猛暑で夏物商品の売上が伸びる…2008年7月分の景気動向指数は現状4か月連続・先行き5か月連続の下落
2008年08月09日 12:00
内閣府は8月8日、2008年7月における景気動向の調査こと「景気ウォッチャー調査」の結果を発表した。それによると、各種DI(景気動向指数)は相変わらず水準の50を割り込んでおり、さらに多くの値で昨月より悪化している。基調判断は先月の「景気回復の実感はさらに一段と弱くなっている」からさらに悪化する形の「景気の現状は厳しい」であり、また先行き判断も先月からさらに悪化しているなど予断を許さない状況にある(【発表ページ】)。
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●猛暑がかろうじて救いの手、か
文中・グラフ中にある調査要件、及びDI値についてはまとめページ【景気ウォッチャー調査(内閣府発表)】上ので解説済み。そちらを確認してほしい。
7月分の調査結果は概要的には次の通り。
・現状判断DIは前月比マイナス0.2ポイントの29.3。
→4か月連続の低下。「悪化」が増えている。
→家計はガソリンや身近な商品の値上げは継続しているが、猛暑で夏物商品の売上が伸びたことから上昇。企業は原油・原材料価格の高騰が続き、さらに受注の減少も一部に見られることで低下。雇用は新規雇用減少傾向が続くことで下落。
・先行き判断DIは先月比マイナス1.3ポイントの30.8。
→5か月連続のマイナス。
→身近な商品の価格上昇、原油などの上昇による消費意欲減退。今後の価格上昇継続の憶測や企業の倒産、雇用調整の懸念から低下強まる。
●2001年パターンを踏襲中・あと半年が踏ん張りどころ
それでは次に、それぞれの指数について簡単にチェックをしてみよう。まずは現状判断DI。
景気の現状判断DI
上でも触れているように、猛暑による消費促進もあり、住宅関連(暑いからといって住宅が売れるわけではない)以外は家計動向はプラスに働いた。神風ならぬ神猛暑到来、というところか。しかしその一方、不動産・建設不況の影響は住宅関連の数字にも表れている。また企業、雇用関連も引き続き大きな下げ。雇用関連は先月の下げ幅が大きかった反動か、あるは「これ以上下がりようが無い」という大底に近づいているからか、下げ幅を縮めている。
続いて景気の現状判断DIを長期チャートにしたもので確認。
2000年以降の現状判断DIの推移(赤線は当方で付加)
現時点ですでにITバブル崩壊後の不景気時期にあたる2002年~2003年(日経平均株価が7000円台を記録)の時期の水準に近い状態が続いている。2月から見せた反発の兆しも4月分で再び下落し、さらに7月分では6月分よりカーブはゆるくなったものの、降下が続いている状態。調査母体がこの表を意識していることはないだろうが、2001年後半につけた大底の水準にほぼ達する勢いといえる。今年3月の一時的な上げは2001年初頭の小型反発のそれに似ていることもあり、同様のパターンを踏襲する雰囲気。
・「雇用と全体の下落逆転」は
継続中。
・合計のDIは2002~03年の
不景気時代水準に近づく
→前回と同じパターンを
踏襲するのなら、半年前後で底か?
注意すべきなのは今年に入ってから何度と無く指摘しているように「前回(2001年~2002年)の急落時には、家計や企業、雇用動向DIにぶれがあったのに対し、今回の下落では一様に、しかも急速に落ち込んでいる」こと。景気状況がいっせいに悪化したことを表している。これも今年後半から急激に加速した資源高(特に「8.17.ショック」と呼ばれるサブプライムローン問題関連)が引き金。ただし資源高そのものはそれ以前から兆候が見られていたことが確認されている。やはり市場の大幅下落がビックインパクトとなったのだろう。
一方これまでの傾向として見られた「直近の最底値の際には雇用関連の指数が全体指数より下側に大きくクロスして落ち込む傾向」が3月では小規模ながらも見られ、4月以降継続していることが注目に値する。反転が行く先に期待できる「大底」時に見られる「全体指数より雇用指数が下回る」現象が継続中であることを見逃してはならない。
ただし直近の小反発(今年3月前後)の水準が前回よりもやや低めなこと、雇用関連がまだ(前回比で)高めなことを見ると、そのまま形をスライドして考えれば、合計の指数でももう一段の大きな下げ(つまり前回「以上」の不況感)が実現する可能性は十分にある。
景気の先行き判断DIについては、すべての値で先月比マイナスという豪快な結果が出ている。先の現状指数で猛暑により住宅以外の家計動向がポジティブに働いた関係もあり、小売・飲食・サービス関連の下げ幅は昨月と比べれば少ない割合。しかしそれ以外の項目では単なるマイナスではなく、昨月より下げ幅が加速しているのが見て取れる。
