「静岡県にたばこ愛煙家が多い」という件について

2008年05月21日 19:35

たばこイメージ先に【日本一のヘビースモーカーな県は●●県】でファイザー製薬の発表資料を基に「静岡県の人がもっとも喫煙に対する執着心が強い」旨の観測記事を掲載したところ、いくつかの意見をいただくことができた。今回はフォローアップとしてそれらの意見や提示資料を基に、さらに考えてみることにする。

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元の記事の資料は5月16日にファイザー製薬が発表した、日本人のニコチン依存度に関する調査結果(【該当リリース】)。この資料の中で「たばこがいくら値上げしても絶対に禁煙しない」と回答した層が他県と比べてずば抜けて多い20.5%という値を示していることや、その他4項目で特異な数字が出ていることから、「静岡県には強固な精神力を持つ愛煙家が多いのでは」という話だった。

「100件ではデータが少ない。たまたまでは?」

【ソーシャルブックマークnewsing】で寄せられた意見として、「イタリアに似ているネ」という話の他、次のような話があった。

各県100人ね。サンプルが偏ってる可能性大。(blastydotさん)


似たような話は【「連鎖共振反応」と「あり得ないこと」の積み重ね……現在の金融信用不信の原因】でも多少触れているが、これはサンプル母数の数や標準偏差についての話と絡んでくる。当サイトは数学専門サイトではないので詳細は略するが、たとえば【A&Tの説明ページ】では、「精度管理の考え方なら100~200、その他の考え方なら100~400が(母集団に近しい結果を出すために抽出する)最低限のサンプル数として必要」と説明されている。

極論として母体数同様、今件の場合なら静岡県の喫煙者全員に各種質問をして回答を求めればよいのだが、それは事実上不可能な話。そこでサンプルをいくつか抜き出して、「それらしい」答えを出すというのが数学的な考え方だ。各県100のサンプル数では指摘のあったように、もしかすると「かたよりが生じていた」かもしれない。しかし1つの項目だけでなく、5項目において似たような傾向が見られるのは、やはり「かたより」「偶然」として片付けるのは少々難しいような気がする。

もっともこの疑問も、来年再度ファイザーが同じような調査を行い、再び「静岡県に特異データが見られる(あるいは他県と同じだった)」ということになれば解消されるのだが。こればかりは現状では分からない。

「静岡県の喫煙率自体はそれほど高くない」!?

続いて参考データを提示してくれた人もいた。

参考までに → http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/c-hoken/03/hyo2.html このデータでは、静岡県民の喫煙率自体はそれほど高くないです。タバコリスクに対する意識とか、公衆衛生の観念が浸透してないんじゃないですかね? 東京みたいに、周辺の人が迷惑がったり、路上や公共の場所が禁煙になったりすれば、禁煙しようとする人も増えるはず。(uetamさん)


データの提示は正直ありがたかった。しかし逆引きしたところ、提示データより新しい最新データを見つけることができたので、そちらを活用させていただくことにする(【平成18年度地域保健・老人保健事業報告の概況(2008年3月28日)】)。このデータ中、【喫煙率】を見てみると、

■全国平均
・喫煙率
 ……男性28.5%(20本以上15.8%)
 ……女性6.0%(20本以上1.8%)

■静岡県
・喫煙率
 ……男性25.2%(12.3%)
 ……女性6.8%(1.5%)


という数字が出ている。女性はやや大きめにみえるがそれでも特異な数字ではない。

さらに総務省の【家計調査の最新データ】から「たばこ」の支出額を抽出すると次の通りとなる。

・全国平均……1万4343円
・静岡県静岡市……1万3561円
(トップは神奈川県川崎市……2万4805円)


といったように、静岡県のたばこ支出(≒消費)量は全国平均よりむしろ少ないという値が出ている。さらに静岡県では三島市や熱海市「熱海サンビーチ」で「歩きタバコの禁止条例」が施行されるなど、公衆衛生の観念が浸透していないようにも見えない。啓蒙が足りてないようには見えない。

これらのデータから見る限り、販売数や条例の範囲において「静岡県に喫煙万歳的な雰囲気」を助長するような場の空気がただよっている裏づけは何一つ見つけることができなかった。考えられるとすれば、数字には表れない(あるいは今回見つけられなかった)何かが作用しているのかもしれない。


「各県100件というサンプル数が少ないのでは」という疑問には「統計学上はぎりぎり許される下限」「多少のぶれは生じている”可能性”はある」という一応の回答を出すことができたが、「静岡県にヘビースモーカーが多いらしい」という理由そのものはファイザーのレポート以外には結局数字上からは見つけることができなかった。少々口惜しいものがある。

今後も喫煙に関するデータはちょくちょく目にするだろうから、そのたびに今件のことを気に留め、静岡県と喫煙家との関係を探ってみるつもりではある。もし読者の中に「これが原因では?」という心当たりがあれば、ぜひ教えてほしい。


(最終更新:2013/08/06)

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