過去の「リセッション」時期の株価動向を再確認してみる
2008年10月29日 06:30
先に【「リセッション」を再確認してみる】を執筆する際の調べものの過程の中で、興味深い記述を見つけた。どこに書かれてあったのかは失念してしまったが、「リセッション中のアメリカの株価は下落するとは限らない」というものた。その時は軽く受け流してしまったが、改めて考えてみると「本当にそうなのだろうか」と気がかりになってきた。そこでデータを元に再検証してみた。
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用いる株価データはS&P500。【歴代のアメリカ市場急落の下落率を比較してみる】で説明しているように、正式名称はStandard & Poor's 500 Stock Index。スタンダード&プアーズが算出している株価指数で、代表的な500銘柄の株価を元に計算されている。日本ではTOPIXや日経平均株価が近い立ち位置にある。【アメリカのヤフーファイナンスには】1950年以降のデータが収められているので(日本のヤフーファイナンスも見習ってほしいものだ)、ここからデータを抽出。そして先の記事でリストアップしたリセッション時期を重ね合わせてみる。
1950年以降のS&P500とその出来高の月次推移、リセッション時期(クリックで拡大表示)
昨今のS&P500(≒アメリカの株価)の下落がいかに急激な出来高を伴った急なものであるか、水準的には2002年のそれに近い時期にまで落ち込んでいるかなどが分かる。しかし、リセッション時期との関係は(あまりにもグラフが細かすぎて)よく分からない。
そこでリセッション突入時期・脱出時期(脱出判定を受けた次の月)のS&P500の値をそれぞれのリセッション時期ごとに抽出してみることにする。ちなみにS&P500の値は基本的にその月の初営業日の終値が用いられている。
・1953年7月~1954年5月(10か月)
24.75→29.21(+18.0%)
・1957年8月~1958年4月(8か月)
45.22→44.09(-2.5%)
・1960年4月~1961年2月(10か月)
54.37→65.06(+19.7%)
・1969年12月~1970年11月(11か月)
92.06→92.15(+0.1%)
・1973年11月~1975年3月(16か月)
95.96→87.30(-9.0%)
・1980年1月~1980年7月(6か月)
114.16→122.38(+7.2%)
・1981年7月~1982年11月(16か月)
130.92→140.64(+7.4%)
・1990年7月~1991年3月(8か月)
356.15→375.34(+5.4%)
・2001年3月~2001月11月(8か月)
1160.33→1148.08(-1.1%)
S&P500のデータが入手できた1950年以降では、都合9回のリセッションが起きている。そのうち、突入時より脱出時のS&P500が上だった期間は6回、下だった期間は3回。騰落率は上が+19.7%、下が-9.0%。騰がる分にはいくら騰がっても構わないが、下がる分にもダイナミックな下げは記録されていない(もっとも今の株価水準から-9.0%も下げられたのではたまったものではないが)。
金本位制終えん(ニクソン・ショック)前後の株価を単純に比較するのには難があるとか、突入時と脱出時の為替レートを考慮に入れるべきではないかとする意見もあるだろう。また、各リセッション時における社会情勢・金融情勢それぞれの違いを考えると、一概に数字だけで比較するのはいかがなものか、とった考えもある。しかしそれでも十分興味深いデータであることに違いはない。
特に今回のリセッション(※予定)においては先の記事「「リセッション」を再確認してみる」でも触れたように、為替の急速な変動、各国のデフォルト危機、CDSやサブプライムローンなど過去に例を見ない金融商品による世界的な市場混乱、高レベルなレバレッジによる「非現実経済」の暴走的な拡大化など、過去のリセッション時期とは異なる条件が1ダースほど用意されているのが現状。さらに昨今の急落は、テクニカル・ファンダメンタル・モメンタムなど各種指標や市場心理学を無視した、「現金獲得のための換金売り」という要素が強いため、過去経験則とは異なる展開を見せる可能性は否定できない。
とはいうものの、「賢者は歴史に学び、愚者は経験に縛られる」という宰相ビスマルクの言葉もある。過去のリセッション時期における動向を「歴史」としてつかみとり、そこから何かを学び取り、今後の市場展開に活かせるようにしたいものだ。
(最終更新:2013/09/06)
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