまだ怪しいところがある」とした先月のコメント通りの結果というわけだ。
外部的要因に振り回される感が大きいだけに、なかなか手の打ちようが無いのも事実。また、上記文中でも触れたが本来の経済原理・原則である需給バランスによる自然的な調整も、投資ファンドが中抜きをしたまま場を離れてしまったため、自然回復には時間を要する可能性もある。
基調判断のコメントが、当サイトで景気ウォッチャーの定期観測を始めて以来聞いたことの無い「景気の現状は急速に厳しさを増している」という表現が用いられたのも、納得がいくというものである。
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