【更新】テクニカルもファンダメンタルも通用しない「叩き売り」相場
2008年10月09日 08:00
10月8日の東京株式市場は全面安の展開となり、一時日経平均は前日比で-996円09銭安まで売り込まれる事態となった。下落率は市場第三位を記録、日経平均先物は1000円安を突破し、多くの市場関係者を戦々恐々とさせている。このような言わば「バナナの叩き売り的状況」を適切に解説している記事が[NIKKEI NET]に掲載されていた。それを引用しながら簡易に「今、ここにある安売り状態」を説明してみることにする。
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●「お金返して」「お金ないよ」
現在はどうひいき目に見ても「金融信用不信によるパニック状況」にある。大手銀行同士ですら、互いの銀行の倒産リスクを懸念し、まともな金利では短期貸出しを行わない始末(だから各国の中央銀行が市場への資金供給を行っている)。「もしかしたらヘッジファンドもいきなり解約手続きをストップされるかも・破たんするかも」「市場が急落してるから大損する可能性が高い。ならばいまのうちに……」と、ファンドに対する解約への動きが加速するのは必然。
「株式しかないよ」(ファンド)
「お金貸せません」(銀行)
↓
「株式叩き売って現金用意しないと!」
(ファンド)
↓
市場での「叩き売り状態」
ファンド側としては解約を希望する契約者に、所有している株式そのものを手渡すわけにはいかない。現金を払わねばならないのだが、取引先の銀行も先の「倒産リスク」・さらには手持ちの資金そのものが不足している(他金融機関から融通できない)ため、現金が用意できない。従来銀行などとの間には「コミットメントライン(融資枠契約)」といって、「何かあったらこの額までは貸し出ししますよ」という契約が結ばれているのだが、事態が事態なだけに有名無実化されているらしい。
そこでファンド側としては「もうこうなったら、いくらでもいいから、値がつけばどんどん手持ち株を売って現金を手に入れるしかない」とばかりに、市場で叩き売る派目になる(お家芸の空売りは規制中)。ただでさえこの時期(10月)はファンドの決算関係で利益を調整するためにファンドからの売りが増える時期なのに、このような状況が加味されるだけに、「大バーゲンセール」状態となる。その結果が昨今の株価急落というわけだ。
●まるで「バナナの叩き売り」
ここ数日の「理不尽なまでの下げ」を見せた銘柄、特に大型銘柄の動向を見ると、「ちょっと買い注文が出るとそこに売りが叩き込まれる」様相が見て取れる。とにかく「何が何でも売りたい、現金化したい」という焦りが、売買状況をリアルタイムで見ていても手に取るように分かる。ここまであからさまな展開も珍しい。
ところで当然の話だが、株式の取引は売り手と買い手がいてはじめて成立する。ここまであからさまに「投売り」が続くと、買い手側も「まだまだ下がるかも。今買うよりもう少し値が下がってから」と思うのは道理といえる。必然的に買い注文は減り、売り注文が叩き込まれるため、値が急激に下がる(ラグビーで、敵が一人しかいない状況でのスクラムと、敵が百人いる状況でのスクラムを想像すればよい。前者は容易に突破でき、タッチダウントライ=ストップ安も容易だ)。昨今の状況はまさにそのような状況。
表現を変えてみよう。有名な行商スタイルとして「バナナの叩き売り」がある。バナナは変色・傷みやすいため早めに売り切る必要がある。そこで行商においてはその場で売り切るためにお客を集め、少しずつ値を下げて多くの人に買い取ってもらうようにしなければならない。
最後の段階になると、「売れ残りで持ち帰っても、痛んで商品にならないだけ」なので、「ええい、もってけドロボー、まとめて●×円だ!!」といった具合になる。店側としてはどうしても売り切る必要があるため、最後には採算度外視にもなりうる安値で売らねばならないのだ。
今の市場はその「もってけドロボー!!」が連鎖反応的に起きていることになる。
●テクニカルもファンダメンタルも無い世界
売り手の「現金化したい」という思惑による投売りで壮大なまでの売り圧力が起き、買い手も「さらに下がるかも」と買いには及び腰になっているため、通常の需要・供給のバランスが通用しない世界が市場で形成されている。人間心理を元にした駆け引きなど考慮外であり、そこには過去の投資経歴から蓄積・解析されたテクニカルもファンダメンタル(財務的な面からの投資判断)も通用しない。まさに「この新しい世界へようこそ」的な状態。
元記事では「お買い得なのは間違いない。今の相場の流れが変わらないと計算上、東証1部の株価純資産倍率(PBR)はほぼ1倍になる。あとから振り返れば『解散価値まで下がったね』ということになるのだろう」と言及されており、「需給関係やファンダなどを無視して相手側の事情だけで売り込まれているのだから、これこそチャンス以外の何物でもない」と説明している。確かにそうだろう。
ただし、いくつか懸念もある。ここまで株価が下落し、それを元に景気のさらなる悪化がすすめば、ファンダメンタル上の数字も今後き損する可能性は十分にある。先の言なら「株価純資産倍率はほぼ1倍」とあっても、一年とたたないうちに(例えば有価証券含み損、事業成績の悪化などから)資産が目減りするリスクを考慮しないといけない。見た目が「お買い得」でも、本当に「見た目のお買い得」と「本物のお買い得」があることに注意しなければならないわけだ。何をもってして「『お買い得』と判断する」のか。今まで以上に難しい判断が迫られている。
「現金化しなければならないからいくら安くなっても売り込む」という換金売りの流れは、去年の夏以降何度か大規模な形で見受けられた。今現在起きている流れは、その中でも最大級のものだと思われる。この傾向は遅ければ10月一杯くらいまでは続くだろう(ファンド側の決算事情)。また、市場そのものの不安定さにより、通常の「投売り」が加速する可能性もある。一方で元記事が指摘しているように、株価がさらに下がれば「お得感からの買い込み」が増えてくる。
どのあたりの水準が「売り」と「買い」の均衡線になるか、今のところはまだ読めない。一つだけいえるのは、現状が「これまでの常識では通用しない状況にある」ということ。後から考えてみればこの場が「天与の買い場」なのかもしれないし、外資撤収による「長きにわたる低迷期の始まり」なのかもしれない。それは市場全体、というわけではなく、銘柄・セクター単位で分け隔てられることだろう。
まさにこれまで以上に「自分自身のしっかりとした判断」が求められる時代となったわけだ。そう思えば、この下落市場の中でも少しは気が晴れてくるというものだろう。
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