主要テレビ局の収益構造を再点検してみる
2008年08月14日 08:00
先に【TBSの利益構造をもう少し詳しく調べてみる】で、【TBS(9401)】の利益構造が本来副業であった不動産業に重点が置かれつつあることについて触れた。今記事に対する意見の中に、「他の局はどうなのか」というものがあった。【フジテレビ(4676)】に関しては[このリンク先のページ(tbs.co.jpなど)は掲載が終了しています]でTBSとの比較対象材料として挙げたが、確かに他局の構造も気になるところ。そこで早速、TBSの「構造変化」とスポット広告の下落が顕著に見えてきた今年度第1四半期のデータをもとに、各社の利益構造を比較してみることにした。
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●日本テレビ:副業利益率高し
対象は前回の記事同様に上場テレビ局であり、キー局でもある5局。まずは【日本テレビ放送網(9404)】。なお各テレビ局毎にセクション区分や名称が幾分異なるが、大体はその名前から想像がつくとおりのもの。特記すべき場合はその都度解説を加える。
日本テレビの直近2年間における第1四半期・セクション別営業利益
日本テレビの直近2年間における第1四半期・セクション別売上高営業利益率
やはりテレビ放送事業の減少が目立つ。また、「その他事業」はサッカー収入やノベリティ、さらには各種不動産事業収入などを合算したものだが、この分野の利益率が高いのも注目に値する。利益そのものも昨年より増加している。
●TBS:不動産事業万歳
続いてTBS。詳細は先の記事にある通りなので、ここはグラフのみ。
TBSの直近2年間における第1四半期・セクション別営業利益
TBSの直近2年間における第1四半期・セクション別売上高営業利益率
やはり不動産事業の特異性が目立つ。
●フジテレビ:多方面事業化で苦戦
次にフジテレビ。多方面事業化が一番進んでいるように見える局だが……。
フジテレビの直近2年間における第1四半期・セクション別営業利益
フジテレビの直近2年間における第1四半期・セクション別売上高営業利益率
実はその「多方面事業」で意外に苦戦しているのが分かる。通販事業の「ディノス」も今年の第1四半期は黒字に転じているが、他局のような「副業の方が利益率が高い」という構造は見られないし、出版、広告、人材派遣、動産リース、ソフトウェア開発、新聞発行などの「その他事業」は採算がうまくとれないでいる。本業の放送事業との相乗効果を狙ってはいるものの、その効果が(少なくとも利益の面では)思ったほど現れない形だ。数年前に業態毎の相乗効果を高める思惑からライブドアとひと悶着あったり、手を結んだのも理解できる気がする。
●テレビ朝日:定期的ヒットセラーを生み出せれば……
【テレビ朝日(9409)】はある意味TBSと似たような構造を見せつつある。
テレビ朝日の直近2年間における第1四半期・セクション別営業利益
テレビ朝日の直近2年間における第1四半期・セクション別売上高営業利益率
先の記事にもあるように、「音楽出版事業」では“HY”“ケツメイシ”のアルバムやコンサートツアーなどが大きく貢献、「その他事業」では「相棒-劇場版-」が奮闘し、それぞれの利益を押し上げた。これらはそれぞれ単発のもので、例えば貸しビルの賃貸料のように継続した利益を上げ続けるものではない。しかし定期的なヒットテーマを生み出す「仕組み」を作り上げることができれば、大きく利益を上げ続けることだろう。
また、「テレビ放送事業」以外の利益率の大きさが際立っているのも特徴的。
●テレビ東京:経費削減効果は後期から
最後に【テレビ東京(9411)】。こちらも色々な意味で特異性を見せている。
テレビ東京の直近2年間における第1四半期・セクション別営業利益
テレビ東京の直近2年間における第1四半期・セクション別売上高営業利益率
テレビ東京では主事業の放送事業以外のジャンルをすべて「ライツ事業」におさめているが、それにしても「テレビ放送事業」の利益率の低さが気になる。これ以上低下すると、「主事業で赤字」という結果すら導きかねない。
短信では「大規模な経費削減などの改革を行い、後期からはその成果が見えてくるため収益構造は改善されていく」との文言が目に留まるが、制作費を減らすことで番組そのものの求心力が減り、それが回りまわってテレビ放送事業の収益にマイナス効果をもたらすのではないかと、少々不安ではある。
ざっと5局のデータを見比べてみたが、概要を箇条書きにまとめると次のようになるだろうか。
・各局とも主事業の「テレビ放送事業」の利益率が元々低く、昨今の広告削減でさらに利益、利益率共に減少の一途をたどっている。
・フジテレビ以外は「テレビ放送事業」以外の事業(副事業)の方が利益率が高い(儲けやすい)傾向にある。
・フジテレビは多事業化による相乗効果の構築がうまくいっていないように見える。
・「テレビ放送事業」の低下もあり、テレビ朝日もTBSのように「テレビ放送事業」と「他事業」とで双肩状態の財務体制を作れる可能性が出てきた。しかしTBSのように継続的な収入元を得ているわけではなく、CDやコンサート、映画などマルチメディアに大ヒットを飛ばせるような「仕組み」を生み出す必要がある(本来フジテレビが得意だったはずだが……)
・テレビ東京は抜本的な構造改革が必要。現在実行中で後期から効果が出てくる体質改善の効果が薄ければ、「テレビ放送事業」がさらに悪化することもありうる。
元々各局本業の「テレビ放送事業」は利益率がそれほど高いわけではなく、景気の変動など他要因に動かされやすい傾向がある。昨今の不景気に加え「広告媒体そのものの構造変化」(インターネットや携帯電話の普及)の影響をまともに受けた形だ。何も手を打たなければ恐らくはしばらくの間、収入は漸減していくことだろう。
各局の短信では収入の増加は見込めないことから、とにかく「経費削減」をスローガンに、徹底的なコストカットを図るとの文言が踊っている。確認する限り数字上も確かに経費は削減されつつある。
経費削減がどこまで収益構造の改善につながるのか、本当に「無駄な部分」のコストカットなのか、そして中長期的に見た質の低下をどこまで押さえることができるのか。今後の各局の財務的な発表資料にその成果が少しずつ反映されていくことだろう。
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