「緊急地震速報」の限界と期待

2008年05月21日 12:00

地震イメージすでに何度も報じられていることで耳にした人も多いだろうが、昨年10月1日から気象庁では「緊急地震速報」を配信している。先月末の沖縄県宮古島近海地震や、今月頭の茨城県沖地震では、推定震度の誤差やゆれが始まってから速報が流れるなど、一部で失望や「税金の無駄使い」という声が聞かれる始末。しかしこれらの意見は半ば以上筋違いであり、誤解に他ならない。気象庁では【まとめページ】を作り、さまざまな情報を展開し、啓蒙活動を続けている。

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緊急地震速報の仕組み
緊急地震速報の仕組み

上記図解やまとめページなどに目を通してもらえば「緊急地震速報」の仕組みが大体お分かりいただけるはず。要は「P波(初期微動)のゆれのあとにS波(主要動)のゆれが発生する」という地震の特性を活かし、可能ならばP波が達する前、それが無理でもS波で大きなゆれが生じる前に警戒を発しようというもの。情報の伝達そのものにも時間が必要なため、ある程度のタイムラグが生じるのは致し方ないところ。

注意してほしいのは「地震そのものの発生直前の予知・予告」ではなく「(地震そのものはすでに発生していて)地震波の到着の予測」であるということ。「税金の無駄使い」云々と主張している人のほとんどが、おそらくこの勘違いをしているがためと思われる。地震発生のメカニズムそのものがまだ解明されていないのだから、地震の完全な予知などできようはずもない。あくまでも「緊急地震速報」は被害を最小限に抑えるための仕組みなのだ。

「緊急地震速報」の弱点と出来ること

地震波のタイムラグを利用する「緊急地震速報」。その弱点は、今回相次いだ「大きなゆれが生じてから速報が流れた」などのように、情報が間に合わない場合もありうること。情報を受け取って警戒情報として配信するまでには、どうしても時間がかかる。その時間よりも実際の地震波が到達するのが遅ければ、速報としては有効なものになるが、地震波到達の方が早ければ今回のような事態に陥ってしまう(また、直下型地震の場合も対応しにくい)。

震源地に近い地点では
「緊急地震速報」は
有効に働かない。

逆に考えれば「緊急地震速報」が有効なのは、震源地が目的地点より遠い場合。震源より遠ければ遠いほど、S波が到達するまでには時間がかかるので、その分速報が流れるまでに余裕が持てる。

震源が目的地点(たとえば都心部)に近いかどうかは、地震に聞いてみなければ分からない。そもそも仕組みからして距離と時間差を利用するものなのだから、あらゆる場合に対応すること自体無理がある。むしろ有効に働く「可能性が十分にある」だけでも大したものだと見るべきだ。

震源地と受信地域の距離がある程度離れていれば、「緊急地震速報」が発せられてから大きなゆれのS波が到着するまでに、数秒から数十秒の猶予が与えられることになる。人間の対応は難しいかもしれないが、機械に仕組みを施すことで自動化すれば、さまざまな対策をとることができる。

緊急地震速報を用いた機械的な対応
緊急地震速報を用いた機械的な対応

数秒のタイミングで地震に先んじて対応をとれば、地震に対する被害を数分の一、さらには数十分の一に抑える可能性すらある。特に交通機関や燃料関係(ガス・電気)などへの対応は、人的・火災面での被害を格段に減少させる効果がある。

震源地から遠ければ、速報から地震波の到達までにある程度時間が得られるため、人間でもそれなりの対応が出来る。次の動画はその好例。


新潟県中越沖地震で緊急地震速報受信の事例

タイムスタンプなどを見る限り、本格導入の前の試験導入時に「実働した」時のようすを撮影したようだ。「新潟中越沖地震の緊急地震速報を東京で受信した様子。約45秒の猶予」と説明にあり、震源地からの距離では非常に有効に働くことが分かる。


繰り返しになるが「緊急地震速報」は地震予知ではなくて地震波到達予告に過ぎない。そしてその仕組み上、タイムラグから「地震のゆれが生じたあとに速報が流れる」というお間抜けな結果に終わる場合も少なくない。それでも現行のシステムと科学技術の中で、一定の条件下ではそれなりに「備え」ができる仕組みを構築できたことを賛美することこそあれ、非難する言われはどこにもない。

リスク管理は「起きうる可能性をひとつひとつつぶしていく」ことから始まる。オール・オア・ナッシングではない。そのことをよく頭に入れた上で、「緊急地震速報」を再評価すべきだろう。


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