歴代のアメリカ市場急落の下落率を比較してみる
2008年10月14日 06:30
現在進行中の「金融工学暴落」こと金融危機相場。サブプライムローン問題による金融商品の焦げ付きに端を発し、市場の五里霧中感の露呈、CDSをはじめとしたぼう大なボリュームのレバレッジをかけた金融商品群とその欠損の発覚、極端な信用収縮による流動性の途絶など、「金融工学」の名の元に世に送り出された商品群は一部の関係者のふところを富ませた後、今や世界に股をかけて世界を混乱に陥れ、株価を奈落の底に叩き落しつつある。今件と理由や事情は違えど、過去においても何度と無く似たような株価の急落は発生している。【NewYorkTimes】では「How This Bear Market Compares(今回の軟調相場はこれまでのとどのように比べられるのか)」と称し、過去の有名なアメリカ市場における急落相場・停滞時期と今回の相場の比較チャートを指し示している。非常に興味深い図式なので、一部を引きなおし、さらに解説を加えることにする。
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●歴代の「急落相場」比較
元記事では冒頭で「今回の急落相場はすでに歴史上類を見ないひどいものとなっている」とした上で、過去80年間にわたる急落相場におけるS&P500(Standard & Poor's 500 Stock Index。スタンダード&プアーズが算出している株価指数。代表的な500銘柄の株価を元に計算されている。日本ではTOPIXや日経平均株価が近い)の動向をグラフ化している。
具体的にはそれぞれの「急落相場」における、急落の気配が感じられた月の月末のS&P500の値を100とし、そこからその「急落相場」が終わるまでにどの程度の割合で下落したのかを、毎月月末毎に計測・抽出してグラフ化したもの。どの時点を「急落相場」のスタート月・終了月とするかはグラフ作成側の判断によるものなので、作成の仕方では多少の差異が生じるかもしれないが、雰囲気はつかみとれるはずだ。
今回の「金融工学暴落」と過去の暴落相場・停滞時期におけるS&P500の下落率推移(クリックして拡大)
いくつか図の読み方の解説を。グラフ上の年月は各「急落相場」の終了判定月。明らかにトレンドが上昇に向かったと判断できれば、急落相場は終了というわけだ。ただし2008年10月、つまり現在進行形の相場は別。まだ上昇トレンドが確認されてはいない。
続いて各相場の説明。最初の茶線の「1932年6月」はいわゆる「世界大恐慌」によるもので、1929年8月~1932年6月。何度かのリバウンドを繰り返しながら、最終的に株価は80%以上下落したことになる。ちなみに1932年に底をつけたものの、この急落の前の水準に株価が戻るまで29年間(1958年)かかったと説明されている。
続いて黄土色の「1942年4月」は1937年2月以降の大不況。この不況がアメリカを戦争に駆り立てたとする説があるほど。他の急落相場と比べ、非常に長い時間をかけて停滞しているのが分かる。……お気づきの通り、「世界大恐慌」のところで「急落前の水準に戻るまで29年間かかった」というのは、この戦時直前の急落も挟んでいるからに他ならない。
次に緑色の「1974年10月」。1972年12月からのもので、説明にいわく「過去の急落相場と比べれば期間も短くおとなしめなものではあったが、インフレが加速していることもあり、実質的な価値は徐々に下落していった」とある。
次の青色の線、「1987年12月」はご存知の通り「ブラマン」こと「ブラックマンデー」。1987年1月からのものだが、特徴的なのは下落率が「世界大恐慌」に匹敵するほどの急激なものだったにも関わらず、立ち直りも早かったこと。コメントでは「この株価急落がその後の株式ブームのきっかけとなった」とある。まさに災い転じて福となす。
薄い水色の「2002年10月」は2000年2月に始まる株価停滞時期。例の「9.11.」をはさんでいるが、それが株価急落相場を形成したのではないことを裏付けている(もちろん一時的に大きな下げを見せることにはなったが)。元ページでは他にも幾つかの「株価停滞時期」が掲載されているが、現在進行形の相場と比較する意味はあまりないので今回は省略する。興味のある人は元記事から参照してほしい。
●傾向と分析
さて今回の「急落相場」の傾向をこれまでのと比較すると、次のような特徴を見出すことができる。
・2008年10月の「急落相場」の下落スピードは、これまでの「急落相場」の中ではもっとも大きなもの。直近の2002年10年における最下層と同じ水準に、半分以下の期間で到達している。
・下落傾向そのものは2002年10月や1987年12月のような近代型のものではなく、1932年や1942年のような古典型のそれに近い。一番パターンが近いのは1942年型か。
・他の急落相場に見られた、複数月に渡る横ばい、あるいはリバウンドがほとんど見られない。
金融のシステムが進歩発展し、情報伝達速度や量も昔とは比べ物にならないほど増加している。そしてくだんの「過度なまでのレバレッジ」、さらには情報が過度なまでに提供されるのが当たり前となったため、逆に「情報不足への恐怖感」が以前以上に大きなものとなっている。それゆえに過流動性の問題が発生し「スタンピード(現象)(Stampede)」が起きやすくなっている(※)。情報絶対量が圧倒的に少なく、環境も整備されている現在において、半世紀以上も前の「急落相場」に近い傾向が見受けられるのも、これらの要素が原因だと思われる。
もちろん「サブプライムローン」「CDS」(を利用した者たち)など、過去には存在しなかった「健全な金融市場を脅かす巨大な敵」の存在も急落の度合いの大きさに拍車をかけているに他ならない。
※スタンピード現象:牛の群れが一発の銃声など大きな衝撃音で一斉に驚きパニックにおちいり、正しい判断も出来ずに同じ方向に暴走するさま、そしてそれと似たような群集心理や群衆行動のパターンのこと
今回の急落相場は全体像が見えない「敵」との戦いにおける相場ということもあり、一つの目安にはなるとしても、他の急落相場と似たようなパターンを踏襲するとは考えにくい。それでもあえて過去の事例と比較して考えると、現状の下落率から10%前後下げたところで踊り場に達する、あるいは反発を開始する傾向がいずれにおいても見受けられているので、そう遠くないうちに下げ止まりが見られるもの、と読むことができる。
ただしそこから反発するのか(2002年・1974年型)、多少反発しつつも中長期的には下落を続けるのか(1942年・1932年年型)になるのかは分からない。そもそも今回の急落相場は(これまでに無い)外部的要因が多すぎ、「以前の傾向」と比較すること事態が意味を成していないのかもしれないのだから(チャートの形云々では説明できないということ)。
このチャートが10月分で終了する、つまり11月以降は上昇市場に転じるというのはあまりにも無理な考えだろう。出来れば1974年型の早回しバージョンということでもう一押しした後に反転を開始する、くらいでも楽観視に過ぎるかもしれない。「外部的要因」が一刻も早くカタがつき、上昇機運が市場に満ちあふれる時期がやってくることを心から祈るしかない。
日本においては【過去60年間の日経チャートと「7%」「20年サイクル」・本当に「長期投資」は必勝法なのか】の「20年サイクル論」によれば、そろそろ「切り替え時期」がやってくるはずなのだが……
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