たばこ1000円なら10年間で9兆円の税増収へ

2008年09月18日 08:00

たばこイメージ厚生労働科学研究費補助金・循環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業は9月17日、たばこの増収と税収に関する調査結果「各種禁煙対策の経済効果に関する研究」を発表した。それによると、たばこへの課税増加によって税収は増加して、その傾向は2017年まで継続するとし、一部に見られる「値上げをすると禁煙する人が増えるから、かえって減収となってしまうのでは」という意見に真っ向から対立する結論を見出した。喫煙者減少による医療費の削減効果は10年単位で考える必要があるが、その効果が出てくるまでの間においても税収面でプラスになるとし、たばこ価格の値上げを推進する結果となっている(【発表リリース、PDF】【発表ページ】)。

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詳細はレポートそのもので確認してほしいが、興味深いのは、値上げ開始時(2009年1月1日を想定)からの時間経過による変移、減煙(吸う本数を減らす)や再喫煙(一度禁煙して再び喫煙してしまう)、さらには年齢層別の依存度・金銭的負担などを考慮した上で試算が行われていること。仮説の上に仮説が積み重ねられており、現実問題と照らし合わせた場合に「ぷれ」が「ぷれ」を呼び大きく結果が異なる可能性も否定できないが、それだけ多数のパラメータを考慮した上での推論は極めて珍しく、目を通す価値はある。

たばこ税額引き上げ額と禁煙企図者の割合
たばこ税額引き上げ額と禁煙企図者の割合

このようにたばこの価格が上がるにつれて喫煙を考える人が増えるのは、他の類似予想と変わらない。変化があるのはこの次以降。2017年末までにおいて、それぞれのたばこ価格帯において喫煙者がどれほど減るかを予想したのが次の図。

年次・価格別のたばこ総需要変化
年次・価格別のたばこ総需要変化

2009年以降継続的に喫煙者が減るかと思えばさにあらず。価格値上げで一度は減った喫煙者が2010年に一旦再び増加する傾向を見せる。しかも高価格への引き上げほどリバウンドも大きい。これは「高値で喫煙せざるを得なくなった」人の中にはヘビースモーカーも多く、誘惑に駆られてしまい再びたばこに手を伸ばす人の割合も増えてくるという、納得の行く推論によるもの。最終的に世の中の嫌煙風潮にあわせ、現行の価格維持でも10年後には4割足らずにまで喫煙率は減るが、1000円にした場合には2割強にまで落ち込むことになる。

たばこを値上げすると売上個数が減るから、税収はかえってマイナスとなるのではという意見への回答が次の試算。300円に据え置いた場合と比較してのたばこ税の増収額をグラフ化したものだが、据え置き以外のすべての価格帯で税収増加という結果が出ている。しかも値を上げれば上げるほど増収額も大きくなる。

年次・価格別のたばこ税収増収予想(300円との差異)
年次・価格別のたばこ税収増収予想(300円との差異)

これらのデータから、たばこ価格を引き上げた場合に10年間(2017年末)にどれほどの税額増収が見込めるかを描いたのが最後の図。1000円に引き上げた場合は実に9兆円もの増収効果が見込める。

2009年にたばこ価格を引き上げた際の10年間における税増収の総計
2009年にたばこ価格を引き上げた際の10年間における税増収の総計

前述したように今調査は「予想」の積み重ねであるためぶれが大きく、このままうまくいくとは想定しにくい。また、「10年間たばこの価格が変化しない」という現実にはありえない仮説の上での試算であり、現実に近づけるならば段階毎の値上げ(例えば2009年以降毎年50円ずつ、とか)など、過去の値上げ事例を参考にした想定も行う必要がある。

それらの問題点を差し引いても、値上げした直後だけではなく10年後にいたるまでの時間経過も考慮した喫煙者・税増収の推移を考察したこの研究レポートには珠玉の価値があると見なしてよいだろう。さらに想定した期間の2017年末以降は、こちらも前述したように「喫煙者の減少による医療費の減少」という副次的な公的経費の削減(≒税増収)も望めることになる。

たばこの値上げ論争には今後、このデータが大いに用いられることになるだろう。

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