書店の経常利益率をグラフ化してみる

2008年08月11日 08:00

本屋イメージ個人の趣味的消費がインターネットや携帯電話に移ったり、書籍の販売においてもネットで注文する人が増えるなど、最近書店(本屋)の調子があまりよろしくない。出版業界紙の【新文化】を見ても、債権者説明会だの破産手続きだのといった言葉が相次いで見受けられるのが悲しいお話。書店そのものの利益率が低く、売上減による影響を大きく受けやすい、経営そのものが元々軟弱な地盤の上に成り立っているという話はよく耳にするが、果たして現状ではどの程度のものなのだろうか。大手書店の売上高経常利益率に関するデータを見つけることができたので、ここでグラフ化してみることにする。

スポンサードリンク

まず「売上高経常利益率」という言葉そのものについて。会計上の計算の上では、まず本業(書店の場合は本の販売)の売上から原価が引かれ、これが売上総利益になる。そしてそこから販売費や一般管理費(俗にいう販管費)が引かれ、本業による儲けである営業利益が計算される。そしてそこから本業以外の営業外収益と営業外費用が足し引きされ、経常利益が計算される。

・売上高-売上原価=売上総利益
・売上総利益-(販売費+一般管理費)=営業利益(本業の儲け)
・営業利益-(営業外収益-営業外費用)=経常利益(本業+副業の儲け)


そして、この「経常利益」を売上高で割って100分率で算出したのが「売上高経常利益率」。

「結局何を意味するのか」という疑問があるだろう。「売上高経常利益率」とは要するに「その会社の本業と副業を合わせたお仕事の利益率」を意味する。例えばこの値が10%なら、1000円の商品を売ると100円の儲けが出ている計算になる(本当はもっと細かい計算があるのだがここでは省略)。

1000円の商品を売って10円しか儲からない(売上高経常利益率が1%)と100円儲かる(10%)なら、後者の方が効率よいビジネスをしていることになる。売上高経常利益率が高い方が「賢い・割の良い商売」をしているわけだ。逆に言えば売上高経常利益率が低いほど、何らかのトラブルが生じた時に金銭的な対応が難しくなる。

さて肝心の、大手書店の売上高経常利益率だが、先にABC協会や新聞関連の記事を調べていた際に見つけた書店向けFaxダイレクトメールサービスの「日本著者販促センター」で「上位10位」分を確認することができた。ここに(比較対照の2つも追加した上で)グラフ化することにする。

実店舗書店(+α)の売上高経常利益率ランキング
実店舗書店(+α)の売上高経常利益率ランキング(【日本著者販促センター】より)

例えば「未来屋書店」の場合、売上高経常利益率は2.3%だから、1000円の書籍1冊が売れると販管費もろもろを差っ引いて23円の利益が書店に入ることになる。逆算すると43冊売らないと、本一冊分の利益をあげることができないわけだ(「万引き」行為がいかに本屋にとってダメージが大きいかお分かりいただけるだろう)。

リスト上に無い多くの本屋は
売上高経常利益率1.0%以下。
つまり本の1冊分の利益を得るのに
100冊以上を売り上げねばならない。

元々流通網や再販制度の問題、さらには単価や販売スタイルなど本特有の問題から、利益率がさほど高くないのは仕方のない話かもしれない。しかしトップテンですら1.0%でしかないということは、それ以下の(多数の)書店は売上高経常利益率がもっと低いこと、つまり「薄利多売・カツカツ状態」で経営をしていることになる。

ちなみに第二位の【ブックオフ(3313)】はよく知られている古本屋のフランチャイズ。徹底されたシステム化と原価が安いこともあり、高い利益率を誇っている。それにも増して利益率の高さが目立つのは【ヴィレッジヴァンガードコーポレーション(2769)】。単なる本屋ではなく、おもちゃやCD、雑貨など色々な商品を取り扱い、書籍そのもののボリュームは半分以下。POSシステムが使われていない・特徴的なPOP戦略など、普通の本屋とは一線を画する。正確にはこのリストにはそぐわない業態かもしれない。


ブックオフやヴィレッジヴァンガードなど普通の本屋とはちょっと違う書店をのぞけば、売上高経常利益率は上位10位以内でも5%以下、恐らくほとんどの本屋は1%未満のはず。利益率が低ければ財務的な余裕も持てず、IT化や業務上の効率化を図ることは難しい。結果としてますます新スタイルの「本屋」(アマゾンなどのネット書店、複合・総合書店など)に出し抜かれ、経営が難しくなる。

本屋は他の業態と異なり、商品そのものの開発や改良が出来ず、販売価格を勝手に変えられないなど、書店側の自由裁量が利く部分が少ない。利益率を高めたくても、自分の手で出来ることは限られているというのが悩みどころ。何か新しい発想の元に手を打たないと、現状のスタイルのままでは、書店は今後ますます苦労を強いられることになるだろう。

Related Posts Plugin for WordPress, Blogger...

スポンサードリンク



 


 
(C)JGNN||このサイトについて|サイトマップ|お問い合わせ