【更新】「オイルマネー、いらっしゃい」海外投資家課税見直しの動き
2008年04月21日 12:00
[日経新聞]は4月15日付けで、政府が「海外企業・ファンドから依頼された業者が日本国内で資金運用する場合の課税」について今年度から見直す、と報じた。日本と「租税条約」を結んでいない国が日本に投資する際のハードルを低くし、投資を呼び込もうという狙いがあるようだ。
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●「租税条約」とは
【財務省内租税条約の概要ページ】によれば、「租税条約」とは二重課税を防ぎ、両国(この場合は日本と対象国)間の投資をしやすくするために設けられた条約。元記事の事例にもあるように、「外国の投資や政府系ファンド(SWF)、投資ファンド、企業などの委託を受けて日本で資金を運用する」業者が得た利益に対し、現行では法人地方税・法人事業税を含めた法定実効税率により40%もの法人税が日本国内で課せられてしまう。さらにこの収益を自国へ送金して精算する場合、自国でも税金がかかる場合もある(「自国」側が「あなたの利益はうちの国での利益とみなして課税しますよ」と主張した場合)。
各国の資金運用依頼側にすれば「せっかく日本で運用して儲けても、日本で税金取られて自国でも税金取られるんじゃ、二度取り(二重課税)で甘みが少ない」ということになり、投資意欲そのものへの意欲が減退してしまうのは誰の目にも明らか。たとえるなら、給料をもらっても会社から振り込まれる段階で消費税が差し引かれ、さらに銀行から引き落とす際に再び引き落とし額に応じて消費税がかけられるようなもの(投資家諸氏なら「配当の二重課税」にたとえた方が分かりやすいだろう)。
二重課税と日本国内での投資資金の運用
このような「二重課税」の状態は、日本にとって短期的には税収の増加が期待できても、中長期的に見れば投資魅力が減退するため、マイナスであることに違いはない。
そこで特に経済交流度が高い場合や、企業の競争バランスや所得水準、投資が加速した場合の「日本の国益」などを配慮し、特定の国とは「租税条約」を結んでいる。「租税条約」を結んだ国との間では税務当局間で協議や調整が行われ、お互いの国で資金のやり取りによって利益を得た場合、その人が「二重課税」を受けないような措置が施される。要は(日本にとっては)「お金を持っている国なら大歓迎です、二重課税のハードル無くすので、どんどん投資してくださいね」ということ。
●「租税条約」調印国とそうでない国は……
表向きは「お互いにお金(特に投資資金)の行き来をしやすくしましょう」、実情は「(お金持ちなら)もっと日本に投資して」というのが日本にとっての「租税条約」なのだが、日本が現在調印している租税条約相手国は56か国。
日経の元記事を読む限りでは「租税条約の調印国を増やす」ではなく「租税条約を結んでいない国でも、一定条件を満たせば租税条約を結んでいるのと同じ効果(つまり二重課税はしない)」を政府側では検討しているようだ。
この政策が実現した場合、恩恵を受けるのは「現在日本と租税条約を結んでいない」国の中で、日本に投資をしうるお金持ちの国。逆にいえば、そのような国の投資を呼び込もうという意図で、政府がこの政策実施を検討していることになる。さてその国はといえば……。
最新データにおける租税条約調印国
【財務省データ】に日本と租税条約を結んでいる国の詳細が記載されている。【石油の世界地図】と比較してみると、ロシアやアメリカ、中国などは該当しているものの、中東の石油産出国がすっぽりと抜けているのが分かる。中東地域で該当するのはイスラエルとエジプト、トルコのみ。
つまり今回の政策方針は、他でもない「オイルマネー」を日本に呼び込もうとしてのアクションと考えられることになる。
「オイルマネー」といえば、アブダビ投資庁のような政府系ファンド(SWF)や、個人(王族、大富豪)レベルでの投資話が相次いで報じられている。日本でも【イスラム投資家向け株価指数「シャリア指数」採用銘柄一覧公開開始】にあるように専用の指数を配信し、投資を誘っているが、思ったほどの投資実績は上がっていないようだ。昨今の日本の株価が低迷している他に、今回取り上げた「二重課税」の問題がハードルの一つになっていることは間違いあるまい。
今回の「オイルマネーを主に対象に、特定条件を満たせば租税条約と同じような効力を持たせ、二重課税を無くす措置を実施する」という政策見直しが、具体的にどのような条件になるのかは現在のところ不明。よってどれほどの実現度があるのかは分からないし、仮に施行されたとして、中東地域のオイルマネーの勧誘にどれだけ成果をもたらすのかも分からない。さらに、二重課税とはいえ法人税額が減る可能性のある財務省筋からは、反対の声も上がるだろう(投資額全体が増えれば、結局財政はうるおうのだが……)。
とはいえ、政府側がこのようなアクションを起こしたことは十分評価に値することも事実。政策の具体案の提示やその実現を注意深く見守ると共に、大いに期待したいところだ。
(最終更新:2013/08/09)
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