逆転する南北問題
2008年07月13日 12:00
歴史上の「南北問題」といえば「赤道をはさんで北半球側に集まる先進諸国が、南半球側に多い新興国・発展途上国から資源を安く買い集める交易スタイル」により、経済格差が広がるというものだった。しかしご承知の通り昨今では原油・穀物高により、「安く買い集める」どころか「高値でも買いにくい」状況が続いている。この流れをして「新たな21世紀型南北構造が登場」と分析するレポートが【日本総研によって提示された(pdf)】。
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詳細はレポートに目を通して欲しいが、要は高騰する原油・穀物などの一次産品のおかげでこれまで「買い叩かれていた南半球諸国のふところ具合が、輸出入のそろばん勘定においては結構良くなってきた」という話。さらに北半球の先進諸国側では、付加価値をつけた工業製品の価格上昇は「国際化」によって望めず、むしろ横ばいから下落する傾向にあるため、商品と貨幣のやりとりにおける「格差」が減少している。
工業製品の購入層は南半球諸国が(財力をつけ経済発展も果たすために)加わるために輸出量が増える向きもあるが、それも商品種類としては限定的。さらに自国生産力の乏しい国では「輸入する一次産品の価格が上がる(=所得が流出する)。輸出する工業製品の価格は上がらず数も少ないため、(発展途上国の経済発展の)メリットも享受できない」というダブルパンチを受けることになる。
各国の一次産品の貿易収支(対GDP比)
左側は一次産品における収支上プラス、右側にはマイナスの国が並んでいる。原油高騰でうるおう中東諸国や北欧・ロシア、穀物高騰で恩恵を受けている南米諸国が目に留まる。これらはかつての「南北問題」では「搾取される側」「損をしている側」と見なされてきたが、今やこれらの産出品においては「大いに儲けを出している側」となっている。
南北の交易上の立ち位置が
逆転している
ただし、原油も穀物も、「北側」こと先進諸国ばかりでなく、「南側」こと新興国・発展途上国でも消費するのはごく当たり前の話。しかも経済上発展途上にあるため、これら一次産品の価格上昇が(輸出ではなく輸入や消費において)与える痛手の割合も大きくなる。下手をすると経済成長率以上の所得流出が起きる場合もありうる。
さらに【産油国が「石油輸入国」になる日】でも触れているように、原油や穀物の高騰でうるおった新興国・発展途上国が経済発展を遂げると自国内でそれらの資源の消費量が増えるため、必然的に輸出量=交易利益が減少。成長がある点を超えた時点で輸出する余裕が無くなり、(経済は発展しても)それを支える貿易収益の原資が底を尽きてしまうという結果に陥る。このリスク(……というより「時限爆弾」)を現在資源高騰でうるおっている一次産品を輸出する各国は背負っていることになる。
同様の「南北問題の逆転現象」は6月30日に内閣府が発表した【世界経済の潮流】でも伝えられている。国際通貨基金(IMF)のデータなどをもとに算出したところ、2007年の1年間だけで日本は実に1965億ドル(当時レートから1ドル115円で換算すると約22兆円)もの実質所得が流出したことになる。輸出品の価格が横ばい、あるいはじり下げなのに対し、輸入価格が大幅に上昇したのが主要因。
交易利得・損失の分布(2007年、「世界経済の潮流」から)
日本とアメリカにおける交易条件の推移。「交易条件」の値は輸出価格/輸入価格で計算。日本は輸出品の価格が横ばいなので輸入価格による実質所得の流出をカバーしきれないが、アメリカはそれなりに輸出価格も上昇しているので「実質的な所得流出」額は少ない
この計算において、日本の流出量は世界最大。第二位は韓国の1156億ドル、アメリカは437億ドル、シンガポールが417億ドル、ドイツが219億ドルと続く。一方、流入はトップが中東(サウジアラビアやイランなど)で1571億ドルとずば抜けて大きく、次いでカナダが421億ドル、オーストラリアが409億ドルなどと続いている。このあたりの国の並びも日本総研のレポートと同様。
「世界経済の潮流」では昨今の資源高騰や流通資金量の拡大などを含めた現状について、世界経済全体の成長を支えるものとして評価しつつも、一連の金融信用収縮問題に代表される「金融信用市場の混乱と投機マネーの暴走」へ疑問符を投げかけている。そして「金融政策は困難な舵取りを求められるが、国際協調の下、ミクロ、マクロの総合的な政策運営が求められる」とし、各国間の国内事情の枠を超えた、国際的な政策決定と実行が求められる状況であることを伝えている。
要は「投機マネーが商品市場で暴れてバブルを生み出し、それが各国に混乱を招いてるから、世界の国々が一致協力して事態の収拾を図らないといけないね」ということ。各国とも政局は混乱気味であるし、それぞれの国の政府勢力内にも規制をするべき対象の政派(要は擁護派)が力を持っている向きもあるので、一筋縄では行かないだろう。
新たな南北問題と、その後ろに見え隠れしている投機マネーの生存理由(ただ収益を増やすことだけ)による暴走。これらの問題が解決できるか、少なくとも解消の方向にむけて歩き出せるかどうかか、直近の大きな経済上の課題といえるだろう。
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