不動産や建設業界の軟調さが響く…2008年9月分の景気動向指数は現状6か月連続の下落、先行き2か月連続の上昇
2008年10月09日 19:40
内閣府は10月8日、2008年9月における景気動向の調査こと「景気ウォッチャー調査」の結果を発表した。それによると、各種DI(景気動向指数)は相変わらず水準の50を割り込んでいる状況には変化はないものの、先行き指数は先月同様に少しながらも改善の兆しが見られるようになった。基調判断は先月から続き「景気の現状は厳しい」であり、引き続き予断を許さない状況にある(【発表ページ】)。
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●金融不安で消費はマイナス、ガソリン低下でちょっと安心
文中・グラフ中にある調査要件、及びDI値についてはまとめページ【景気ウォッチャー調査(内閣府発表)】上ので解説済みなので、そちらで確認してほしい。
9月分の調査結果は概要的には次の通り。
・現状判断DIは前月比マイナス0.3ポイントの28.0。
→6か月連続の低下。「悪化」が増えている。「良くなっている」派はますます壊滅。
→家計は身近な商品の値上げが継続、さらに事故米など食品の安全にかかわる問題が発生して外食の手控えもあり、消費者の節約志向が続く。企業は原油は下がったものの、不動産や建設業界の軟調さが響く。
・先行き判断DIは先月比プラス0.1ポイントの32.1。
→2か月連続のプラスに。
→ガソリン価格の下落に期待。ただしアメリカ向け受注が減るとの懸念から企業DIは減少。
●2001年パターンを踏襲中・先行き指数が失速か
それでは次に、それぞれの指数について簡単にチェックをしてみよう。まずは現状判断DI。
景気の現状判断DI
上でも触れているように、事故米騒動で食の安全に関するマイナス要素が発生し、飲食関連は大きく値を下げた。先月はオリンピック関連で「引きこもり効果」から下げているのに、何たる不幸なことか。一方で住宅関連は大きく数字を上げている。さすがにこれ以上状況が悪化しようがない、という待望論や、住宅着工許可の値が増えたからかもしれない。
続いて景気の現状判断DIを長期チャートにしたもので確認。
2000年以降の現状判断DIの推移(赤線は当方で付加)
現時点ですでにITバブル崩壊後の不景気時期にあたる2002年~2003年(日経平均株価が7000円台を記録)の時期の水準に近い状態が続いている。2月から見せた反発の兆しも4月分で再び下落し、それが続いている状態。調査母体がこの表を意識していることはないだろうが、現状は2001年後半につけた大底の水準にほぼ達する状態にあるといえる。今年3月の一時的な上げは2001年初頭の小型反発のそれに似ていることもあり、同様のパターンを踏襲する雰囲気。
だが多少緩やかな動きへ。
・「雇用と全体の下落逆転」は
継続中。
・合計のDIは2002~03年の
不景気時代水準に近づく
→雇用関連の下げが
まだ甘いか?
注意すべきなのは今年に入ってから何度と無く指摘しているように「前回(2001年~2002年)の急落時には、家計や企業、雇用動向DIにぶれがあったのに対し、今回の下落では一様に、しかも急速に落ち込んでいる」こと。景気状況がいっせいに悪化したことを表しているが、これは今年後半から急激に加速した資源高(特に「サブプライムローンショック」「8.17.ショック」と呼ばれるサブプライムローン問題関連)が引き金。ただし資源高そのものはそれ以前から兆候が見られていたことが確認されている。やはり市場の大幅下落が引き金となったのだろう。お金の周りが悪くなるのだから当然なのだろう。
一方これまでの傾向として見られた「直近の最底値の際には雇用関連の指数が全体指数より下側に大きくクロスして落ち込む傾向」が3月では小規模ながらも見られ、4月以降継続していることが注目に値する。9月では2001年~2002年の最低値目指し、微量ながら雇用指数が下降を再開した。あるいは「横ばい」と見るべきなのかもしれない。
これが誤差の範囲の動きでこのまま横ばいを続けながら、その後上昇に転じて景気動向の反転のきっかけとなるのか、注意深く見守る必要がある。ただし直近の小反発(今年3月前後)の水準が前回よりもやや低めなこと・今回の雇用指数の横ばい状況は前回と比べてはるかに上の水準で起きていることを考えると、次月以降再び下降をたどり、前回「以上」の不況感が実現する可能性が大きいことは否定できない。
景気の先行き判断DIについては、厳密にいえば「少々上げ」、実際には誤差の範囲内で上下しており、実質横ばいという結果が出ている。家計動向では小売のみがマイナス、企業動向では製造業のみがプラスの値を示している。雇用関連の先行きが2ポイント近く上げているのが幸いか。
