パンやめん類の消費量、この半年で減少傾向に。一方お米は……
2008年08月03日 12:00
総務省統計局は7月29日、家計調査報告における2008年6月分速報データを発表した。二人以上の世帯の消費支出は世帯あたり28万1951円となり、季節調整値における変化は前年同月比で1.5%の増。住居費や自動車購入費などをのぞいた消費支出は1.6%の増と、消費物資の価格上昇が支出増加にも影響を及ぼしていることが分かる。その統計データとあわせ、価格が上昇した主な品目の前年同月における増減率の推移も公表されたが、それによると値上げが相次いで行われているパンやめん類などの小麦製品や乳製品において、昨月以上に消費量の減退傾向(買いびかえ)が浸透していることが明らかになった(【関連レポート、PDF】)。
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●グラフの見方
家計調査は、全国の世帯を対象として、家計の収入・支出、貯蓄・負債などを毎月調査し、国民生活の家計収支の実態を把握。国の経済政策や社会政策の立案のための基礎資料を提供することを目的としている。結果は逐次データ化され、毎月発表されている。また、通常のデータとあわせて話題性の高い案件と家計との関連を示すデータも、追加参考資料として報告される。今回取り上げた内容も、その追加参考資料からのもの。
7月末発表分の2008年6月分データでは追加資料として「価格が上昇した主な品目の対前年同月増減率の推移」も発表されている。ここでは2007年6月以降2008年6月までの毎月の主要食品中昨今値上げが著しい「食パン」「他のパン」「カップめん」「スパゲティ」「チーズ」の5品目について、家計の平均出費金額の相対比が掲載されている。また、参考データとして「米」についてもデータが寄せられている。
先月【値段上げたのに売上が減る!? 総務省の統計データから明らかに】で「価格が上昇したので、家計では個数の買いびかえによって対応している」ことを伝えたが、今月発表されたデータを見る限り、その傾向はさらに進展しているように見える。
なおグラフの見方だが、ピンク(名目増減率)は名目、つまり価格や消費額そのものの絶対額的な増減。売上高だけを見るのならこちらを見る。そして各品目の消費者物価指数(価格)を考慮した実質的な増減数(実質増減率)が濃い青色の線になる(いずれも前年同月比)。消費者の購買意欲も見るのならこちらが重要。要は濃い青線は「昨年と比べて購入量が増えたか減った」を示す値と見ればよい。
例えば前年同月比で価格が20%上がった場合、去年と今年で同じ個数(仮に10個)を買っていれば「名目」は20%のプラス、「実質」は変わらず(実質は価格上昇分を差っぴいて計算するため)、となる。ところが価格が上がったので購入数を減らす(例として10個から9個)に減らしたとすると、「名目」では120%(価格上昇分)×90%で108%となり8%のプラス、「実質」では10%のマイナスとなる(※実際には個数を算出するのではなく、個別品目の支出・前年との価格差から算出するのだが、この方が分かりやすい)
●価格が上がって出費は増えたが、量は減る一方
さて肝心の5品目のデータだかざっと見ていくと、価格上昇のためか支出そのものはいずれも増えている。しかし実質的な購入量の変化を示す「実質増減率」はいずれもマイナスを示しているのが分かる。
食パン
他のパン
カップめん
スパゲッティ
チーズ
品目別に多少の違いはあるが、大幅な値上げの流れが見えてきた去年末あたりを皮切りに「昨年と比べると支出額は増え購入量は減っている」状況が見えてくる。スパゲッティはかろうじて前年同月比でマイナス3.6%減にとどまっているが、他の品目は10%前後のマイナスを指している(言い換えれば「去年より高い金払ってるのに量は少なめ」ということ)。
例えばカップめんの場合、実質増減率は前年同月比でマイナス10.4%。これは「昨年6月と比べて今年の6月は、カップめんを購入した量が約1割減った」ことを意味する。消費者の節約志向が進んでいることがうかがい知れる。
確実にパンやめん類、乳製品の
購入・消費量は減少している。
今後価格が高止まり・再上昇なら
消費量の減退は「一過性」ではなく
確かな継続現象と認められよう
今データは「一過性のもの」という可能性を残しつつも、昨冬からの商品値上げに伴い、パンやカップめん・スパゲティなどの小麦系商品、そして乳製品の類の購入・消費「量」が確実に減少傾向にあることをうかがわせている。価格がこのまま高止まり、あるいはさらに上昇を続けるのなら、この傾向も継続的なものとなり、「一過性の可能性」は「確かな現象」と呼び方を変えられよう。
なお、余計なお世話かもしれないが。各メーカーの値上げリリースに目を通しても、価格値上げの理由や具体的な価格変更の話は語られているものの、生産量調整には触れていない。「価格を上げれば上げるほど購入量が減る」のは需給の関係からすれば当然のことだが、去年冬以降の一連の値上げ攻勢の過程において、生産する量の調整は行われているのだろうか。もしこれまでと同じ量を作っていたとすれば、(例えば上のカップめんなら1割ほど販売数が減るのでその分)大量の余剰在庫を抱えることになりかねない。
同資料ではグラフの表記方法は異なるものの、「米」についても触れられている。それによれば米の価格は緩やかな減少を見せていたせいもあり、2007年8月以降購入数量は増加する傾向を見せている。
米の購入数量の変化
直近で上昇傾向を見せてからまだ弱一年しか経過していないため、一時的な現象の可能性はある。しかし「小麦系の食品価格の高騰と消費量の減退の時期」と上昇開始時期がほぼ一致していることをあわせて考えると、「パンやめん類の代わりにお米を買う人が増えている」と確証度の高い推定をしてよいだろう。今後米の価格も多少値上げされることが報じられているが、小麦価格の上げ幅と比べれば小さいことなどを考慮すれば、今後小麦系食品の価格傾向が現状を維持する限り、お米への消費は漸増するものと容易に想像がつく(ちなみに先日発表された【エルゴブレインの調査結果(PDF)】でも和食の食事は増加傾向にある)。
政府の小麦卸売り価格も、10月から再び20~30%の値上げが予想される。材料の小麦価格が上がれば、当然材料として用いているパンやめん類の価格も上がるだろう。値上げが現実のものとなった時、消費者の消費性向はどのように変化していくのか。食生活や農業に対する注目度、特に米作への関心度の高まりとあわせ、注目していきたいところだ。
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(最終更新:2013/08/03)
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