バフェット氏いわく「現在の金融危機は”経済版真珠湾攻撃”だ」
2008年09月26日 06:30
【ゴールドマン・サックス、総計1兆円強の増資へ】にもあるようにアメリカの著名投資家ウォーレン・バフェット氏は9月24日、旧投資銀行トップのゴールドマン・サックスに対し50億ドル(5250億円)もの増資を引き受けることになった。その金額の大きさもさることながら、過去に保険会社のガイコや投資銀行のソロモン・ブラザーズなど似たような事例において手を差し出し、救済したバフェット氏が「出動」したことでも注目を集めている。そのバフェット氏が24日、アメリカの経済専門テレビ局CNBCのインタビューに答える形でアメリカ国民に現状を訴えかけていた。いわく「現在の金融危機は”経済版真珠湾攻撃”だ(Economic Pearl Harbor)」とのこと(【ブルームバーグ、英語】)。
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CNBCでバフェット氏が語った言葉を概要としてまとめると次の通り。
・現在の金融市場の混乱は「経済版真珠湾(攻撃)」だ。
・ポールソン財務長官が議会に承認を求めている7000億ドル(73.5兆円)の金融安定化政策案は絶対に必要(野党が予算額と対象の選定において難色を示している)。※
・市場の混乱は極まった状態にあり、先週のような状況がもう一週間続いていたら破たんしていたに違いない。ポールソン財務長官もこのような状況は望んでいなかっただろうが、代替案は無かったのだろう。
・議会はアメリカ国民の利益のために正しい道を選択し、法案を通過させるに違いない(≒「法案通過に反対する勢力はアメリカ国民の利益に反する行為をしている。経済は国民全体の問題だ(everybody's problem)」という主張)
・確かに先日自分は昨年一年間に市場価格の4割も額を減らした会社(ゴールドマン・サックス)に投資している。その意味では、同社と議会に信任投票をしているようなものだ。
・昨年私は「投資したくても投資するに値するだけの規模を持つ企業がないんだ」と愚痴をこぼしていたが、同時に自分は「現金愛好家」ではないのも事実だ。今みたいな状態なら現金が多いに越した事はないが、そのままずっと現金のままというわけにもいかないだろう。私は(現金そのものではなく)現金を使ってものを買うのが好きなんだ。現金を”使える時に”使わないのは、老後になるまで禁欲して”夫婦の営み”を断ち切るのと似たようなものなのだから。
※ポールソンとFRBのバーナンキ理事長は、金融機関から不良資産を買い上げる緊急対策案の早急な承認を議会に求めている。
※真珠湾(Pearl Harbor)は地名そのものを指すが、同時に太平洋戦争における真珠湾攻撃をも意味する。今件においてはもちろん後者の意味。
「真珠湾攻撃」という表現に多少誤解がある向きも感じられるので、いくつか説明を加えておくと、今件でバフェット氏は決して「日本叩き」をしているわけではない(そもそも金融市場の混乱は日本に端を発しておらず、アメリカに限れば日本はほとんど影響を与えていない)。こちらも箇条書きで説明すると次のようになる。
・アメリカは元々「他国からの攻撃、特に自分の領域内への攻撃に非常に敏感で、同時に”弱虫”」なところがある(意外かもしれないが)。有史において大規模な、組織的攻撃をアメリカ本土領域において受けたのは、太平洋戦争時の「真珠湾攻撃」がもっともイメージが強い(他にもミッドウェー海戦時のアラスカ攻撃、潜水艦による水上偵察機の爆撃などもあるがマイナーな話)。また「9.11.」も該当する(だからこそあれだけアメリカは過敏に反応している)が、こちらはまだ事態が進行中なので、さすがに表現として用いるのは不謹慎だと判断したのだろう。
・「真珠湾攻撃」においては、アメリカは日本のことを軽んじて十分な対策、備えをしていなかったばかりに、大きなダメージを受けた経験がある。また、アメリカ「本土」とはかけ離れていた場所で起きた事件だが、アメリカ人にとって物理的・精神的な破壊的なダメージを与えた(「アメリカが攻撃を受けた」「太平洋艦隊と司令部がほぼ壊滅した」)。
・今回の「金融危機」は
1.「サブプライムローン」「金融信用不信」などは通常の手法で対処すれば何とかなる、とたかをくくっていたら、実はとんでもない規模の問題だった
2.世間一般、国民生活そのものとはかけ離れた世界のように見える金融市場の話なのだが、いざふたを開けてみたらアメリカ国民一人一人にも深刻な影響を与えるものだった
という点で「真珠湾攻撃」の場合と一致する。
・また、太平洋戦争中はアメリカは国債を大量に発行して戦費を確保し、国難を乗り切ることに成功した。今回の金融危機においても同様に、(最終的に国債を発行して資金調達をし)不良債権を大量に買い取る必要があること、さらに国民が一致団結しなければならないことも意味している。
・「真珠湾攻撃」が外敵からの攻撃であることから、今回の金融危機で外敵≒(アメリカにとっての)外資から(経済的)攻撃、侵略を受けるかもしれないことへの警告。
これらの理由から、バフェット氏はあえて「経済版真珠湾」と表現したのだろう。つまりバフェット氏自身も、現在の金融危機が「アメリカ有史以来の最大規模の警戒レベルに達している」と認識していることに他ならない。
ちなみに、バフェット氏がここまで考えて「経済版真珠湾」と言及しているとは思えないが、小話を一つ。写真や動画でよく見かける、「真珠湾攻撃」で大きなダメージを受けて沈むアメリカの戦艦群だが、最終的に8隻のうち6隻が引き上げられ、近代装備を施された上で現役に復帰、前線で活躍している。アメリカの底力・回復力を象徴する一つの出来事ではある。また、真珠湾攻撃がきっかけで、アメリカの軍事戦略が「戦艦中心」から「近代的な航空母艦に機軸を置くもの」に変わっていった(変わらざるを得なくなった)のも事実。
今回の「金融危機」が「経済版真珠湾」であるのなら、その後の成り行きもまた、似たようなものになるのかもしれない。
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(最終更新:2013/08/03)
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