「半値八掛け二割引」で株価の底値を予想してみる
2008年10月05日 12:00
市場・相場の世界には昔からの経験則に基づいた相場格言が数多く存在する。その一部は携帯電話向けメールマガジン【今朝の投資格言】でも毎日(平日)配信しているが、意外に的を射ているものが多い。今回スポットライトを当てる「半値八掛け二割引」もその一つ。このことわざを元に、個別銘柄の「底値」を予想しようという、大胆不敵なお話。
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●「半値八掛け二割引」とは!?
そもそも「半値八掛け二割引」とは大阪の薬問屋や繊維問屋が商品を買いたたく・売り投げるときに使っていた言い回し。商品に引き合いがない場合、まず半値に値引きをするが、それでも売れない場合そこから8割の価格(=2割引き)にする。そしてさらに売れない場合は2割の値引きを行う。つまり、
0.5×0.8×(1-0.2)=0.32
で、元の価格の3割2分ぐらいが底値の目安である、という話。この心理的なやり取りが他の市場でも成り立ちうるとして、「大きな相場が終わったあとは、その時の最高値から半値八掛け二割引の値が底値となりうる」というのが、今一般に使われている「半値八掛け二割引」の意味合い。
●コア30銘柄で「半値八掛け二割引」を計算する
そこでまずは、東京株式市場に上場している銘柄の中から指針となりやすいコア30(TOPIX Core30、東証第一部市場銘柄の中から時価総額・流動性が特に高い30銘柄で構成された指数)構成銘柄について、過去5年間の最高値と最安値、直近10月3日の終値を抽出する。冷静に考えれば今後目の前に上昇相場が待ち構えているとは思えず、むしろ「相場展開におけるひと区切り」の終わりに向かっている感が強いので、この区切りで問題はないだろう。
そしていくつかデータをグラフ化する。最初に、最高値に対する10月3日終値の割合。この値が低いほど、大きく値を下げていることになる。
コア30銘柄の、最高値に対する10月3日終値の割合(クリックで拡大)
すでに最高値から半額以下に値を落としている銘柄もあれば、それなりに高値を維持している銘柄もある。「半値八掛け二割引」ラインを引いてみたが、それに近づいている銘柄もいくつか見受けられる。
「仮に」すべての銘柄がひと相場の終焉と共に「半値八掛け二割引」の値に収れんするとすれば、現時点の株価からどこまで下落する余地があるのか。上のグラフの鏡写し的なものになるが、それを算出したのが次のグラフ。
10月3日終値からの「半値八掛け二割引き」への下落余地(クリックで拡大)
「まだまだ下がる余地はあるかもネ」という雰囲気で充満しているようなグラフではある。
●格言はあくまでも一般論。個別ケースでは色々と……
上記グラフを見て、例えば「アステラス製薬はこれからの下げ相場で6割も株価を落としうるのか!?」とか「新日鉄やコマツ、JFEはそろそろ底値というワケね」といった早とりちをされては困る。これらのグラフは格言を元に数字をやりくりして算出した一つの指標に過ぎないのであり、個別ケースの事情はまったく反映されていない。
個々の銘柄のチャートを見れば分かると思うのだが、ここ数年間で一大相場を形成して値を上げ最高値をつけ、そこからじりじりと株価を落としている銘柄が多数を占めている。このようなパターンの場合、格言通り「ひと相場が終わったあとの安値目安」としての「半値八掛け二割引」が当てはまりやすい。もちろんこの「当てはまりやすい」銘柄にしても、32%でぴたりと止まるわけではなく、オーバーランをする傾向が強い(市場は常に過流動性のもとに動く)。
一方でこの五年間の市場全体の状況とあまり係わり合いがないかのような株価の推移をしている銘柄は、「半値八掛け二割引」の傾向が当てはまりにくいと思われる。そもそも「ひと相場」そのものが形成されていないのだから、それが終わったあとの格言が当てはまるはずもない、というわけだ。右に【日立製作所(6501)】の5年チャートを記したが、これなどが好例といえる。「下落余地が大きい」と数字がはじき出されている銘柄の多くがこのパターンに該当するので、留意が欠かせない。
さらに「半値八掛け二割引」、つまり最高値の32%が底値になる、というわけでもない。格言は「あくまでも(底値が)そのくらいの値に収れんしうる」と示しているに過ぎない。最高値が(異様な状況によって)異様な高値をつければ、そこからの下値は32%どころか20%にもなりうるし、財務状況やビジネスモデル、外部的要因から40%~50%、あるいは6割以上の値で底値となる銘柄もある。
あくまでも「現時点」という意味だが、過去5年間における「最安値」の「最高値」に対する割合を示したグラフを見ればそれが分かる。
過去5年間の最高値に対する最安値の割合(クリックして拡大)
JTなどは最安値が最高値の1/5程度にまで落ち込んでいるが、NTTドコモなどは半分程度で済んでいる。
さらに今回は「5年」で区切りをしたが、銘柄によって「ひと相場」の区切りが異なる場合もある。5年より前で最高値をつけている銘柄もあれば、すでに「ひと相場」が終わったあとで、現在はエネルギーを充てんし、上昇機運の雰囲気を感じられる銘柄すら無くはない。
ことわざや格言の多くは、人間心理の観察や経験則の積み重ねから形成され語り伝えられてきたもの。そしてそれらの言葉は多くの人に伝えられ意識されるほど、現実の相場に影響を及ぼしうる。【不確定性原理とテクニカル理論】で触れた、「意識する人が増えるほど、その理論が正確さを増すようになる」という話だ。その観点では、昔から語り伝えられている「半値八掛け二割引」の信ぴょう性は、ゼロというわけではないと考えて良いだろう。
だからといって繰り返しになるが、「半値八掛け二割引」からの下落余地が大きい銘柄を空売りしたり、ほとんど「半値八掛け二割引」まで落ちた銘柄を何も考えずに買いこむことは避けねばならない。あくまでも「一つの指針」に過ぎず、むしろ昨今のような外的要因によるところが大きい相場展開では、「常識論」「過去の事例」が通用しないことが多々ある。「そういえば、そんな話もあったかな」程度に頭の片隅に記憶しておく程度で十分といえよう。
ちなみに。日経平均株価の直近5年間における最高値は1万8300円39銭。そこから「半値八掛け二割引」を計算すると6000円弱という値になる。実際には直近5年間の最安値が9614円60銭なので、そのあたりから考えると1万円前後が目安となるのかもしれない。また「仮に」だが、日経平均株価がそこまで落ち込むようなことにでもなれば、そこが底値と判断するに足る材料の一つとして「半値八掛け二割引」が思い出されることだろう。
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