ガソリン高騰で苦境におちいるアメリカの地方社会
2008年06月12日 08:00
アメリカ政府は6月9日付けで、アメリカ全土のガソリン(レギュラー)平均価格が前週比+1.6%の1ガロンあたり4.039ドルをつけ、初めて4ドル台(1リットル換算で113円程度)の大台に達したと発表した。これは11週連続の高値更新で、前年同月比では30%以上の値上がりとなる。実際の価格はともかく消費者に与えるインパクトとしては、日本なら「1リットル200円突破」に等しいものがあり、消費者を中心に不安が広まっている。特に国土面積が広く、移動機関や農作業用車両にも多くの燃料を用いているアメリカでは「地域社会に大きなダメージを与えかねない」という懸念が生じているとのこと(【NewYorkTimes】)。
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アメリカ政府発表の最新のアメリカ国内のガソリン価格などは【こちらのページ】で確認できる。アメリカ全体では前年から96.3セント(!!)値上がりして403.9セントという数字を確認できる。グラフを見ると去年10月以降急激な値上がりのカーブを見せていることがわかるだろう。
参照記事のNewYorkTimesでは昨今のガソリン値上がりで、特に地域社会においてコストがかさみ頭を抱えている人が多い様子が伝えられている。ただ記事内容そのものは個別案件の話が多く、参考にはなりにくいのでここでは省略する。むしろ注目したいのは、資料として提示されていた【ガソリン価格上昇の衝撃(The Varying Impact of Gas Prices)】というマルチメディアタイプの地図。
収入額に対するガソリン費用の割合
「Percent of Income on GAS」のタブは、収入全体に対するガソリン負担の割合。いわばエンゲル係数ならぬガソリン係数。この割合が高いほど、ガソリン価格の高騰へのダメージが大きいことになる。オレンジ色が濃いほど割合が高く、紫色ほど割合が低い。ざっと見ると東西沿岸部や五大湖周辺の工業地帯で割合は低く、南部・中央部で高いことが分かる。これは「ガソリン費用割合」が低いところほど周辺の都市化度が進んでおり、自動車を使う距離が短くて済むことや、大規模農業が行われていないことを意味する。
先に【アメリカのガソリンマップ】で、アメリカ全土のガソリン価格をマップ化したサービスを紹介したが、そこに掲載されていたガソリン単価図に近いものがこのマップ上のタブ「GAS Prices」をクリックすると表示される。
ガソリン価格動向
オレンジ色の部分が、うわさの「4ドル超え」エリア。先の地図同様に西海岸・五大湖周辺に集中しているのが分かる。特に西海岸地域の価格高騰は顕著で、4.4ドル超えの濃いオレンジ色地域が見える。最高値をつけているのはやはりカリフォルニア州のモノシティで4.79ドル、最安値はワイオミング州キャンベルの3.67ドルとのこと。
この二つのマップを比べて見ると、幸いにもというべきか、「ガソリンの費用割合が大きい地域で'比較的'ガソリン価格の高騰がおさえられている」ことが分かる。ただしこれはあくまでも「比率論・比較論」に過ぎず、実際にはガソリン価格の高騰が中央部・郊外地域・大農場により大きな負担が生じていることが分かるのが次の「平均所得(Median Income)」。
平均所得図
色が灰色のところほど所得が高く、オレンジの色が濃いほど所得が低い。ざっと見た限り、「ガソリン費用の割合の高いところ」「ガソリン価格上昇の度合いが比較的穏やかなところ」とほぼ一致しているのが見て取れる。所得の絶対額が低いところほど、金額そのものの余力も少なくなる。ただでさえ高い割合を占めているガソリン価格が上昇すれば、アメリカ全土の平均と比べれば上昇の度合いが低くとも、生活に与えるダメージは大きくなることは必至だ。
元記事では昨今のガソリン価格高騰で、特に農業地帯において農家の間にガソリンを調達するために借金をしたり、食卓で肉を楽しむことをあきらめたり、ガソリンの盗難事件が相次いでいることを伝えている。さらにこのような農業地帯では公共交通機関の普及が遅れているため、「ガソリン価格が高いので自家用車の利用を控え、鉄道やバスを利用しよう」という代替案が使えない場合が多いのも負担を大きくする要因の一つとして挙げられている。二次的な影響として、そのような地域では人々が外食を極力控えてしまったため、フライドチキンのレストランが休業してしまったことも描写されている。
バイオエタノールの原料となるとうもろこしの急騰で、大きな利益を得ている農家の報道が相次いでいるが、アメリカの農家すべてがとうもろこしを作っているわけではない。またとうもろこし農家のすべてが価格高騰の恩恵をうけているわけでもない(地主ならともかく小作農の人たちは費用ばかりかさんでいることだろう)。
このままガソリン価格の高騰が続けば、アメリカの地域社会そのものに大きな影響が生じることが懸念される。ただでさえサブプライムローン問題で少なからぬ人が住宅から追いやられ、地域コミュニティが瓦解する可能性が指摘されているだけに、そのリスクはますます高まっているのかもしれない。
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