地方テレビ局の業績状態をグラフ化してみる……(3)「スポット広告の減り具合」とまとめ
2008年08月25日 08:00
地方テレビ局4局の財務諸表をグラフ化しながら、キー局とどのように状況が似ていて、あるいは違っているのかを見てみる企画パート3。最後に現在進行期(2009年3月期)の第1四半期データを元にした、主事業である放送事業に大きな影響を与えている「スポット広告」の変化と、全体のまとめ。【主要テレビ局の「スポット広告の減り具合」をグラフ化してみる】と同じ形式でグラフ化するので、比較してみると良いだろう。
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「スポット広告」と、それと相対する「タイム広告」については、上記のリンク先「主要テレビ局の~」に記載されているのでそちらを参照してほしい。要は「タイム広告は特定番組に一極集中、スポット広告は時間帯でばらまき型の広告」である。
さて、まずは現在進行期(2009年3月期)の第1四半期における、売上構成比(2008年度・2009年度)(スポット・タイム・その他諸々)の割合なのだが……実は今回ピックアップした地方局4局のうち、第1四半期決算短信において広告毎の比率を公開しているのが、中部日本放送と朝日放送の2局しかない。キー局では短信自身に記述が無くとも補足資料で説明がされていたのだが、それも見つからない。前期期末短信データには掲載されているが、特にスポット広告が大きくその数を減らした、今期に入ってからのデータでないと意味が無い。
今回の記事ではRKB毎日放送、新潟放送の2局については省略せざるを得ない。特にリストラの効果が絶大なRKB毎日放送の状況はどのようなものなのか見てみたかっただけに、公開義務が無いとはいえ、非常に残念だ。
第1四半期売上構成比(2008年3月期・2009年3月期)
元データはあくまでも「売上」であり、ここから諸経費が引かれてはじめて「利益」になる。利益率の違いもあり、これがこのまま「儲け」に直結するわけではないが、勢いを確認する指標にはなる。
キー局の場合は各局とも「タイム広告」がほぼ変わらず・「スポット広告」が大きく減じているという現象が見て取れた。しかし地方局では(2局しか分からないものの)「タイム広告」「スポット広告」共に大きく数字を減らしているのが分かる。
この現象がよく把握できるのが、次の「タイム広告」「スポット広告」の前年同期比。
2009年3月期・第1四半期におけるタイム・スポット広告の前年同期比
「スポット広告」の落ち込みはキー局とほぼ同等だが、その落ち込み具合に迫る勢いで、キー局ではほぼ前年比変わらずだった「タイム広告」まで落ち込んでいるのが分かる。キー局では唯一【テレビ東京(9411)】がこれに近い現象を見せていたが、それでもここまでの下落具合は見せなかった。
データを提示している局のうち中部日本放送では、放送事業の広告費における減少について次のようにコメントしている。
放送関連部門は、収入の大きな柱であるテレビスポット収入が、名古屋地区全体の広告投下量が減少する中で苦戦が続き、「食品・飲料」「サービス・娯楽」「金融・保険」など多くの業種で出稿が落ち込みました。
【テレビ局からスポット広告を減らした業種を調べてみる】でも触れているが、「金融」「食品・飲料」部門のスポット広告の出稿減現象は地方局にも及んでいるようだ。また、「タイム広告」の減少にはコメントがないものの、朝日放送では「ネットワークセールス不振によるタイム売上」という文言を見つけることができる。新潟放送でも
ラジオ広告の長期的な低迷に歯止めがかからないことに加え、テレビ広告においても、広告主企業における収益の悪化懸念や広告展開の構造的変化により、特に収益の主柱であるスポット広告への影響は大きく、極めて厳しい状況が続きました。
とコメントされており、「タイム広告」の状況は不明であるが「スポット広告」が大変な状況にあることが容易に推定できる。
グラフとしては最後になるのがこの「スポット・タイム両広告の、前年同期比の増減が今期売上に占める割合」。
スポット・タイム両広告の、前年同期比の増減が今期売上に占める割合
スポット広告の減少分が売上全体に及ぼす影響はキー局とさほど変わらない。キー局には見られなかったタイム広告の減少分が、そのまま地方局における負担増としてのしかかっている状態だ。
以上今記事も含めて3回に分けて地方テレビ局の財務状態をグラフ化してみたが、これらの図表から分かることは
・地方テレビ局におけるスポット広告の下落とその影響はキー局と変わらない。そしてタイム広告にも減少傾向が見られ、キー局以上の財務不安定化の原因になっている。
・RKB毎日放送は経費削減の効果が大きく発揮されている。
・財務規模そのものがキー局と比べて小さいため、社屋の移転やデジタル放送移行の準備など突発的な支出に対する耐性が小さい。
・一部地方局では放送事業、純利益の面で赤字を出している。早急な財務体質の改善が求められる。
などとまとめることができよう。
「スポット広告」の急激な減少はキー局における事情と同じ。つまりこれまでのテレビ局関連の記事でも触れているように、不景気が第一義的なもので、ついでインターネットや携帯電話などの(ばらまきという観点で特に)ライバル的な広告媒体に予算を奪われているのが要因(詳細は[このリンク先のページ(tbs.co.jpなど)は掲載が終了しています]の後半でまとめている)。
2局だけしか検証できなかったが、キー局ではテレビ東京のみに見られた「広告出稿の減少がスポット広告だけでなくタイム広告にも及んで」いたのが確認できた。これは注目に値する。恐らく今後、景気動向や広告媒体状況に大きな変化が生じない限り、キー局においても(テレビ東京だけでなく他キー局でも)タイム広告の減少が起きるものと思われる。
「ビックウェーブ」は
財務的にキー局よりも
いっそう厳しい
地方局からわき上がる
……かもしれない
また、キー局では(表面上は)ほとんど負担とされなかった、デジタル放送(地デジ)への移行のための設備投資が、地方局では相当な負担としてのしかかっているのが気になる。今回焦点を当てた期間では新潟放送のみが大きく影響を受けていたが、今後他局にも表面上に現れてくる可能性はある。
「地デジへの完全移行時期」とされる2011年前後に、テレビ業界に大きな「流れ」が起きる可能性が高い。そのことはこれまでにもさまざまなデータを元に、何度と無く触れてきた。今回の地方局の財務データを見ると、「ふところ事情」がキー局より厳しい立場にある、そして危機感も強いはずの地方局から、その「流れ」は生じてくるのかもしれない。そんな気がしてならないのは当方だけだろうか。
(終わり)
■一連の記事:
【地方テレビ局の業績状態をグラフ化してみる……(1)直近決算の比較】
【地方テレビ局の業績状態をグラフ化してみる……(2)直近第1四半期の成績直近決算の比較】
【地方テレビ局の業績状態をグラフ化してみる……(3)「スポット広告の減り具合」とまとめ】
(最終更新:2013/08/03)
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