「もうこんな戦車ぶち壊してさっさと歩いて帰ろう」グルジアから撤退中のロシア軍が抱える問題とは

2008年08月25日 08:00

T62(T-62)イメージロシア南部・黒海とカスピ海の中間に位置するグルジア内で分離独立を求める南オセチア自治州に対し、グルジア軍が攻撃をしかけたところ、元々グルジアの西側諸国寄りの国政を快しとしていなかったロシア軍が、表向きは「グルジア領内のロシア人の安全確保」の名目で南オセチア側に立ち大規模な軍事介入を実施。グルジア軍を制圧し、一時は完全占拠するのではないかとまでされた一連の「グルジア紛争」。現在は国際世論の反発を受けてロシア軍側が撤収を行い、撤退完了を宣言しているものの、ロシア側が一方的に設けた領域内までしか軍を退けていないとのことで、欧米諸国との対立が続いている。この「グルジア紛争」において意外な(そして事情を知っている人には想定の範囲内の)事態がロシア軍側に起きていることが【NewYorkTimes】によって伝えられた。ロシア軍が使用していた戦車の一種、T-62にガタが来て言うことを聞かず、敵(グルジア軍)との戦闘による消耗以上の損失を、故障で生じさせているのだという。

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グルジア侵攻で用いられているT-62
グルジア侵攻で用いられているT-62(【CTV.ca】より)

南オセティアの新しい境界線上に向けて撤収するため、北上を続けていたロシア製の戦車は検問所で停止。後はきしみながらギシギシ音を立てるのみだった。戦車の操縦手はハッチから顔を出したものの、脂ぎった顔には疲労の色が隠せない。操縦手はタバコを自分の口にあて、「クソッタレ」の何百倍もの汚さに相当するののしりの言葉をひとりごち、たばこに火をつけた……

こんな状況が現在グルジアから「撤退中」のロシア陸軍のあちこちで見られるという。彼のストレスの元凶は、搭乗しているロシア製の戦車T-62のトラブル。今件の場合は検問所にある道路上のブロックなどに車輪が引っかかり、身動きが取れなくなってしまった。それを端から見ていたロシア陸軍兵士は、戦車操縦手に向かって次のように言い放つ。

「もうこんな戦車ぶち壊してさっさと歩いて帰ろうぜ
(It's time to blow it up and throw it away.)」


ちなみにこのT-62という戦車、115ミリ砲などを搭載し、初の実戦投入は1969年。一部はシリア軍などに売却された後、第四次中東戦争で使用されいる。また、アフガニスタンやチェチェン紛争などでも使われるなど、半世紀近く経った今でも現役車両として用いられている、いわば「ビンテージもの」。

元記事ではこのような話をはじめ、グルジアに侵攻したロシア軍について次のような描写で現状を説明している。

・撤収途中のロシア軍は(人員的にも器材的にも)疲労困ぱいの極地にある。完全稼動の状態なら数時間で通過できる距離の移動に、何日もかかってしまう。意図的な遅延でなければ政治的要因からストップがかかってるわけでもない。単に搭乗している戦車や兵員輸送車の故障がひんぱつし、そのたびに部隊を止めて修理をしなければならないからだ。
・グルジアへのロシア軍の侵攻は、各国にとってロシア軍の現状を知る(スパイ活動を行う)のにまたとないチャンスとなった。彼らが見た限りでは、ロシア陸軍の装備は旧式で、空軍の爆撃は精度が甘く、作戦行動はスピード感に欠け、さらに命令系統は中央集権的で非効率的でしかない。
・ロシア陸軍の総合的な戦闘能力は西側のそれと比べれば低いかもしれない。しかし「グルジアの事態」に「対処」するには十分なものと判断されたため、投入されたようだ。また、ロシア陸軍兵士の多くはプーチン大統領の政策に従って程よく訓練された熟練兵が導入されており、臨時召集された徴集兵ではないことも確認されている。
・ロシア軍の進軍で混乱状態となったグルジアの地域の多くで、略奪行為をとどまらせ治安を維持する行動がロシア軍に見られた。
・要所要所には未だにロシア軍の小部隊が残存している。彼らは「グルジア・オセチア地方治安維持部隊(Peacemakers of the Georgian-Ossetian Conflict Zone)」という認識章をつけている(。そして軍事的・政治的圧力の源として存在している)。


まとめなおすと

・ロシア軍の装備や軍組織は旧式で、作戦行動に大きな支障を及ぼしている。しかし兵員の練度は高く、モラル上の統制はとれている。
・対外的には「軍」の撤収を終えたとしているロシア軍だが、治安維持の目的で小部隊を要所に継続配置している。彼らは軍隊ではなく警察行動を行う「治安維持部隊」を自称している。
・治安維持部隊の駐留で、グルジアに継続的な「影響力」を残す意図があるようだ。


という形になる。

原油価格の高騰で財政的に潤い、資金も潤沢になったロシア軍ではあるが、現地映像を斜め見した限りではT-62以外にもBMP-3BMP-2兵員輸送車のような「古き良き時代のソ連軍兵器」が大量に使用されている(もちろん新型の自走砲や新型戦車の類も見られたが)。組織面と装備面ではまだまだ冷戦時代の状態をひきずっているようである。

そして何よりも、メンテナンスの面で配慮に欠けるところが大きいのが気になるところ。元々ロシアは人海戦術的な思想を持ち、「100台投入して50台途中で故障しても、残り50台が目的地に着けばよい」的な発想が強い。今回のような「数で押しつぶす」的な作戦行動でなら何とかなるのかもしれないが、これが経済面(例えばガス田や油田開発)でも同様の考えで推し進めようとするのなら、さまざまなトラブルの原因になるだろう。

そのような観点で見れば今回の(現在進行形だが)グルジア紛争も、新たな発見を得るきっかけとなるかもしれないというものだ。

……ちなみに動画投稿サイトYouTubeでは情報戦の状況を呈しており、ロシア・グルジア両支持派から多種多様な現地映像が配信されている。中にはロシアの兵員輸送車がグルジアのパトカーを言葉通り「蹂躙(じゅうりん)」していくところや、グルジアの特殊部隊が夜間攻撃をロシア軍にしかける様子など、日本ではあまり報じられなかった状況を見つけることもできる。興味があれば関連キーワードで検索してみると良いだろう。

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