スタンピード現象を再確認してみる
2008年10月28日 06:30
あまりにも激しすぎる動きをする最近の市場動向を指して「スタンピード現象」と表現をすることが多くなった。そのありようが余りにもぴったりくるので使っている表現だが、考え直してみればこの用語に関する詳細な説明をしていなかったことに気がついた。せっかくなのでここで一度簡単にまとめてみることにする。
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●「スタンピード現象」とは
「スタンピード(現象)」とは英語で「Stampede」と表記する。直訳としては動物や家畜などの集団が何かをきっかけに、どっと同じ方向に走り出すこと。
飼い牛のスタンピード現象の一例。車に乗った一家が柵の向こう側にいる牛に話しかけていると牛もそれに気がつき、興味を持つ。車は移動してしまうのだが、一家の声に反応した牛が一頭二頭と後をついていこうとするうちに、「声には気がついていないのに」周囲の動きに釣られて走り出し、最後には飼い牛のほとんどが車を追いかけてしまう。ほとんどの牛にとっては何故自分が走っているのかその理由も分からないまま駆け出すという形だ。
この現象に類する形で、群集の集団心理、特に日本人にはよくある傾向の「周りが走っているから自分も一緒に走ってしまう」もスタンピード現象の一つといえる。単なる集団心理なら「何が売っているのかも分からずに、行列があるからそこに並ぶ」類のものもあるが、スタンピード現象の場合は「なだれ現象」とも表現できるように、半ば以上「暴走」気味に行動が行われる場合を表す。
恐らく昔のテレビ番組か何かの検証実験(あるいはバラエティ番組)での一コマ。何の関係もないはずなのに、周囲が同じ行動を暴走的に行うと、つい自分も従ってしまう。
要は「判断力を失った群衆」が「いっせいに暴走する」様子を表現した言葉が「スタンピード現象」ということになる。自分自身はその方向に走る明確な意図・意識があるわけではない。しかし周囲が走り込んでいるので、自分もつい「そうしなければマズイな」「同じアクションを取らないと良くないのかも」と思い込んでしまい、集団の流れに合流してしまうわけだ。
●スタンピード現象が起きる原因と解消法
スタンピード現象が起きる原因は多々想定できるが、個々の状況が(特に精神的・情報量的に)不安定におかれている場合におきやすい。自分に確たる意識があれば、あるいは判断能力があれば、集団の流れの中でも自身を失うことなく立ち止まることが出来るはず。しかし足元がぐらついていたり自信がなくなると、つい流れにさからわずにしたがってしまう。
(情報不足、状況不安定)
・外部からの強力な衝撃
・集団心理
↓
「スタンピード現象」へ
上記の事例(ごく普通に歩いている人が、後ろからの集団に不意をつかれ、つい自分も走り込む)の場合には、まさに不意をつかれ驚かされることで、自身の精神状態が不安定となり、明確な意思判断ができなくなり、周囲の動きに従ってしまうわけだ。
スタンピード現象が一度起きてしまうと、なかなかその状態から回復するのは難しい。参加している人が正しい情報を入手するなり判断能力を回復して正気に戻るか、疲れてその行動を止めるか、あるいは何らかの物理的障害に行動を阻まれるか(上記動画の例なら、牛が柵に阻まれて車を追いかけることができなくなった時)、あるいは別のショックを与えて動きを物理的にストップさせるくらいである。
●市場もまたスタンピード現象の真っ只中
このようにして考えると、昨今の市場展開もそのほとんどが「スタンピード現象」によるものと見ること「も」できる。サブプライムローンやCDSなどの原因に代表される金融危機は、そもそも情報がはっきり公示されていないことが大きな要因。不安が不安を呼び、実物以上の恐怖が襲い掛かる。まだ金融機関の損失があるかもしれない、もっと大きな下方修正があるかもしれない、大規模な換金売りが今後も続くかもしれない。不確定な情報の中で「かもしれない」を連呼されれば、人は安全な方を選びたがるというもの(俗にいう「行動ファイナンス論」、参考【最近ストップ安が目立つのはなぜだろう】)。
ふと周囲を見ると、あちこちの銘柄で売りがかさみ、マスコミは日夜不安要素を並び立てる。これでは人々が少しでも安全と思われる道を選ぼうと、手持ち株式の投売り、あるいは買い控え(「さらに下がるだろう」)という周囲の動きに歩調をあわせてしまう。その時、個々の明確な意思がそこにあるのかどうかは、判断が難しい。
市場で起きているスタンピード現象を止める方法はあるだろうか。本来のスタンピードと同じ手法を用いるとすれば、「投資家が正しい情報を入手して判断能力を回復する」「売りつかれて、あるいは買い待ち疲れる」「物理的障害に行動を阻まれる」「別のショックが与えられて動きが逆転する(あるいは運動エネルギーを相殺する)」という状況が考えられる。
このうち「物理的障害」とは取引所での売買停止か、あるいは株価がゼロになるかだが、論理的な方法ではない。前者は再開後にさらにパニックを引き起こしかねないし(他の状況は何ら回復していない場合)、後者は理論上はありえても現実的ではない。
と、なるとあとは「投資家に正しい情報を与えて判断能力を回復させる」か「売りつかれ、あるいは買い待ち疲れ待ち」か「別の(反対方向の)ショックを与えて動きを相殺させる」しかない。一番理想的なのは第一の方法だが、金融・政府当局や金融機関自身ですらサブプライムローン・CDSの損失額などを把握しきれておらず、これは難しい。さらにヘッジファンドの換金売りの動向など、後になって結果論として「あのころ、終わりを告げたのかな」と再認識する程度でしか情報は得られない。
大規模な財政政策の発動で「売り圧力の相殺」が出来ればそれも良いのだが、どこから購入資金を持ってくるかという問題になる。どこぞの企業のように輪転機をまわして社債を発行したり、国債をすったり、第三者割当増資をしようものなら、基盤そのものが希薄化してゆらいでしまう(伝説の「日銀砲」発動という手も今では使えまい)。
となれば残された道は、少しでも多くの情報を的確に公開して投資家らの判断力の回復を待ちつつ、「売りつかれ、あるいは買い待ち疲れ待ち」を期待するしかない、ということになる。消極的だが、消去法を用いるとこれが一番現実的な答えとなってしまう。
まずは直近の問題として、売り圧力を強めている外資系ファンドなどの換金売りがどこまで続くのかを見極める必要がある。彼らの場合、いくら損をしてでも現金を欲しているので、その前には企業の財務・営業成績状態だろうと株価だろうと関係なく売り込んでくるからだ(それに為替の問題もある)。
雰囲気レベルでもかまわない。売り枯れが確認できれば、それをきっかけとしてスタンピード現象に幕を閉じさせることができるだろう。
あるいはその後には、逆方向の「スタンピード」が起きるかもしれない。これもまた、過流動性ゆえの出来事ではあるのだが。
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(最終更新:2013/08/02)
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