不景気で削れるもの、削れないもの……アメリカ人の場合

2008年04月28日 06:30

節約イメージ【「エビアンを止めて水道水に」「本は買わずに図書館で」~米消費者に浸透する「トレードダウン」や「節約心」】【この頃アメリカで流行っている「トレードダウン」という考え方】にもあるように、実質的にリセッション(景気後退)に突入しているアメリカでは、一般大衆のレベルで積極的な節約生活が推し進められている。食品やガソリンなど耐久消費財の値上げはその節約をさらに加速させ、不景気にも強いはずの日常分野の商品業界にも打撃を与え、経済そのものを弱めさせつつあるというレポートが【USA TODAY】紙に掲載された。元記事の原題は「People's decisions to cut back add up to weaker economy」、つまり「人々の節約は経済をより弱くさせる」というものだが、日本にも当てはまる部分がちらほらと見られるのでここに紹介しておくことにしよう。

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「消費のベルトを締める」アメリカ人

元記事では雇用問題や不況、そしてガソリンや食品の高騰から、アメリカ人は消費を抑えるようになったとした上で「節約しようという個人の考えと実行は、経済にとって大きなインパクトとなりうる(Each person's decision to give up something and trim spending can collectively carry crucial implications for the economy.)」と語っている。なぜなら国の経済活動全体を示す国民総生産(GDP)は、個人消費の集合体に大きな影響を及ぼすといえるからだ。それゆえに個々の人々の消費性向は国そのものの経済動向にとって重要な要素となる。

「消費の権化」とすら言われていたアメリカ人がいかに節約志向に走っている(走らざるを得ない状況におちいっている)かについて、さまざま例が挙げられている。以下はその一部。

・国民の60%は、現状は自動車や住宅などの高価な商品を購入するのは好ましくないと考えている。一年前の数字48%から大きく上昇。
・過去6か月間の買い物の傾向は「欲しかったものより必要とするもの(娯楽品より生活必需品)」と回答した人が53.6%。
・「消費を止めるよりむしろ消費を'削る'段階にきている」(消費者や小売業のリサーチ会社NPDグループ談)

消費者は不景気の前に「ベルト」を締めている
消費者は不景気の前に
「ベルト」を締めている

・3月の売上計測データによると、売上減少は家具、衣料品店、住宅供給小売業、電気製品、家庭用器具店、建築材料、健康分野、ガーデニング、美容院など、生活に身近な分野にまで及んでいる(政府の報告書から)。
・「新しい洋服は買わないわ。今持ってるものを着こなすの」(アラバマ州のClanton氏)
・「人々はすでに持っているものをチェックした上で本当に足りないものだけを、さらにバーゲンセールで購入するようになっている」(BGIresaerch社のアナリスト)
・雇用条件は悪化中。失業率は5.1%に上昇。これは2005年の台風被害における雇用不安時の時の値に近い。
・食料品やエネルギー、サービスの価格高騰は給与へ大きな痛手を与えている。物価上昇率を考慮した労働者の平均週間収入は279.80ドルで、これは昨年同月比1%のマイナス。さらにガソリン価格も上昇を続けているので、実質手取りは今後さらに少なくなる。
・住宅の資産価値は下落を続けており、ローンを組みにくくなっているので、高額商品の購入や借り入れが困難な状況に。
・服飾品、室内の装飾品、ちょっとぜいたくな飲食品、レストランやファストフードでの食事(具体例としてスターバックスの事例も挙げられている)、映画や美術館・コンサートなどの分野が、節約の対象となりやすい。


これら周囲環境の悪化に対し、消費者のほんどは何もすることができない(ガソリン価格の高騰や住宅価格の下落に、個人の手腕が何らかの影響を与えられるわけではない)。そこで消費者は手身近なところで消費を抑え、対処しようとしている。その行動パターンを原文では「いつものようにショッピングカートを満杯にしても、レジにつくまでにほとんどの物を戻してしまう」と説明している。

そしてその節約傾向は、一般消費財に携わる企業に大きな痛手を与えるだろうとコンサルティング会社のCandace Corlett氏は分析している。「元々原材料費の高騰で、消費財の生産業者は利幅を狭めざるを得ない状態にある。その上で消費が減るとなれば売上がさらに落ちてしまい、それらの企業そのものの経営状況と経済全体に悪い影響を及ぼすだろう」。

消費が減らない、あるいは逆に増えている分野も

スキンケアイメージ一方で、携帯電話やケーブルテレビ、健康分野の方面における消費は「今風の生活に欠かせないもの(new essentials)」として節約の上でも順位が後回しにされ、消費が続けられる傾向にある。よほどの事がない限り、この3分野における「節約」は最小限にとどめられることだろう。

さらに政府の最近の報告書によれば、バーやレストランの売上が伸びている事、さらにスポーツ用品や趣味関連、書籍、楽器など一部の娯楽品では大いに売上を伸ばしていることなどが報告されている。また、「テレビゲーム」「おもちゃ」「スキンケア製品」の3分野が、不景気や節約時代においてももっとも強い、つまり「節約の対象から外れる」商品分野であると分析するアナリストもいる。

具体例として「どんなに節約せざるを得ない状況になっても、ヘルスクラブの会員資格は維持したいね。何しろ健康であることは重要なんだから」とコメントする読者の声も原文では寄せられている。


今回の元記事では特に、低価格の耐久消費財の分野ですら節約の対象に当てられている様子が報告される。スタバもそうであるし、元記事以外にマクドナルドですら3月の売上は前年同月比で減少している(【ロイター伝、4月23日付け】)。

一方で以前【非農業部門雇用者数データにみるアメリカ経済の現状】)で雇用状況からアメリカの「不景気における現状」を斜め見した時にも現象として現れていたように、「教育・医療」「レジャー・接客」分野は強い値を示していた。

株価は一時的な安定傾向にあり、5月からは「戻し減税」による消費性向の向上も期待できる。しかしその一方で肥大化する金融市場の暴走気味な投機マネーの動向、サブプライムローン問題から派生した金融信用不安などはまだ未解決のままである。今後も不安定な経済動向が続くことだけは間違いあるまい。

そのような中で節約志向がさらに強まるものと思われるアメリカ経済においても、今記事に挙げられたようないくつかの分野では飛躍的な伸びが期待できると思われる。そして景気回復の兆しが見え始めたころには、それらの成長分野が他の分野を引っ張る牽引車的な役割を果たすに違いない。


(最終更新:2013/08/06)

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