景気の先行き判断DI
家計動向の下落の度合いは先月より多少勢いを落としたものの、回復を見せる数字を出している。原油の価格が下げ始め、そこに期待をかける点もあるだろう。一方で企業動向は押しなべてあんばいが悪く、企業には不安が高まっていることが分かる。雇用関連は大きくプラス。
2000年以降の先行き判断DIの推移(赤線は当方で付加)
総合先行きDIはすでに2か月前で2001年後半の最下方値に達している。それ以降はやや横ばいかほんの少しだけの上げで推移している。「現状判断指数」のデータ同様に底入れした雰囲気が感じられる結果といえよう。ただしこちらも「現状」同様に雇用関連の数字の下落度合いが、2001年の不況と比べてまだ足りないようにも見受られる。8・9月分も含めて数か月の間は踊り場的な状況を見せ、再び下降トレンドに移行する可能性も否定できない。
2003年以降よく見受けられるようになった上昇・安定時の傾向「雇用指数が全体指数を大きく上回る」がまだ確認できず、クロス・逆転も起きていないことからもそれは確認できる。今後の動向は雇用関連指数の動き次第だといえよう。
発表資料には現状の景気判断・先行きの景気判断それぞれについて理由が詳細に語られたデータも記載されている。簡単に、一番身近な家計(現状・全国)に関して事例を挙げてみると、
・原油価格が少し落ち着いてきているものの、先行き不安から、いまだ安近短の旅行に変わりはない。燃油サーチャージはまだ上がり続けそうなので、海外旅行への対応策が見えない(旅行代理店)。
・仕入価格が上がっているため、販売価格を徐々に値上げしているが、客の購買量にさほど変化はなく、売上の落ち込みもない(一般小売店)。
・原材料価格の上昇に伴う食料品の値上げが続くなかで、客の買い控えが出ており、来店頻度も低下している。それらの影響により売上も厳しくなっている(スーパー)
・9月中旬の連休まではガソリンの値下げもあり、来客数は好調に推移していたが、事故米、中国乳製品汚染による食の安全への不安、米大手証券会社の破たん、株価暴落などが続いたため、後半は落ち込み、月全体では前年を下回る(一般レストラン)
・ガソリンの値下げが始まったが、仕入価格よりも価格競争による下落幅が大きく、さらに販売量も前年割れが続いていることから、スタンドの収益は急速に悪化している。また、得意先の倒産が増加しており、与信管理に神経を使わざるを得ない状況となっている(その他専門店(ガソリンスタンド))。
・事故米の問題以降、和菓子業者は非常に厳しい状況にある。来客数の減少はもちろん、来店した客からも大丈夫かと確認される(商店街)。
など、ガソリン価格はやや落ち着きを見せつつあるものの、消費者の節約志向の加速を留めることはできない。さらに追い討ちをかける形で「事故米」の話が飛び込んできたので、さらに消費減退に前進してしまっている。
もう少し踊り場か否かを
見極める必要あり。
掲載は略するが、企業部門のコメントでは金融機関からの融資が期待できない話があちこちで目に留まるなど、特に中小企業に対する貸しはがし・貸し渋りの現状が見て取れる。銀行サイドでは「貸し渋りをしていない」と何度も明言しているが、現場の意見は違うようだ。また雇用部門では「タクシーなど運輸関係求人が去年から半減」「流通系も4割減」「残業の抑制」など、業種によっては大規模な人口移動が生じている様子が見えてくる。
本文中でも何度か指摘しているが、今回の景気悪化が2001年から2002年にわたった景気悪化のパターンを踏襲するのなら、全体の指数の底打ちと前後して「大幅な雇用関係指数の下落・他指数との乖離(かけはなれること)」現象が見られるはずである。9月は8月同様に現状判断DIは下げたままであるものの一部項目でプラスの動きを見せ、先行き判断DIはこちらも上げ幅を縮小したもののプラスで推移をしている。ここから値を上げて、本格的な景気動向の反転を見せる可能性もゼロとはいえない。
ただし雇用関係指数絡みの動きがまだ怪しいところがある。つまり本格的な反転を見せるには「下げ幅」「乖離」が足りない。今回の底打ち・横ばい感は「反転の本物の兆し」が3~5割、「だましでしばらく踊り場を見せた後再び下落」が5~7割の可能性を持つと考えて良いだろう。どちらが正しいのかを見極めるには、少なくとも半年間の時間経過とデータ取得が必要と思われる。
もっとも、リーマンブラザーズの破たんに代表される、金融市場の大規模な混乱と萎縮の影響が出始めるのは数か月後。あるいは今年末がひとつのターニングポイントとなる可能性は否定できない。
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