景気の先行き判断DI
家計動向の下落の度合いは下落幅が縮小したものの、ここ半年の間で最大級のレベルに変わりはない。先行きへの不信・不安感は猛暑の中でも変わらないようだ。特に飲食関連の値が30を切っているのが気になる。外食産業の低迷もこの数字に起因するところが一部はあるのだろうか。企業動向は製造業が再びマイナス。顧客関連は前回よりさらに下げ幅を拡大し、30を切る事態に。
2000年以降の先行き判断DIの推移(赤線は当方で付加)
当方の視力が確かなら、総合先行きDIはすでに2001年後半の最下方値に達している。しかし前回に見られた雇用関連の下ぶれがまだ継続する勢いであることを見ると、「現状判断指数」で触れているように、今しばらく下降は継続するようだ。つまり(消費者のマインドとしては)前回2001年の不況以上の辛さが待ち構えていることになる。これは2003年以降よく見受けられるようになった上昇・安定時の傾向「雇用指数が全体指数を大きく上回る」がまだ確認できず、クロス・逆転も起きていないことからも確認できる。
発表資料には現状の景気判断・先行きの景気判断それぞれについて理由が詳細に語られたデータも記載されている。簡単に、一番身近な家計(現状・全国)に関して事例を挙げてみると、
・猛暑の影響で、エアコンを中心に売上は好調であるが、気温に左右されない商品の伸びが悪い。特に、家電小物が不振で、結果的に来客数は減少している。パソコンも苦戦している(家電量販店)。
・雨が少なく高温のため水着の売上は堅調に推移している。通常期の商戦が苦戦した分、セールは堅調であったが前年並みであり、景気が良くなった実感はない(百貨店)。
・先日当地域で行われた朝顔市では、例年より集客は多かったが、購入段階になると財布のひもが固かった。従来だと2~3鉢買う人もかなりいたが、今年は1鉢しか購入しておらず、前年比で2割減少している(商店街)。
・車を販売する際に、燃費の説明にかなりの時間を取られるようになったほか、自動車離れを起こす客も増えている。さらに、盆休み前の整備需要もかなり減っている(乗用車販売店)。
・岩手・宮城地震の影響で宿泊客数が激減していたが、余震も収束に向かい、お盆以後の予約が入り始めた矢先に岩手北部地震が発生し、再び東北への旅行マインドは低下している。ガソリンの高騰と合わせて非常に厳しい状況にある(観光型旅館)。
・ガソリン価格の上昇に伴い、郊外店に来店する車が大きく減少した。また、生活必需品
を優先するため、本の購入を控える客が増えている(一般小売店[書籍])。
など、先月以上に物価上昇など現状を認識し、消費者が苦しい状態に置かれているのが分かる。自動車関連で消費者が神経質になっているようすや、書籍販売減退の一因が(インターネットによる通販に顧客を奪われただけでなく)「優先順位が生活必需品よりも低いため」という単純な要素にあることが見て取れる。
踏襲するのなら
今後半年前後に
「クライマックス」到来か。
しかも前回よりも
辛い状況の可能性高し。
掲載は略するが、企業部門のコメントでは現状・先行き共に「資源高」「注文量減少」「建築確認遅延」「求人減少」「値上げ」などのキーワードが乱舞している。また「借り換え」などの金融・金利関連の話や、減少ではなく「仕事が無い」「現場では人手が欲しいが人事部の許可が下りない」など、切迫した状況にあることをうかがわせる言い回しも見受けられる。消費者も企業も目の前にした実際の数字以外に心理的にも、「守りの姿勢」を維持しているようだ。
また雇用部門では民間職業紹介機関の「即戦力人材を求める声が高くなっており、企業も一度下げた採用条件を、高めに設定し直し始めている」という表現も目に留まる。人材育成費用もかからず、費用対効果の高い人材を穴埋めに用いる様相が見て取れる。
本文中でも何度か指摘しているが、今回の景気悪化が2001年から2002年にわたった景気悪化のパターンを踏襲するのなら、全体の指数の底打ちと前後して「大幅な雇用関係指数の下落・他指数との乖離(かけはなれること)」現象が見られるはずである。この予測が正しいとすれば(そしてそれは着実に裏づけされつつある)、今後しばらくは現状維持、あるいはさらに悪化度を深めた景気低迷状態は続くことだろう。あと半年前後の間に起きると思われる大きな山場まで、それこそアルマジロのように「守り」の姿勢を貫き、反転の時を待つのが賢い選択肢なのかもしれない。
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