10年で売上は書籍17.4%減、雑誌は24.4%減に~落ちる売り上げ・上がる返本率
2008年08月22日 06:30
7月24日に公正取引委員会で公開された著作物再販協議会議事録など(【報道発表資料ページ】)の資料には、音楽・出版業界などの著作権に関係する各種業界の最新情報が掲載されている。その資料によると。雑誌や書籍の販売額数は1990年後半をピークに漸減していることが明らかになった。特に雑誌の売上は直近20年間のピーク時から2割以上も低下している。また、返本率(返品率)が増加しているのも売上が落ちている一因であることが確認された。
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著作物再販協議会議事録の議事録付随資料には、1987年以降2007年までの、書籍や雑誌の販売金額数、及び金額に基づいた(冊子数ではない)返品率が記載されている。それをグラフ化したのが次の図。
書籍・雑誌の販売金額と金額ベースの返本率(クリックして拡大表示)
補足説明をいくつか。「販売額」は「出荷額」から「返品額」を差し引いたもの。つまり現在書店に在庫として残っているものも販売額に含まれる。また、返品率(返本率)についてだが、返本された書籍の大半、そして雑誌の一部は別書店などからの注文に向けられて再出荷されるので、「返本=廃棄」ではないことに注意してほしい。さらにこの数字は取り次ぎ経由のもので、ネット書店経由のものは含まれていない。も含まれている(※2008.08.22.資料再確認の上、訂正)
さてグラフをみると、書籍・雑誌の販売額はそれぞれ1996年・1997年をピークとし、漸減する傾向にある。それぞれのピーク時を100とした場合、2007年の販売額はそれぞれ83、76に過ぎない。要は「雑誌の2007年の売上はピーク時の1997年と比べて2割4分も減少している(3/4程度)」ということだ。
書籍・雑誌のピーク時の販売金額を100とした時の各年の販売額推移
比べると
書籍は4/5
雑誌は3/4に
販売金額数が落ちている
元々書籍と雑誌の販売スタイルや内容の特性上、書籍の方が返本率が高いのは理解できるが、書籍の返本率が4割近くに達しているのには驚きを隠せない。つまり本屋がある新刊を10冊書籍を入荷したら、そのうち4冊(分の金額に相当する書籍)は売れ残って返本扱いになるという計算。それでもピーク時と比べたらやや落ち着きを見せているのがせめてもの救い。
まだ書籍は上記の説明の通り、大半が別の本屋の注文に充てられるのでマシかもしれない。もっと驚くべき数字は雑誌の(金額ベースの)返本率。短い期間で次号が発売され、売り切りを前提とする雑誌(それゆえに返本の大部分は廃棄となる)の返本率が増加の一途をたどり、直近データの2007年では35.2%に達している。書籍のそれが39.4%だから、「雑誌にも関わらず書籍に近い(金額ベースの)返本率」を示していることになる。
機会を改めて記事化する予定だが、金額ではなく部数でも実情は似たようなもの。現状は特に雑誌において「発行部数は減る」「売りに出しても売れずに返本される」「営業成績が落ちる」「作っても売れないから、最初から発行部数を減らす」……という悪循環に陥っているように見える(もっともこれには一つトリックがあり、出版社では別方面の攻め方をしている。これも「別の機会(部数からの分析)」にて説明予定)。
ともあれ、書籍・雑誌共に1990年代後半をピークに売上は少しずつ減少の一途をたどっていることに違いはない。また、雑誌の返本率がじわじわと上昇しており、このままの傾向が続けば、あと数年で書籍と雑誌で返本率が(金額ベースでは)変わらない水準に達する。これはある意味、雑誌の販売スタイルが立ち行かなくなりかねない事態に陥ることを意味する。本屋にとっても、出版社にとっても。
実は2002年以降書籍の価格はやや下落する一方で、雑誌の価格は上昇する気配を見せている。金額ベースではほぼ変わらない返本率だが、部数ベースではもう少し両者の開きがある。
しかし雑誌の返本率が上昇を続け、書籍に迫る勢いであることに変わりはない。この「雑誌の返本率の高さ」が、中小の本屋や出版業者の経営状態を悪化させている一因ともいえる(本屋……返本が多い=場所の無駄、出版業界……返本が多い=利益率低下)。
先日[このページ(Sankei Webなど)は掲載が終了しています]で報じられていたが、小学館では一部書籍において「委託販売」と「責任販売」の併用を導入し、本屋に自由に選択が出来るようにしたという。要は
・委託販売……返本自由だが本屋の利ざやが小さい
・責任販売……基本的に買取。返本は出来ないが利ざやが大きい
(+事前発注なら確実に配本される)
のどちらかを本屋が選べる仕組み。元々「委託販売」は本屋の負担を減らすために導入された仕組みだが、出版社がそれどころではなくなったこともあり、試験導入されるとのこと。この方法なら、本屋の自己責任の比率は高くなるが、無駄(返本)は減らせるし、適切なマーケティングを行えば本屋側の収益上昇も期待できる。
朝早く駅のホームなどでシャッターが閉じている、あるいは開店準備中の売店を横切ると、「返本」あるいは「返」と書かれた新聞紙に包まれヒモでくくられた、雑誌の束を見かけることがある。これも出版社への返本の一部なのだろう。思い返してみれば、その量もいつの間にか増えているような気がする。
インターネット・携帯電話の普及で「文章を読む」スタイルも、書籍や雑誌を買うスタイルも大きく変わってしまった。そして現実問題として書籍・雑誌の販売は衰退を続けている。出版社、書店、流通はただひたすら機会の好転を待つより、何か手を打たねばならない時期に来ていることだけは間違いあるまい。
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