東証は「冷静」大証は「慎重」・二大取引所社長が株価急落を受けて談話発表
2008年10月11日 19:00
東京証券取引所の斉藤惇社長は10月10日、昨今の株式市場の急落を受けて「冷静な投資行動をとられるよう、お願いいたします」との談話を発表した。投資家に向けてパニックにおちいらないようにとの注意をうながした形だ。同日大阪証券取引所の米田道生社長もほぼ同じ文面で「慎重な投資行動を取られますようお願い申し上げます」との談話を発表しており、日本の東西二大取引所のトップがそろって投資家に落ち着くよう求めた形となる。
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すでに[株式市場雑感(08/10/10)]や【日経平均株価の下落率上位ランキングをグラフ化してみる(10月10日版)】でお伝えしているように、10月10日は2日前の10月8日に記録した-9.38%をさらに上回る-9.62%という記録を見せるほど市場が急落。特に前場寄り付き以降においては日経平均先物があまりにもの下落振りに、TOPIX先物とあわせサーキットブレーカーが9時8分から15分間発動されるほどの始末だった。
このような事態を受けて、東京証券取引所の斉藤惇社長と大阪証券取引所の米田道生社長は同時に談話を発表している。それぞれを転載するが、両者とも基本的には同じ事を述べているものの、微妙に言い回しなどが違うことが分かる。
■東証:最近の株式市場に関する社長コメント
最近の株式市場は、世界的な金融不安の高まりから、各国とも相場が大幅に下落する状況になっております。
こうした状況を踏まえ、中川財務大臣兼金融担当大臣より、現下の国内の市場の状況に関して憂慮しており、政府としても経済対策の検討を踏まえて適切に対応していく旨言及されているとうかがっております。
当取引所といたしましても、これまで以上に市場の動向を注視するとともに、証券取引等監視委員会等とも連携して、相場操縦等の不正行為に係る監視を徹底してまいります。
投資者及び取引参加者の皆様におかれましては、冷静な投資行動をとられるよう、お願いいたします。
■大証:社長談話
大規模な金融機関の破綻や大幅な株価下落といった、最近の国際金融市場における緊張の高まり等を受け、我が国でも大幅に株価が下落する状況となっております。
当社といたしましても、市場における透明、公正、円滑な価格形成機能の確保にむけて全力で努めていく所存です。
投資者の皆様におかれましては、事態の推移を冷静に見守り、慎重な投資行動を取られますようお願い申し上げます。
また、市場を取り巻く情勢が不安定なときでもあり、風説の流布等、市場の信頼性を損なうような行動は厳に慎まれるよう重ねてお願いいたします。
両者の違いを箇条書きにすると、次のような形になる。
・東証より大証の方が「自分たちに危機が迫っている」という緊迫感が感じられる(株価の下落状況に対する表現の違い)。
・東証が「中川大臣の言及を受けて、ということもあり」のような他所からの後押しもあり、と思わせるニュアンスがあるのに対し、大証では「事態を受けて自社で判断した」ように読める。
・実働行動において東証が「注視」「監視」と「結局見てるだけですか?」と批判されかねない表現なのに対して、大証では「全力で努めていく所存」とし、あらゆる行動をオプションとして用意している表明をしている。
・東証が投資家に要請しているのは「冷静」さ。単純に感情的なところにポイントを置いている。大証では「慎重」さ。感情はもとより大荒れの市場動向で、大胆な行動は時として致命傷に成りかねず、現状はそのリスクが極めて高いことへの警告をしている。
・大証ではさらに、このような混乱期に乗じて発生しやすい「デマなどの流布による市場の混乱に拍車をかけるような行動」を厳しく戒めている。
恐らく両者の談話とも本人自身が書き上げたのではなく、それぞれの取引所の担当部署が推敲したものだと思われるが、それにしても「東証の傍観者・第三者的な雰囲気、悪く言えば危機感の薄さ」が浮き彫りになるのが分かる。
今週一週間、特に10月10日(「萌えの日暴落」)がいかに市場にとって異常事態だったかは次のチャートを見ても一目瞭然。
10月10日の日経平均株価の日中足
これは10月10日の日経平均株価の日中足を示したものだが、開場してから40分くらいは階段のようなチャートを見せているのが分かるだろうか。これは図中の説明にもあるように、日経225採用銘柄のほとんどが特別売り気配で値がつかず、5分毎の相対値変更(売り買い数の均衡値がバランスをあわせるために、多いほうの要求に合わせて上下する)毎にようやく取引が成立し、日経平均株価に反映される状況を表している。9時30分時点でも225銘柄のうち175銘柄が寄り付かず、9時41分につけた最安値(8115円41銭)以降ようやく寄り付いた後の銘柄に買い戻しなどの動きが見え始め、「通常の」チャートを形成した次第。
治世論の中には「何があっても動じない姿勢を見せることが大衆の安心感をもたらすことになる」というのがある。その観点からすれば東証の姿勢はまさに正論なのだろう。しかし同時に事故や事件、戦争などの(情報不足や偽情報などで)混乱状況におちいっている時には、自らが当事者であることや断固たる対応姿勢を見せると共に、正しい情報を適切に、過不足無く伝えることが求められる(地震などの災害時に一番リスクが高いのは、デマなどの偽情報が流布されること。そしてそれと同じくらい「情報の空白時間・空間」に人々は不安を覚えることになる)。
【加速化する金融危機を時系列化してみる】にもあるようにグリーンスパン前米連邦準備制度理事会議長をして「100年に一度あるかないかの深刻な事態」といわしめ、ウォーレンバフェット氏をして【バフェット氏いわく「現在の金融危機は”経済版真珠湾攻撃”だ」】でも触れたように「アメリカは真珠湾攻撃に等しい衝撃を受けている」と表現させるような昨今の状況が、果たして「単なるイレギュラー程度のもの」なのか、それとも戦争状態に等しいレベルのものなのか。そしてその認識に対してどのような対応を取るべきなのか。多くの人が今一度考え直してみなければならないだろう。
(最終更新:2013/08/02)
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