自動車や飛行機から鉄道へ・燃料高で急増するアメリカの鉄道利用客数
2008年06月23日 08:00
原油高によるガソリン価格をはじめとした燃料費の高騰で、アメリカにおいて移動手段が自家用車や飛行機から公共交通機関にシフトしつつある傾向が見られることは【「自家用車からバス、鉄道へ」ガソリン高で変わるアメリカの移動スタイル】などで触れた。その傾向を裏付けるデータがまた一つ明らかになった。【NewYorkTimes】によると、今年5月のアムトラック(アメリカの「国鉄」こと全米鉄道旅客輸送公社)の利用客数は250万人を超え、長距離区間の利用客は前年同月比で15%もの伸びを見せたという。
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アメリカの「国鉄」の利用客数推移
緑色の路線が「The Northeast corridor」こと北東回廊線
上記図版は元記事のものを展開したものだが、通常5月はどちらかといえば閑散期にあたり、乗客数はさほど増えない傾向にある。しかし今年の5月は利用客数で直近2年間において最高の乗客数を記録してた。長距離区間は前年同月比で15.0%、短距離で14.0%。きわめて短い距離(日本なら山手線に相当する)を行き来する北東回廊線ですら9.2%の上昇率を記録している。
さらに特定区間の上昇率も記載されているが、目立つものをいくつか並べると、
・カンザスシティ~セントルイス間……+84.4%
・ラレー~シャーロット間……+40.3%
・ミルウォーキー~シカゴ間……+32.6%
・シカゴ~ダラス~ロサンジェルス間……+27.0%
など、場所によっては3割、4割、そして8割もの利用客増加が計測された場所もある。実際、最近では鉄道の利用客が増加している関係で、長距離列車の予約はいつも満席。「アムトラックは代わりにバス乗車券の販売をするだろう」という、本気なのかジョークなのか分からないような表記も元記事にはある。
客の増加で良いことずくめに見えるアメリカの「国鉄」事情だが、現実問題としてよいことばかりではないという話も伝わっている。簡単にまとめると次の通りとなる。
・路線が十分でない……自動車や航空機との競争で劣勢だった期間が長いこともあり、1960年当時と比べると路線は2/3に減っている。
・車両製造会社の減少……需要縮小から。急増したニーズに対応しきれない。
・車両の老朽化……現在623台の車両があるが、それ以上の数の車両が修理待ち状態。しかし費用が計上できない状態。運行中の車両も可能ならばすぐに新車両に差し替えが必要なレベルのもの。
・路線整備の政治的問題……効率化や拡張、整備のために路線図を引き直すことは、強固な労働組合とのいざこざを解決しなければならない。さらにその地域の「票田」を持つ政治家らが茶々を入れてくるため、一筋縄ではいかない。
・採算性の問題……採算がとれずに国の補助金で何とかやっている状態。補助金を削減すべきであるとする政治家も多い。
さらに燃料費の高騰は彼ら自身にも影響を与えている。実際に2004年と比べると予算全体に占める燃料費の割合は6%から11%に上昇という状況にある。
だがこれらの問題があってなお、アメリカの「国鉄」が注目されているのは、やはり燃料費全体の高騰に伴うコスト安があるからに他ならない。国立オークリッジ研究所(The Oak Ridge National Laboratory)によれば、1人・1マイルあたりの移動に要する燃料費や効率で考えた場合、「国鉄の鉄道」は自動車と比べて17.4%、飛行機と比べると32.9%少ない燃料で済むという。
日本の鉄道事情とは逆で、アメリカでは貨物輸送がメインで旅客輸送は「モノのついで」的な扱いを受けていた。しかし燃料費の高騰という情勢の変化により、その状況が変わる可能性は大いに考えられる。原油価格が高止まり、あるいはさらに値を上げれば、旅客輸送のニーズはますます増大し、重要性も増し、活性化も求められることだろう。
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