2008年5月分の景気動向指数・現状も将来もさらに悪化傾向強まる
2008年06月10日 06:30
内閣府は6月9日、2008年5月における景気動向の調査こと「景気ウォッチャー調査」の結果を発表した。それによると、各種DI(景気動向指数)は相変わらず水準の50を割り込んでおり、さらにすべての値で昨月より悪化している。基調判断は先月同様に「景気回復の実感は極めて弱い」であり、また先行き判断が先月からさらに悪化しているなど予断を許さない状況にある(【発表ページ】)。
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●現状も将来も不安傾向強まる
文中・グラフ中にある調査要件、及びDI値についてはまとめページ【景気ウォッチャー調査(内閣府発表)】上ので解説済み。そちらを確認してほしい。
5月分の調査結果は概要的には次の通り。
・現状判断DIは前月比マイナス3.4ポイントの32.1。
→2か月連続の低下。「悪化」「やや悪化」が増えている(※下落傾向強まる?)
→家計はガソリンや身近な商品の値上げ、さらには天候不順も追い討ちをかけネガティブに。企業は原油・原材料価格の高騰が続き、さらに受注の減少も一部に見られることで低下。雇用は新規雇用減少傾向が続くことで下落。
・先行き判断DIは先月比マイナス1.0ポイントの35.1。
→3か月連続のマイナス。
→身近な商品の価格上昇、原油などの上昇による消費意欲減退。今後の価格上昇継続の憶測から懸念強まる。
●現状・先行き判断共に下落傾向強まる
それでは次に、それぞれの指数について簡単にチェックをしてみよう。まずは現状判断DI。
景気の現状判断DI
家計動向関連は押しなべて軟調。先月発表分では一部で「下げ幅は誤差の範囲」にとどまっていたが、今月発表分では大幅な下落傾向を見せている。家計・企業共に先月から3ポイント~4ポイントの下落はかなりのボリューム。唯一雇用関係が1.7ポイントのマイナスにとどまっているのが不幸中の幸い(?)か。
続いて景気の現状判断DIを長期チャートにしたもので確認。
2000年以降の現状判断DIの推移(赤線は当方で付加)
現時点ですでにITバブル崩壊後の不景気時期にあたる2002年~2003年(日経平均株価が7000円台を記録)の時期の水準に近い状態が続いている。2月から見せた反発の兆しも4月分で再び下落し、さらに5月分でその流れが加速した雰囲気。調査母体がこの表を意識していることはないだろうが、2001年後半につけた大底の水準に迫りそうな勢いである。ちなみにその動きが現実のものとなれば、3月の一時的な上げは2001年初頭の小型反発のそれに似ており、その後直近の最低値に向けた動きを踏襲するようにも見える。
・「雇用と全体の下落逆転」は
継続中。
→直近はともかく将来には
希望が見える「下げ」か。
注意すべきなのは今年に入ってから指摘しているように「前回(2001年~2002年)の急落時には、家計や企業、雇用動向DIにぶれがあったのに対し、今回の下落では一様に、しかも急速に落ち込んでいる」こと。景気状況がいっせいに悪化したことを表している。
一方これまでの傾向として見られた「直近の最底値の際には雇用関連の指数が全体指数より下側に大きくクロスして落ち込む傾向」が3月では小規模ながらも見られ、4月分に続き5月でも継続していることが注目に値する。反転が行く先に期待できる「大底」時に見られる「全体指数より雇用指数が下回る」現象が確認できたことは心に留めておく必要がある。もう一段落、雇用指数に大きな下落が見られれば、高い可能性における底打ちを確認できるのだが。
景気の先行き判断DIについては、先月より悪い数字が出ている。先月大幅な下落を見せたサービスが反動からかプラスに転じているが、その分住宅関連の下げが著しい。また、先月はプラス、あるいはプラマイゼロを記録していた企業動向関連指数もすべて、しかも家計指数以上の下げ幅を見せている。
