テレビ局からスポット広告を減らした業種を調べてみる
2008年08月20日 19:40
先に【主要テレビ局の「スポット広告の減り具合」をグラフ化してみる】や【主要テレビ局銘柄の第1四半期決算をグラフ化してみる……(2)業績斜め読みとスポット広告の落ち込み】で「主要テレビ局のスポット広告が激減している」ことに触れた際、いくつかの質問をいただいた。その中の一つが「スポット広告が減ったというが、それでは減らした広告主は誰なのか?」というもの。各社の第1四半期短信では具体的にどの広告主が広告を減らした・取りやめたかまでは書かれていないが、短信の端々に読み取れる表現を拾い上げ、探ってみることにしよう。
スポンサードリンク
タイム広告とスポット広告(再録)
スポット広告……ばらまき
まずは簡単におさらい。図と右のまとめ文でほぼ理解できるはずだが、「タイム広告」とは「番組提供広告」とも呼ばれ、放送される番組を広告出稿によって「提供」するもの。広告費をテレビ局経由で番組に提供してその番組を後押しする代わりに、その番組内で自社の広告を出す、というもの。放送時間や視聴者性向を絞れるため、効果的な広告展開が期待できるが、人気のある・効果の高い番組の広告費は高い。
一方「スポット広告」とは、番組と番組の間に存在する時間帯(ステーションブレークと呼ばれる)に放送されるもので、どこかの番組にも属さない。「番組の色がほとんどつかない、ばらまき式広告」と考えれば良い。その性質上、短い時間に広域展開したい広告(新製品の発売間近な時、期間限定のキャンペーン)に使われる。
それでは早速、キー局5局の2009年3月期(2008年4月~2009年3月)・第1四半期決算短信から、スポット広告の動向(特に減らした方面)に関する言及をすくい上げてみる。
スポット広告はその性質上、一番最初に削れられる宣伝広告費でもある。ある業界からのスポット広告が減ったことは、その業界において「予算的な余裕が無くなった」か「もっと効果的な予算配分の方法が見つかった(例えばインターネット広告)」傾向があることを示唆する。またはそのテレビ局との相性が変化したのかもしれない。
なお各テレビ局ごとで、業界の区分に違いがある。これには注意が必要。また、別記ない限り数字は前年同期比。
●【日本テレビ放送網(9404)】
・「薬品」「サービス」「食品その他」が増加。「化粧品・トイレタリー」「非アルコール飲料」「アルコール飲料」「食品(乳製品調味料)」「その他」が下落。
・特に「食品(乳製品調味料)」は-12.2%、「非アルコール飲料」は-11.0%、「アルコール飲料」は-6.0%、「運輸・通信」は-6.1%など。「その他」が-19.3%と大幅に減少しているが、消費者金融がこの項目に含まれているものと思われる。
●【TBS(9401)】
・「業種別売上では、「エンタテインメント・趣味」「自動車・輸送機器」などの業種が前年を上回ったものの、「酒・飲料」「食品」「化粧品・トイレタリー」「医薬品」「総合電気機器」「通信・放送」「精密機器・事務機」「外食・サービス」といった分野が振るいませんでした」(四半期決算短信より)
・伸び率では「エンターテインメント・趣味」が23.5%と大幅に躍進したものの、「金融」が-38.6%を筆頭に「食品」が-21.2%、「化粧品・トイレタリー」が-15.6%、「精密機器・事務機」が-17.4%、「総合電気機器」が-10.7%など大幅に減少している項目が多い。
●【フジテレビ(4676)】
・「交通・レジャー・観光」が+6.2%、「自動車・関連品」が+2.0%と伸びる一方で、「エンタテイメント」(特に新聞・出版関連)が-25.4%、「食品・飲料」が-12.2%、「化粧品・トイレタリー」が-6.5%と大幅な減少。
●【テレビ朝日(9409)】
・「一般産業機器」+100.9%、「輸送機器」+5.8%、「薬品」+1.4%などが堅調。
・「基礎材」-53.6%を筆頭に「出版」-37.8%、「住宅・建材」-26.4%、「その他」(金融もここに含まれると思われる)-23.0%など、前年同期比で20%以上の下げを示している業界が多い。
●【テレビ東京(9411)】
「自動車、飲料、トイレタリー、食品、レジャー等、スポット市場の約半分を占める業種が低調」(四半期決算短信より)
各テレビ局で、堅調・軟調な主業種のみを抽出しなおすと次のようになる。
・日本テレビ
○……「薬品」「サービス」「食品その他」
×……「化粧品・トイレタリー」「非アルコール飲料」「アルコール飲料」「食品(乳製品調味料)」「その他」
・TBS
○……「エンタテインメント・趣味」「自動車・輸送機器」
×……「酒・飲料」「食品」「化粧品・トイレタリー」「医薬品」「総合電気機器」「通信・放送」「精密機器・事務機」「外食・サービス」
・フジテレビ
○……「交通・レジャー・観光」「自動車・関連品」
×……「エンタテイメント」「食品・飲料」「化粧品・トイレタリー」
・テレビ朝日
○……「一般産業機器」「輸送機器」「薬品」
×……「基礎材」「出版」「住宅・建材」「その他」
・テレビ東京
○……言及なし
×……「自動車」「飲料」「トイレタリー」「食品」「レジャー」
さらに例として、「主要テレビ局の「スポット広告の減り具合」をグラフ化してみる」でもグラフ化した際に判明したように、スポット広告の減少額がもっとも売上に大きな影響を与えているTBSと、第二位のテレビ朝日における業界別のスポット広告の増減を見てみたのが次の図。
TBSの業界別スポット広告の増減
テレビ朝日の業界別スポット広告の増減
これらの図やデータから言えることは次の通り。
・テレビ局によって(元々のスポット広告の配分の差もあるのだろうが)業界の対応が異なる。例えば前年同期比でテレビ東京は「自動車」が軟調だが、テレビ朝日・フジテレビ・TBSは堅調に推移している。
・「金融」「出版」「食品・飲料」「化粧品・トイレタリー」は多くのテレビ局で削減率が大きい。特に「金融」は4割近く下げている局もある(一方でテレビ朝日のようにほぼ前年度と変わらないところもあるが)
「金融」が広告費を大きく減らしているのは、「グレーゾーン」問題で消費者金融がスポット広告を出す余裕が無くなった・自粛したこと、そして金融商品取引法絡みで金融・保険業界が広告を出しにくくなったことが大きな要因。「出版」は業界全体の不調から「スポット広告を出してる場合じゃない」なのだろう。
また、思い返してみれば大きな削減率を見せた業界は、「業界そのものの勢力縮小」以外に「インターネット上の広告展開を積極的に行っている」ようにも見受けられる。当然テレビ局の決算上からそこまで確定付けることは出来ないが、一つの傾向として十分想定できよう。
「金融」「出版」「食品・飲料」「化粧品・トイレタリー」などをはじめとした各種業界が、スポット広告の額を減らしたのは単に「広告費が削減された」からなのか。「そのテレビ局との相性が悪くなった(番組構成上・費用に比した効果が見られない)」からなのか。それとも「広告費そのものはあるが、テレビ局にまわす分が減った」からなのか。当然各企業がテレビ局に削減の旨説明する時には一番最初の理由を提示するだろう。しかし案外企業によってはそれは大義名分に過ぎず、二番目・三番目が本音なのかもしれない。
(最終更新:2013/08/03)
スポンサードリンク
ツイート