設問とアンケート内容で分かる、秋葉原の「あの事件」とマスコミの立ち位置
2008年06月14日 12:00
先に東京・秋葉原で発生した例の「事件」については、すでに多くの報道機関などが伝えているし、当サイトが取り上げるべき事象でもないのであえて触れずにいたが、一つピックアップしておかねばならないものが見つかった。先日[このページ(Sankei Webなど)は掲載が終了しています]で伝えられた記事とネット上のアンケートがそれだ。
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●ゲームとネットへの敵意むき出しな設問
元記事ではくだんの「事件」において、両刃のダガーナイフが使われたこと、犯行予告が携帯電話サイトで行われたことを受け、次のような設問をしている(6月14日時点)。
東京・秋葉原の無差別殺傷事件で、犯人が使用した両刃の「ダガーナイフ」は、ゲームソフトに登場するものでした。また、携帯電話のサイトに犯行予告をするなど、現代的要素を色濃く反映した事件となりました。
あなたは
(1)「銃刀法を見直し、こうしたナイフの売買、所持に規制をかけることに賛成ですか」
(2)「青少年に悪影響があるゲームソフトを取り締まるべきですか」
(3)「ネット掲示板への監視の目を強化すべきですか」
アンケートの内容はこんな感じ。YESとNOの二者択一しかない。
設問からして「?」マークを投げかけざるを得ない。確かに「ダガーナイフ」はゲーム中に登場しうるアイテムだが、ゲーム特異のものではない。例えば「魔法の●×スティック」など特定のゲームに登場するものや名前を冠したものを用いて、呪文でも唱えながら振り回していたのならともかく、世間一般に(広く、ではないが)存在するものを、さも「ゲームにあったから」と印象づける表現を設問に用いるのは、印象操作以外の何者でもない。
ここは本来「実際に存在するナイフでゲームにも登場していますが」としなければならないところ(そもそもゲームに登場するしないを聞いている時点でミスリードだが)。それを「ゲームに原因があるから」と後の選択で誘導するがために「ゲームに登場するナイフで実際にも存在しますが」と表現をすり替えてしまっているのが分かる。
また「携帯電話のサイト」云々にしても、現在は(犯行予告はともかく)若年層を中心に幅広い層で携帯電話のサイト・掲示板などを用いている。まさに朝ごはんをパンにするかご飯にするかの選択で、「パンにしました」という程度のものでしかない。
そこにわざわざ強調する形で、いかにも「携帯電話のサイトが問題だ」という表記を用いた上で、「ネット掲示板への監視の目を強化すべきですか」といった二者択一の選択肢による質問を見ると、「さあ、YESと答えてね、答えざるを得ないよね、そ・う・だ・よ・ねっ!!!」という設問側の歯ぎりまじりのプレッシャーすら感じてしまう。
設問側はそこまでゲームとネットに敵意を示したいのか、それともそうすることで「ウケを狙える」回答を導き出せると考えているのか。そのようなかんぐりすらせざるを得なくなってくる。
●誘導尋問とアンケートとジャンクデータと
世間一般に、このような設問の仕方は「誘導尋問」(印象操作)と呼ばれている(いまさら改めて言うまでもないが……)。例えば「カルシウム不足は次のような健康上の問題を引き起こします(以下略)」と直前に聞かされた上で「あなたは毎日不足しがちなカルシウムを補てんする錠剤が1日あたり10円で買えるとしたら欲しいと思いますか」とたずねられたら、単に「錠剤を欲しいか」と聞かされるより多くの人が「はい」と答えるだろう。
似たような(悪質な)例としては、霊感商法やSF商法などが、極端だが分かりやすい好例。それ単独ならちっとも欲しくないツボや高級(そうに見える)羽毛布団も、「あなたが不幸なのは前世の行いが悪いせい。でもこのツボを持っていればそれがつぐなえます」「(色々健康問題を説明して)ところがこの羽毛布団で寝ればぐっすりと眠れ、さわやかな朝を迎えられること間違いなし」と説明されれば、諸手を挙げて欲しがる人も出てくる。
誘導尋問はその度合いの多少はあれど、結構見かけられる話。設問側が気がつかないうちに誘導している場合もあれば、「こんな結果が出ないと、報告がしにくいな……」という事情から意図的に行われる場合もある。後者の場合は当然調査結果としての資料性はきわめて低くなり、ジャンクデータ扱いされても仕方がないものとなる。逆にいえば、ジャンクデータとならないよう、設問側はアンケートを設定する際には細心の注意を払わねばならない(これは当方自身も気をつけねばならないという、自戒の意味もある)。
●置き換えで分かる「意図」
今件のアンケートがいかに「誘導尋問」的なものであるかは、次の置き換えをしてみれば一目瞭然となる。
■1:
東京・秋葉原の無差別殺傷事件で、犯人が使用した2トントラックは、多くの企業が使うものでした。
↓
(2)「青少年に悪影響があるトラックの企業における使用を取り締まるべきですか」
■2:
東京・秋葉原の無差別殺傷事件で、犯人が使用した両刃の「ダガーナイフ」は、雑誌やテレビ、小説に登場するものでした。
↓
(2)「青少年に悪影響がある雑誌やテレビ、小説を取り締まるべきですか」
■3:
東京・秋葉原の無差別殺傷事件で、犯人は掲示板への書き込みの中で「ワイドショー独占」を夢見ていることを表明していました。
↓
(2)「青少年に悪影響があるワイドショーを取り締まるべきですか」
いずれも今件の事件における「事実」から作り上げた設問であり、(誘導尋問のあるなしは別として)なんら間違いは無い。……いかに今回の設問とアンケートが「異様なもの」であるかが分かるだろう。
逆にこのような置き換えをしてみると、設問側が何を考えているのか、どのような答えを導きたいのかがはっきりとしてくる。その意図が何を意味するのか、正しいのかどうかは別として。
事件そのものは不幸なことである。また、起きた場所が場所なだけに非常にセンセーショナルなものとして多くの人の目に留まっている。さらに今件では「状況」が多くの人の携帯電話によって撮影され、一般メディアより早いスピードで情報が展開されたことが、各方面に問題提議を起こさせる結果となっている。
例の「9.11.」事件を皮切りに通常のマスコミより早い、そして多種多様な情報展開が「ブログ」で行われ、ブログが広範囲に普及すると共にさまざまな討論が行われるようになったのと同じようなことが、今件でも発生するかもしれない(すでに起きているのかも)。
今件でも直接の原因の追求はもちろん、その背景にあるもの、そして「状況」の過程で起きたことを明確に見極め、正しい判断を下す必要があるだろう。「叩きやすいから」「分かりやすいから」「受けそうだから」とばかりに適当なターゲットを見つけて旗振りをしかねない人たちの声をどこまで聞き入れて、自分の判断材料とするか、一人一人の情報判断・分析能力が求められるといえる。
ミスリードによって「改正建築基準法」や「貸金業法」「金融商品取引法」のように、結局自分自身の首をしめかねないような状況におちいるのは、もう勘弁願いたいものだ。
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