【更新】新興市場の下落が止まらない件について

2008年08月02日 19:30

株式イメージ8月1日の金曜日、東京証券取引所の【適時開示情報閲覧サービス】に普段見慣れない文言のリリースが相次いだ。「当社株式の時価総額について」「当社株式の時価総額についてのお知らせ」など、自社の時価総額を伝えるように見えるものがほとんど。「何でわざわざ」と確認をすると「時価総額が上場廃止規定に抵触しているので、このままでは上場廃止(または市場入れ替え)になる」というものだった。

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8月1日時点で10社が「時価総額」ラインで抵触

「時価総額」とは【任天堂、時価総額でトヨタに次ぐ日本第二位に躍進】でも説明しているように「発行総株数×株価」で計算されるもの。つまり「その会社の株をすべて買い占めるのに今の株価でどれくらい必要なのか」をあらわすものだ。実際には市場買い付けをすれば株価は逐次上がっていくし、大株主は手放さない場合もあるので、そう単純には行かないが、「その会社の財務的規模」を表す一つの指針になる。

一方でこの「時価総額」はそれぞれの上場市場の上場規定の一項目でもある。例えば東京証券取引所の一部市場(東証一部)では時価総額が20億円以上であることが求められている。仮に月末の株価で算出して20億円未満となった場合、通常9か月以内に20億円以上に戻せないと、東証二部に指定替え(要は格落ち)させられてしまう。

「格落ち」ならまだ上場そのものを続けられるが、市場によっては「上場廃止」を命じられる場合もある。その場合、市場から新たに資金を集めることが出来なくなるため、言葉通り死活問題となることもある(少なくとも体面的に良い話ではない)。

8月1日は7月末の株価が確定し、その時点での時価総額の算出結果が出される日であったため、多くの企業が「時価総額基準」に抵触し「上場廃止(格落ち)のカウントダウンを宣告された」ことになる。その数、実に10社。

8月1日の適時開示情報を「時価総額」で検索。各証券取引所の「時価総額規定」に抵触したことが語られている。
8月1日の適時開示情報を「時価総額」で検索。各証券取引所の「時価総額規定」に抵触したことが語られている。

※新井組(1854……東証一部)
東福製粉(2006……東証二部)
エイジア(2352……マザーズ)
ジェネシス・テクノロジー(2473……東証二部)
バナーズ(3011……東証二部)
トラックワン(3047……福岡Qボード)
アップガレージ(3311……マザーズ)
※創建(8911……東証一部)
ノエル(8947……東証二部)
メディカル・ケア・サービス(2494……名古屋セントレックス)

※は指定替え、他は上場廃止の恐れ


昨年8月の「サブプライローン暴落」、今年3月の「春先暴落」でも似たような告知はあったが、それにしても10社とは数が多すぎやしないだろうか。東証一部銘柄はくだんの不動産・建設不況に巻き込まれている系統の銘柄なので理解できる。東証二部の中にもいくつか同類のが見られるが、それ以外のものも多い。

日経平均株価・東証一部値がさ株と、新興市場の値動きに違いが?

そこで、日経平均が現状ではとりあえず1万3000円台をうろちょろし、3月中旬の1万2000円割れ付近よりは堅調であることを頭に入れた上で。過去1年~2年間をさかのぼって、東証一部以外の指数を確認してみることにした。東証一部や日経平均そのものの株価動向に隠れてあまり報じられないが、これらの銘柄の下落動向が何らかの鍵を握っているかもしれないからだ。

まずは東証二部指数。

東証二部指数(過去2年間)
東証二部指数(過去2年間)

今年3月中旬の暴落時までには達していないが、ほぼそれに近い水準にまで落ち込んでいることが分かる。

続いてマザーズ指数

マザーズ指数(過去2年間)
マザーズ指数(過去2年間)
新興市場3指数は
下落する一方で
歯止めがかからない状態

直近で市場低迷を迎えた3月中旬以降も反発することなく下げ続け、1週間ほど前の7月22日に最安値を記録しているのが分かる。東証二部以上に下降スピードが大きいようだ。

