昨今の市場混乱時におけるバフェット氏の投資三原則

2008年10月06日 08:00

The Snowball: Warren Buffett and the Business of Lifeイメージ先日【ゴールドマン・サックス、総計1兆円強の増資へ】【バフェット氏いわく「現在の金融危機は”経済版真珠湾攻撃”だ」】でも触れたように、旧投資銀行トップのゴールドマン・サックスに対し50億ドル(5250億円)もの増資を行った、世界的な投資家であり「オマハの賢者」との呼び名を持つウォーレン・バフェット(Warren Edward Buffett)。先日同氏の認可を受けた伝記としては最新版の書籍『The Snowball: Warren Buffett and the Business of Life』が9月29日に発売されたことにあわせ、同誌の筆者Alice Schroeder嬢は複数のメディアからのインタビューに答えている。その中でCNBCで行われたインタビューの中で同嬢は、バフェット氏の(昨今の金融市場の混乱に立ち向かう)投資スタイルについて著書内の記述を引用する形で、3つの項目を掲げている(【該当記事】)。いわく「市場が混乱におちいっている時の、バフェット氏の三つの投資ルール(Warren Buffett's Three Rules for Investing In a Crisis)」である。

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1. "Cash combined with courage in a crisis is priceless"
(危機の際、勇気を奮って使える現金があるのは何物にも代えがたいものだ)

2. "Dont invest in things you don't understand"
(自分が理解できないものには投資すべきではない)

3. "Don't try to catch a falling knife until you have a handle on the risk"
(リスクを完全に掌握するまでは「落ちるナイフ」をつかむべきではない)


いずれもオーソドックスな言い回しで、バフェット氏がこれまでの著書・許諾本などで語り伝えてきたことの再確認に近いものとなる。昨今のバフェット氏の投資判断が正しいものだったかどうかは、今後の金融市場の展開が結論を出すことになるが、これら3つのルールをもとに考え直して見ると、次の要件が推測される。

バフェット氏は少なくとも現状を「危機」と認識している
 ゴールドマン・サックスへの投資は50億ドルで、氏の手持ち現金総額450億ドル超(【相場傾向転換のきざし? バフェット氏が次々に「買い出動」】)と比べれば、まだ「ありきたりな”お買い物”の一つ」のレベルに過ぎない。とはいえ、公共ジャンク債や非上場の工業グループへの投資額以上の額に投資をしていることを考えると、現状が「危機」であると認識し、その上でゴールドマンへの「勇気を奮った」投資を行ったと判断できよう。

バフェット氏は投資銀行の、少なくともゴールドマンの生業を理解している
 50億ドルの投資を行ったということは、少なくともバフェット氏はゴールドマン・サックスの事業や今後の展開戦略を十分に理解していることになる。一見意外なように見えるが、かつて投資銀行のソロモン・ブラザーズ救済のために自ら社長に就任した経歴も持つことから、突拍子もない話ではない。

バフェット氏はゴールドマン、さらには金融市場の混乱そのもののリスクを掌握している
 バフェット氏は自身の判断として、昨今の世界全体を覆う金融市場の混乱と、その「落ちどころ」を完全に把握。その上で「落ちるナイフ」の1本ともいえるゴールドマン・サックスへの投資を行ったことになる。つまり氏は「少なくともゴールドマン・サックスは今後何が起きても大丈夫だろう」と見越し、投資をしたことになる。
 同時に、そのような認識が市場全体で行われるからこそ、ゴールドマン側も過大ともいえるプレミア(好条件)をつけてまでバフェット氏に増資を願い出たものと推測される。


昨今の金融市場はサブプライムローンやCDSなどシステム上の根本的な欠陥や、関係者の暴走・暴挙・モラルハザードが大きな要因ではあるが、同時に市場に携わる関係者の極端な「疑心暗鬼」「心理的不信・不安感」が少なからぬファクターとして持ち上がっている。「~かも」「~だったらどうしよう」という不信感が極端なリスク回避と消極性を生み出し、市場そのものが「凍結」に近い状態に陥っているのが実情だ。

牛の群れが一発の銃声など大きな衝撃音で一斉に驚きパニックにおちいり、正しい判断も出来ずに同じ方向に暴走するさま、そしてそれと似たような群集心理や群衆行動のパターンを「スタンピード(現象)(Stampede)」と呼ぶ。現在の金融市場はまさに極端にマイナス・リスク回避方向へ走り抜けるスタンピード現象が起きている。「スタンピード」を止めるためには、正確な判断を行うための情報開示や市場そのものの「適正化」が必要になるが、同時に「パニックに陥っている頭を正常に戻す」別のインパクトも有効(俗にいうショック療法)。今回のバフェット氏の投資が成功利に進めば、それがその「別のインパクト」の一つになるかもしれない。

少なくとも【「ウォーレン・バフェットの憂鬱」】で触れたように、絶妙なタイミングで中国からの投資を引き上げた氏の投資判断であれば(なぜかこの「撤退タイミングの巧妙さ」について日本ではほとんど報じられていないのが不思議だが……)、それに期待するだけのものは十分あるだろう。


(最終更新:2013/09/06)

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