【更新】「学校長期休校」が新型インフルエンザの拡大に一役買う? 英仏の研究グループ発表
2008年04月13日 19:30
[読売新聞]が伝えるところによると、鳥インフルエンザから発現しうる新型インフルエンザについて、流行が終息するまでの長期にわたって該当地域内の学校すべてを閉鎖することにより、患者数を最大で4割、総患者数を13~17%減らせるという予想結果がイギリスの科学情報誌「ネイチャー」によって発表された。あくまでも「最大値より多少減らせる」という程度でしかないが、事態が起きた時の選択肢として注目されている。
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元記事の記述から概要をまとめてみると次の通り。
・検証は普通のインフルエンザの患者について、学校が休暇期間中の患者数などの記録から行われた。そのデータを元に深刻な影響を及ぼす新型インフルエンザについて予測。
・結果として、ピーク時に患者数を39~45%、18歳未満(学生)に限れば47~52%減らせる。
・期間全体でも総患者数を13~17%、18歳未満なら18~23%減少可能。
・よって休校措置は患者数の減少と医療機関への負荷軽減をもたらす。
元記事では最後に「ただ一方で、それ以外の対策の必要性も明らかになった」として、「学校休校だけで問題がすべて解決するわけではなく、手段の一つに過ぎない」と述べている。要は【患者数2000人突破・ことしも「はしか」流行のきざし】でも触れているが「体力が大人より低い子ども」が「大勢特定箇所に集まる」という特殊空間を作り出す「学校」は、感染性の病気にが広まるには絶好の場に他ならず、そこを閉鎖することで感染ルートを一つ減らせるという考え。春先に「はしか」が流行した際に学校・学級閉鎖が行われているのが良い例だ。研究ではこれを地域的・国家的に行おうというものである。
●「学校長期休校」には問題点も
一方詳細が語られている外国メディアの報道([ロイター伝][CTV.ca])などによると、状況はそう簡単にいかない。元記事の「ただ一方で」が深刻な問題であることが分かる。
ロイター伝ではまず最初に「感染期間中の学校休校は感染スピードを遅くするかもしれないが、研究者が考えていたほど大きな効用はもたらさない」とし、これまで「学校休校がかなりの効果をもたらすものだろう」という推定があったこと、その推定が半ばくつがえされたようなデータであったことを伝えている。
実際に1918年に発生した世界規模で発生したインフルエンザでは、アメリカにおいて「素早く閉鎖・休校(と公的な場所での集会を禁じた)措置をとった都市は、そうでない都市と比較して最大50%もの被害者数の減少という成果が得られた」というデータもある。もし実践されれば先の検証通りの効果が期待できること自体は違いない。
「毎日が日曜日」となる。
しかも外へ遊びに行けない。
↓
共働きの家族には
「誰が子どもの面倒をみる?」
という問題が生じる
しかし(減少率についても日本国内の報道とほぼ同じだが)「実際には子どもを長期間学校に通わせない上で『隔離』するのは難しい」とし、他人との接触を図らせないようにしないと、思ったほどの成果は期待できないとしている。要は多くの共働き夫婦にとって、子どもが長期間自宅に閉じこもっている状態(パンデミック状態で「外で遊びなさい」と命じるのはオススメできない)を維持するのは、非常に困難であるということだ。
学校あるいは保育所に子どもを行かせることにより、朝から夕方までの間、子どもの面倒を見る必要はなくなる。食事のことも考えなくとも良い。共働き夫婦も子どものことを心配しなくてもすむ。しかし新型インフルエンザの流行で政府などから「学校長期休校命令」が出た場合、子どもにとっては「毎日が日曜日」となる。
これでは日中誰もいない自宅に子どもだけを放置することになり、親にとっても気が気ではない(核家族化が進んでいなければこのような問題も発生しないのだが……)。学校からの隔離が長引くと「政府からの通達に逆らう形で」保育所などに子どもを預けてしまうかもしれず、それが結局感染対策を台無しにしてしまうかもしれない。
報告書ではこのような状況を警告すると共に、本当に「学校長期休校」をパンデミック(大流行)時の政策として行うのなら、何らかの手段をあらかじめ講じておく必要がある、としている。
●「対策」の「対策」も想定する必要がある
年明けにNHKで放送された、新型インフルエンザのパンデミックを想定したドラマ[感染爆発~パンデミック・フルー]では、専門家の広域拡大対策案に対し「法的根拠が無い」「経済的損失や市民に与える影響が大きい」「責任は誰が取る」などの反対意見が相次ぎ、結局有効手段が打てずに感染が拡大していくという状況が再現された。
影響を与える「対策」には
「対策」の「対策」も必要
今回発表された「学校の長期間閉鎖」という手法も、論理上は感染拡大を和らげるという点で非常に有効な手段の一つと思われる。しかし同じく指摘される「与える影響の大きさ」「被害を受ける人たちへの救済手段(この場合は共働きの家族が抱える育児問題への緊急対応)」などをあらかじめ講じる・用意しておかないと、机上の空論と化してしまう可能性が高い。あるいは実施されても骨抜きとなってしまうだろう。
事案が発生した時に素早く決断できる政治力・行動力が、関係者に求められるのは当然のこと。それにもましてあらかじめその手段が取れるだけの、法的根拠のための法整備と強制力の裏づけ、今件で指摘されたような「措置が行われた際に発生しうる問題点への対応」も各国政府に求められよう。
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