景気の先行き判断DI
企業動向の下落の度合いはここ半年の間で最大級のレベル。先月の「もうこれ以上悪くなる事はないだろう」というあきらめ感、あるいは商品価格への反映で何とか乗り切れるかも、という思惑・想定をはるかに超えた状況悪化に、将来を悲観する思いがそのまま現れたのかもしれない。
2000年以降の先行き判断DIの推移
5月は現状判断も先行き判断も下落している。先月示唆したように、2001年頭のような「微妙な上昇をしたあとに急速に下落する」というパターンを踏襲しそうである。2003年以降よく見受けられるようになった上昇・安定時の傾向「雇用指数が全体指数を大きく上回る」がまだ確認できず(それどころか大きく悪化している)、クロス・逆転も起きていないので、先行き判断指数から見ると「直近における景気感の底打ち」は先送りになりそうだ。特に企業の現状・先行き感が大幅に下落しており、需要や原材料価格など複数の要素で厳しい状態が継続しているようすをうかがわせる。
発表資料には現状の景気判断・先行きの景気判断それぞれについて理由が詳細に語られたデータも記載されている。簡単に、一番身近な家計に関して事例を挙げてみると、
・たばこ自動販売機にタスポが導入され、多くの客がコンビニに来店するようになっている。ついで買いでちょっとした商品も売れており、売上が伸びている(コンビニ)。
・食品類の値上げが本格化するなか、低価格品を中心に扱うスーパーへの来客数が着実に増えている。単なる安売りでなく、安心や安全をイメージさせる商品を安く売ることが好調につながっている。販売価格の値上げも徐々に浸透している(スーパー)。
・ガソリンを含む「物価高」の影響で遠出を控える風潮が広がっているが、当施設においては「遠くなので控える」客も「近くなので出かけた」客も共にいたのか、来客数はほぼ前年並みであった(テーマパーク)。
・海外旅行の予約が低調である。原油価格の高騰に伴う燃油サーチャージの再値上げと中国の四川大地震の影響で、遠距離のヨーロッパと中国への旅行を控える客が増えている(旅行代理店)。
・ゴールデンウィーク以降、母の日の動向が悪く低迷している。客単価が上がらず来客数減と合わせて厳しい。特に婦人衣料の動向が悪い(百貨店)。
・石油を始めとしてじわじわ上がる物価に、生活防衛意識が強くなっている。気温が一時的に上がったことで春物にブレーキが掛かり、その後寒さが戻ったため夏物も動かないが、「今更春物でもない」という感覚で、来客数は驚くほど落ちている(衣料品専門店)
など、先月以上に物価上昇など現状を認識し、消費者が苦しいながらも節約に努めている様子が分かる。また、別所の月次報告などで指摘されている「タスポによるコンビニへの客の流れ」「スーパーなどによる低価格だけでなく安心・安全のイメージ戦略」などの傾向がこちらでも確認できたのは興味深い。
踏襲するのなら
今後半年前後に
「クライマックス」到来か。
掲載は略するが、企業部門のコメントでは現状・先行き共に「資源高」「注文量減少」「建築確認遅延」「求人減少」などのキーワードが乱舞している。特に職業安定所の「企業は求人募集を続けているものの、採用基準を以前より高めに設定し、慎重に採用選考を進めている。これが一時的な動きかどうかは判断が難しいが、過去の傾向では今のような状況が数か月続いた後、求人数が急減するケースが多い」という、経験則から来る「今後求人数が急減する」予想が目に留まる。
本文中でも何度か指摘しているが、今回の景気悪化が2001年から2002年にわたった景気悪化のパターンを踏襲するのなら、全体の指数の底打ちと前後して「大幅な雇用関係指数の下落・他指数との乖離(かけはなれること)」現象が見られるはずである。この予測が正しいとすれば、今後半年前後の間に大きな山場を迎えることになるかもしれない。
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