食品価格の上昇はいつ止まる? 専門家曰く「しばらくはムリ」

2008年06月08日 12:00

アメリカの食品価格高騰イメージ【灯油+29.2、スパゲッティ+30.2%、即席めん+18.4%……必需品で急騰する物価】にもあるように、燃料費と共に食品価格が急騰し、家計がエラい状態になる人が増加する今日この頃。この現象は日本に限らず世界共通のようで、アメリカでも多くの人が食品の値上げに苦しんでいる。【USA TODAY】ではそのような状況について「しばらくは価格上昇傾向は続く」という専門家の声を紹介している。

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食品価格は過去20年間で最大の上昇率

通常食品価格は数年間のサイクルで上げ下げを繰り返している。1970年代は燃料費の高騰や供給量の減少、干ばつなどで価格が上昇し、その後最近まで安値安定傾向が続いていた。しかし昨今の価格上昇はこれまでとはワケが違うという。食品の小売分野を専門とするEdward McLaughlin氏はこの価格上昇が「新しい世界経済秩序に基づくものだ」と説明し、過去の事例のように「しばらく我慢していればじきに値が下がる、ということにはならない」と推測している。

「新世界経済秩序」における食品高騰の原因は次の2点。

・バイオエタノールによる「穀物の燃料化」
・新興国の高カロリー食品へのニーズの高まり


要は「世界中の人がぜいたくをしようとした結果」によるものだとのこと(石油の需要の高まりは生活レベルの向上によるもの。原油だけではまかなえ切れなくなったためバイオエタノールにも手を出したという解釈)。しかもこれらの要素が解消される兆しが見えないため、価格が下がる見通しも立たないとのこと。

アメリカの食品価格の急騰がどれほどのものか、具体例がいくつか元記事に示されている。

・食品全体では1年間で5%。これは過去20年間でもっとも高い上昇率。
・卵は1年間で30%、穀物は12%、焼き菓子の類は9%の上昇。
・2008年においては食品業界は4~5%の値上げを想定している。これは全体のインフレ率2.6%の約2倍に相当する。


現在のアメリカの一般家庭における、収入全体に占める食費の割合は過去50年の間では最低レベルで、約9%に過ぎないという。これは1950年代の21%から比較すると半分以下の水準。しかしだからといって、食品の価格の値上がりが家計に与える影響が小さくなる、というわけではない。食品価格は毎週のようにじわじわと上がり、しかもその値上がりをいたるところで目に留めることができる。実際の金額上だけでなく心理的な影響も大きい。

肉類は比較的値上げ幅が小さいように見えるが、彼らのエサとなる穀物(特にとうもろこし)が急騰していることを考えれば、大きく値上がりするのは時間の問題とのこと。豚肉や牛肉より穀物価格の変動に影響を受けやすい鶏肉が、すでに1年で4.6%上昇したことがその前兆だという。

とうもろこし業者への怒りと業者の反論

とうもろこしイメージ「そもそも口にすべきものを燃料にするから食品価格が上がるんだ」(とうもろこしそのものだけでなく、高く売れるとうもろこしを作るために他の穀物が栽培されなくなることで、間接的にも影響が生じる)という批判は世界各地でわき上がっている。しかし当然のことながら(懐が相当温かくなった)当事者たちはそのような批判を「的外れ」「不公平」だと反論する(よもや「その通りです」などと言おうものなら袋叩きにあうのは必至だから、同意するわけにもいかないのだろう)。

アメリカのとうもろこし生産者協会のトップいわく「食料価格の高騰には色々な原因がある。自分たちのせいじゃない。燃料の価格高騰と食品の需要増加が原因なんだ」と。「燃料価格の上昇はとうもろこしの価格上昇の3倍の影響力がある。何しろとうもろこしは2003年から現在までの間に、2.5ドルから5.65ドル(ブッシェル単位)しか値上がりしていないが、原油は11ドルから120ドル(バレル単位)まで上がったじゃないか」と。さらに燃料用だけではなく食用としてのとうもろこしもちゃんと一生懸命生産してる、努力はしているとのこと。さらにこの40年間でとうもろこしの生産効率は2倍に増え、あと20年もすればさらに2倍に増加するだろう、ともコメントしている。


とうもろこし業者の指摘の通り、燃料価格が上がれば輸送費や栽培の際の使用燃料コストも増えるため、必然的に食品価格も上がる。しかし単純な需給の関係にあるやりとりならば、価格が上昇すれば需要もある程度減少するため、一定の割合でバランスが取れることになる。ところがその燃料費の高騰に目をつけ、供給のバランスを崩す形で「従来食品にまわすべきもの」が燃料に回ってしまったがため、価格が急騰する現象がおきてしまっている。しかも「原油・石油価格高騰」「とうもろこしの燃料化が儲かる」「さらにとうもろこしの燃料化が進む」の連鎖反応が起きるため、誰もこのスパイラル状態を止められなくなってしまう。

天秤イメージ果たして「バイオエタノールを生産することで得られるメリット(石油製品、とりわけガソリン価格の上昇を抑える)」と「デメリット(とうもろこし自身だけでなく、とうもろこし増産のために割を食って減産される他の穀物の供給不足、それら穀物を飼料とする畜産品の供給量減少)」ではどちらが大きいのか。現状の生産システムでバイオエタノールを作らなければもっと原油価格は上昇し、それに伴い食品価格も上がったかもしれないが、需給のバランスが取れ、価格はじきに調整された可能性が高い。

少なくとも「食べ物の」とうもろこしを燃料化する現在のバイオエタノールの仕組みは、「神の手」なる需給バランスの天秤に、大きな重りをつけたようなものなのかもしれない。この重しが取れない限り、食品の価格高騰は続くことだろう。残念ながら。

ちなみにこの問題は当事者のアメリカの人たちにも大きな問題となっているようで、元記事では1日あまりの間に250件を超えるコメントが寄せられている。内容も多種多様でとても紹介しきれるものではないが、多くの人が「やっぱり何かおかしくないか? 誰かがこっそりと舌出して儲けてるんじゃないか??」というニュアンスの発言をしているのが気になるところではある。


■関連記事:
【ジュースの値上げ、非遺伝子組み換え食品の調達難~バイオエタノールの功罪】

(最終更新:2013/08/05)

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