「貯蓄をしない」それとも「貯蓄できない」? 貯蓄ゼロ世帯は2割強・過去50年で最高レベルに
2008年10月30日 08:00
金融広報中央委員会は10月28日、2008年の「家計の金融行動に関する世論調査」の結果を発表した。それによると、2008年6~7月時点において預貯金も含めた貯蓄性金融資産(要は貯蓄)を持たない人は全世帯の2割強に達していることが明らかになった。また、公開されている過去46年間分のデータを確認すると「非貯蓄世帯」の割合は5%台を維持していたものの、1990年代以降再び上昇を始めるという奇妙な現象を見せていることが分かる(【発表リリース、PDF】)。
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今調査は6月10日から7月18日の間、世帯主が20代以上で世帯員が2人以上の全国の世帯7968世帯を対象に行われたもので、回収率は48.8%・3886世帯。調査方法は訪問と郵送の複合・選択式。
今回取り上げるデータにおける「貯蓄の無い世帯」とは預貯金(郵便局への貯金、銀行への預金)も含めた貯蓄性金融資産を持たない世帯のことを意味する。なお、事業のための預貯金口座、給与の振り込みや振り替えなどで一時的にしか口座にとどまらないような預貯金は「貯蓄」には当てはまらない。要は「積み立てられている資産」の有無である。また、あくまでも金融資産であるため、不動産や知的財産なども該当しない。
公開されているデータは1963年以降のものだが、これを折れ線グラフ化すると次のようになる。
貯蓄性金融資産非保有世帯(貯蓄の無い世帯)の割合
調査開始直後の1963年には22.2%という高い値を示していたものの、その後急速に割合は減少。1960年代後半までに5%台に落ち着き、その後多少のぶれはあるものの、5%前後で推移している。
しかし1980年の後半から上昇の兆しを見せ、1990年代前半には平均値が約10%の領域に上昇。しばらくその水準を維持していたものの、1999年~2000年あたりから再び上昇を開始。2003年には20%を突破し、以後20%台前半という高い値で推移している。
今調査は20代以上の世帯員2人以上の世帯を対象にしているため、基本的に家計単位(配偶者、あるいは配偶者+子ども、または母子・父子家庭)。そのような家計環境において、「貯蓄がゼロ」は(不動産による資産家など特殊事例を除けば)非常に厳しい状況であることが容易に想像できる。
・「1980年後半から1990年前半」
フリーター文化の形成と盛隆!?
・「1999年から2000年」
労働者派遣法改正が遠因??
非貯蓄世帯が急上昇した「1980年後半から1990年前半」「1999年~2000年」それぞれにおいて何が起きたのかを確認したが、前者は恐らく「バブル崩壊後におけるフリーター文化の形成とその増加」が関係してくるものと思われる。所得が低い層ほど貯蓄が難しいことは別データでも実証されており、「フリーターで貯蓄するほど余裕が無い」人が増加したことにより、非貯蓄世帯率が上昇したものと思われる。
一方「1999年~2000年」についてだが、関連性のある事柄を見出すことが出来なかった。可能性としては1999年の「労働者派遣法改正」があるが、直接結びつけるだけのデータとまでは言いがたい。ただしフリーターの事例と同じような経緯をたどっているとすれば、その可能性は否定できない。
なお同調査では2006年から「貯蓄ゼロ」の世帯のうち、貯蓄性銀行・郵便口座や証券口座の有無についても尋ねているが、3年間とも大体8前後が「口座そのものが無い」と答えている。決済用、振り込み・当座資金用の口座を別とすれば、そもそも貯蓄する意思も持たない(持てない)ということになる。
繰り返しになるが、中には不動産所有者もいるだろうし、このようなライフスタイルを好き好んでいる人も想定される。しかしそれらの人たちが多数派であるとは考えにくい。「貯蓄は美徳という時代は終わった」という話は耳にしたことがないし、今件の貯蓄には投資系金融資産も含まれるのでこれも的外れ。
今からおよそ20年前と10年前の2回に分けて、いったい何が起き、そして何が進展しているのか。考えてみるべきなのかもしれない。
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