ジャスダック関連の指数。J-Stock IndexとJASDAQ INDEXの二種類が存在するが、主要銘柄から構成される前者の方を確認してみることにする。グラフで適切なものが公開されていないので、去年3月以降の週足を用いた。

J-Stock Index(2007年3月~、週足)
J-Stock Index(2007年3月~、週足)

こちらもマザーズ指数同様、4月以降の復調の波に乗れずに下落を続けており、むしろ3月中旬の急落時以上の下げ幅を更新している姿が確認できる。

最後にヘラクレス指数。公式サイト上のデータが変則的なものだったので、SBI証券提供のツールを用いて表示させた。色調の都合から多少見難い表となっているのはご勘弁を。

ヘラクレス指数(2006年8月~)
ヘラクレス指数(2006年8月~)

去年の「サブプライムローン急落」の際にも「いつものように」下げ、その後一時値を回復。しかしそののちは今年1月の市場全体の急落にあわせる形で下げ、横ばい。春先にはやや持ち直すもその後は再び急降下を続け、現在算出来(年初来、ではない)最安値を更新中の状況にある。

「なりふり構ってらんないのよ」

株価下落イメージこれら中堅・新興市場の指数動向を見直して分かるのは、去年8月の「サブプライムローン急落」以降、日経平均株価そのものの値動きとは多少様相を異にする動きをしていること。特に新興市場3指数は、日経平均株価や東証一部上場銘柄と異なる形で「なりふりかまわず下げ続けている」ことが分かる。

理由はいくつか挙げられよう。市場全体の株価動向以外に、不祥事による株価の急落が新興市場銘柄には多いこと。景気の下ぶれによる影響は大手企業より(新興市場に属する)中小企業の方が大きく、下方修正が相次ぎ、結局それは株価下落にも結びつくこと。さらに昨今の不動産・建設不況に絡んで業績を落とす企業が、新興市場に多いこと。

そして何よりも(卵とニワトリの話となるが)、それらの状況を踏まえて個人・機関を問わず投資家が「ひとまず新興市場はアンタッチャブル(触れない方が良い)」と考える傾向が強まっていることだ。

ただでさえ市場全体が冷え込み、リスクが高まっている昨今。さらにリスクが高いと容易に想定できる、買い進める材料が「安い」という以外に見つからない新興市場に、手を出す判断を下すのは難しいといえよう。


話を元に戻すと、8月1日の時点で10社もの多くの上場企業が上場廃止規定に抵触するほど株価を下げている(=時価総額を落としている)のは、市場の資金が「不動産・建設などのリスクの高いセクター」や、「”地雷”の危険性のある中小企業」を避けて、「東証一部の、しかも値がさ株・大型株」に集中しつつある現状を表す一つの判断状況といえる。

市場全体に復調の兆しが見えてこないことから、これからますます資金の集中化と、新興市場からの資金の撤収の動きは進む。そしてそれに伴う新興市場銘柄の株価低迷・指数の下降や、今件のような「時価総額規定の抵触」企業が増えてくるものと思われる。

お宝イメージその一方、マザーズ・ヘラクレス・ジャスダックスの新興3市場に属する、それに加えて東証二部をはじめとした「東証一部以外の」銘柄の中にも、堅甲な値動きを示しているものは小数ではあるが存在する。それらも周囲に引きずられる形で多少値を落としてはいるものの、業績は堅調、財務状態も良好、事業内容も健全で将来性の高いという、まさに「お宝が周囲のどたばたに巻き込まれてホコリをかぶっている」銘柄が確実にあるのは事実。

もしその条件にかなう銘柄を見つけ出すことが出来れば、発見者にとっては言葉通り「お宝銘柄」となるに違いない。

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