リーマン・ブラザーズ社員の憂鬱……株価急落で失われた1兆円
2008年09月13日 12:00
不動産担保証券をはじめとする各種金融商品の価格急落や取引の失敗で、今や風前の灯状態ともいわれているアメリカの証券銀行大手のリーマン・ブラザーズ・ホールディング(Lehman Brothers Holdings,LEH)。ここ一週間ほどは同社に関する(身売りなどの)噂で世界中の相場が引っかきまわされた感が強いが、当のリーマン・ブラザーズの社員も大いに頭を痛める事態が進展している。自分が所属する会社の行き先に関する問題はもちろんだが、自社株の急落で自分たちが持つ資産(自社株購入権(ストックオプション)や自社株そのもの)が大きく目減りしていく状況を目の当たりにしているというのだ(【NewYorkTimes】など)。その額、総計で約1兆円。
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直近一年間のリーマン・ブラザーズの株価推移
「我々はいつも困難を乗り切ってきた。しかし今度はダメかもしれない」とリーマンのある社員は語る。リーマンに所属する社員は現在2万4000人程度。一方で、ウォールストリートとその周辺に場を構える多くの証券会社や銀行では6月だけで8万3000人が解雇されている。先の大手証券会社ベア・スターンズの事実上の破綻とJPモルガンへの買収の際には、優れた技能を持つスター社員は別にして、1万3500人の従業員のうち再就職できたのはわずか6500人。残りの多くは未だに求職中。リーマンの社員たちは「次はわが身か」とびくびくしながら毎日を過ごしている。
さらに追い討ちをかけるのが、そのベア・スターンズの破綻時と似たような傾向をたどっている自社株の急落。上記グラフを見れば分かるように、リーマン・ブラザーズの株価はこの1年で(特にこの半年以内の間に)60ドル前後から3~4ドルにまで急落。15分の1から20分の1に下落してしまっている。これが単に自社株の下落だけなら直接的な影響は少ない。しかし、リーマン・ブラザーズでは他の証券銀行の従業員同様、その多くが報償や給与の少なからず部分を自社株で受け取っており、大部分が売却されずに手元に残っているから始末が悪い。自社株の下落は、そのまま自分の金融資産の目減りをも意味するからだ。
リーマン・ブラザーズの従業員は全体で自社株の25%を保有している。個人ベースでは給与のうち10~60%が自社株による「現物支給」。しかも数年間は売却できないという制限付のものだ。また、トップクラスの経営陣もその報酬の多数は自社株そのものかストックオプション(自社株購入権)。自社株の株価が急落し、それに伴い自分の金融資産もナイアガラの滝のように目減りしていくのを目の当たりにしながら、何もできないことに対し、リーマン・ブラザーズの社員たちは表向き平常心を装っているという。いわく「何事もないように見える(They are not showing anything)」。しかしその心中や察するに余りある。
具体例としてディック・ファルド会長兼CEOの事例が元記事では挙げられているが、彼の手元には現時点において1140万株もの各種株式と250万株分のストックオプションがあり、株価のピーク時には9億5600万ドルもの価値があったという。そして株価が急落した今、それらの価値はわずか4000万ドル。差し引き9億1600万ドル(約1000億円)が失われたことになる。多かれ少なかれ、ほとんどの社員も同じ目にあっている(社員合計では100億ドル・約1兆円規模に達する)。
しかも先に述べたようにほとんどの株式には売却制限条項が設けられているため、たとえ株価の急落を目の辺りにしても、社員は株価、そして自分自身の資産がじりじりと削られていくのをただ見守るしかない状態におかれている(元記事ではさらに、従業員はともかく上層部は株式以外に通常の、多額の現金による報酬を得ているから、株式のダメージが大きい従業員よりはマシだとも皮肉っている)。
給与からの天引きによる自社株の購入システムが導入されている場合など、資産形成の一端に自社株の積み立てを半ば強要される会社(基本的に上場企業)は多い。自社のためにがんばって働き、自社の業績が伸びて株価も上向きになれば、自分の資産も上積みされるのだからモチベーションも高まるというのが大義名分。
しかし今回のリーマン・ブラザーズや、過去に破綻した多くの上場企業のように、従業員が自社株買いをしていた会社が破綻したり株価が急落してしまうと、「会社は立ち行かなくなるし資産も目減りするし、倒産したとなれば退職金すら確保が難しい(そしてもちろん手持ちの自社株も紙切れ同然)」という、ダブルの損害をこうむることになる。
愛社精神で自社株を買い集めるのは非常に良いことではあるが、リスク分散という観点からみれば、過度な自社株への傾注は危険な面も伴うことも留意しておく必要があるだろう。
※具体例として挙げられていた250万株と1140万株分のストックオプションは社員全体ではなくCEO兼会長「個人」のものでした。個人で1000億円ほど「損」をした計算になります。社員全体で約1兆円という値(Wall Street Journal紙より)に違いはありませんが……(Thanks for 東京・板橋の某氏!)
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